第1章 1節 『覚醒する夢』

 『突然ですが、あなたは今いじめを受けていますか?』と言われたら自分、竹崎優は即答で答えられる―【はい】しかも、クラスのみんなから遠回しにいじめを受けている状態です。苦痛で死にたいと思うほどに・・・でも、誰も自分のSOSには気が付いてもらえず、ただただそれを耐える毎日が来るだけです。中学二年生になりその直前にクラス替えで、ほとんどの人が初対面の状況で誰が自分の癖を卑下するつもりで皆に話したのがきっかけでいじめに発展した。思春期の子には人と違う癖が一つでもあると【アイツは変な奴】【アイツは全てが変】と、どうしても自分よりも相手が弱いと下に見てしまう悪い部分がある。それに一度その状態になってしまえばなかなか元の状態には戻りにくい。

 世間一般の話で『いじめられる子には悪いけど、その子にも非がある』とよく聞くが本当だろうか?誰かに多種多様ないじめが存在する中でも『非と呼ぶもの』は数えるほどしかないのが事実。誰もが1日精一杯生きているのにどうでもいい事でそれを邪魔する行為は決して許される行為ではない。


 そのいじめは学年が上がっても変わらなかった。元々この学校はクラス替えが毎年行われているわけではなく、二年生の時に一回だけやったクラスで卒業まで一緒になる。だから、初対面の時点で悪い噂などが流れれば、それを払拭するのにどれくらいの時間と労力を使うのだろうか?考えただけでもゾッとする。

 そんな耐えるだけの生活に転機などなく暗い学校生活を送っていた時、体育の授業時間中にそれは起きた。うちの中学校の生徒の多くが何らかの球技や体を動かす部活を盛んにやっており大会等で賞を取るほどの実力者も中にはいた。しかも、自分の世代は頭で考えるよりも体を動かす方が得意な人ばかりで、体育の授業になるとそれが顕著に表れる。あまり球技が得意ではない人とバスケットボールのチーム編成を取る際は明らかに不均等なチーム編成になってしまうことも度々あった。今回も授業内容がバスケットボールで使えない人(自分)を入れてのチームになった。今回はある程度均等なチーム編成になったのかと思ったが、実際やってみると相手チームは全員経験者の上、全員結構乱暴にボールを扱う人たちで審判員もそれらを忖度する形で見て見ぬふりをするばかりだった。そんな折、たまたま使えない人(自分)にボールがやってきてしまった。ただ残念なことに味方にボールをパスしたいが、誰もいない。それを見た相手チームの一人がやって来て自分を無理やり押し倒しボールを奪っていった。その際に「邪魔、さっさと消えて」と言ってきた。倒れた衝撃で自身が掛けていた眼鏡のフレームが少し曲がったほどだ。流石に仮にも同年齢でその態度にカチンときた。その瞬間から記憶が飛んであんまり覚えていないが、授業終了を知らせるチャイムの音でようやく我に返ると、先ほど自分に汚い言葉を発した人が倒れていた。その人以外にも多くの生徒たちが汗を滝のようにだらだらと流しながら倒れていた。唯一コート上で立っていたのは自分だけ・・・まだ自分の意識では「何がどうなっているのか」わからない。けど、目の前で倒れている人は立っている自分を見て恐怖と言うべきか恐ろしいものを見るような感じでこう言った。


 『化け物』


 翌日から自分を見かけるだけで舌打ちや陰口を余計に叩かれるようになった。クラスからますます孤立し始めた中、夢を見た。その内容はとある研究所に自分が居て、自分に一方的に話しかけてくる人がいた。ただそれだけの夢である。なのに、その人の言った言葉は夢であるのにかかわらず現実味を帯びていた。

 「君はこの世界の意味を知る。今のところはこの世界とあの世界は並行ではなく直線上になっている。いずれ並行になるかもしれないが、その時には私は居ない。君は唯一の成功例。烈火と同等かそれ以上の素質を持つ、故に自分は君に託す。


 【人知れず輪廻から外れた者へ】


 ・・・・君に逢えて良かった。」

 途端に後ろから銃声が聞こえた。その夢から醒める直前に自分の頭の中へとんでもない情報量の塊が何者かによって叩き込まれた。いきなり海の底に勢いよく沈められた感じで、体が水圧でぐしゃぐしゃになるような痛みが頭を支配する。まともに息ができない、ようやくそれらの呪縛から解放された頃には夢から醒めていた。

 「一体、自分は何の夢を見ていた?」

 自分に自答すると頭の中で誰かが言った。

 『それは覚醒するための夢で君は選ばれて覚醒者になった』

 「へぇー」

 『同時に私たちも君預かりになったので、よろしく』

 「・・って私たち⁉」

 『そう、私たち』

 変な夢で覚醒者と呼ばれる者になり、頭の中では色とりどりの人格が出現した。これからどうしたものか・・・意外にも冷静な自分がいた。

 この日から彼らとの共存生活が始まった。

 『案外、冷静だね』

 「そうでもないよ。周りからしたら立派な変人の類、第一君たちの声が自分にしか聞こえない。その上、君たちにこうして話すのに何故周りに聞こえるように喋らないといけないのかが謎だよ。」

 『それは・・・まだ覚醒者として経験を積んでいないからだと思う』

 「ふーん。じゃあいずれは言葉を発せずに脳内で処理できる日が来ると・・・」

 『おそらく』

 「ともかく早くその状態になってくれると助かる。このままでは修学旅行までもが灰色一色になってしまう。」

 登校中に独り言のように言いながら学校に向かう。その間、色々と彼らの話を聴いた。彼らには名前が存在しないことや元々人間であったこと等々今に至る経緯を話してくれた。それから、これから多分起きりうる事態もあらかた教えてくれたが、平穏とはかけ離れた状況になるらしく今のままでは修学旅行もまともに参加できないかもしれないと断言してきた。

 『断言しといて言うのもアレだけど、生きていたらの話だから』

 「と言うと?」

 『敵が君を野放しにしてくれるとは思えない』

 「それは闘うしかないの、手段的には?」

 『対話ができる相手が来襲すればいいけどね、まず無理でしょうね。君は根が優しいからどうしても闘う意志が無いのは致し方無いけど、それは覚醒者にとって致命傷になる。”慣れろ”とまでは言わないけど心の準備だけは常に用意した方がいい』

 そう言われても覚悟なんてできない。彼らの言う通り心の準備だけはしておこう。だけど、心の底では【きっと対話できる敵が現れるはず、殺さず生きる方法もきっとある】と思いたい。戦いが始まる前まで・・・


 修学旅行の計画をクラス全体でしようとした時だった。ふっと窓の外を見た。ここ三年三組は校舎の三階にある。屋上を除けば最上階に位置するのだが、三階の窓枠からギリギリ見えるか見えないぐらいに人の足が見えた。何かの間違いと判断しても良かった。しかし、脳内にいる彼らの話を参考にするならそんな存在が居てもおかしくない。もう既に敵の方が何倍以上も強い感じしかしない。こちらを視認把握されれば攻撃されると思い、そろりと座っていた椅子を後ろに下げた時違和感しかなかった。それは自分しかそこにいなかったからだ。

 「あれ?みんなはどこに?」

 『バカ野郎‼声を出すな!』

 突如として校舎全体が横に揺れた。窓ガラスの割れる音と共に物凄い風の音で何がどうなっているのかわからなかった。

 『説明する暇がねぇー身体借りるぞ』

 「え?」

 咄嗟にその轟音の風の中から逃げた。すると、今さっき居た自分の場所からめりめりと音を立てて校舎のコンクリート破片が剝がれていく。もう三年三組の教室は見る影も無かった。

 『ふ~何とか撒いたか、しっかし本当に殺しにかかっている。やべぇなマジで』

 「(そんなにやばい状況なの?)」

 『ああ、優が言っていた言葉が通じる相手では無いし、ましてや話に応じることも無い。最初から相手はその気は無いらしい。残念だがここは闘うしかない』

 「・・・・・」

 『どうした?ビビったか?』

 「(いやぁ、それしか無いのなら闘うよ)」

 覚悟を決めたと云うよりも消去法で闘うしかないと悟ったようだ。

 「(でもどうやって?)」

 『それを今から考える』

 今いる場所は校舎に隣接する特別校舎の二階にいる。校舎の二階部分は先生たちがいる職員室や保健室などがあり、特に二階の特別校舎の中は基本生徒立ち入り禁止区域でもある。けれど、今は誰もいない。いないはずなのにコピー機は何かを刷っている途中で静まり返った校舎に機械音だけが響いていた。そのおかげで自分の足音はその機械音によってかき消されていた。それによって敵の攻撃も襲ってくる気配も皆無と思った矢先、耳にモスキート音を傍受した。

 「何かくる」

 『何が?』

 その音は時間と共にどんどん大きくなっていく。何かが近くいるようだが、それが一体何なのか全く見当できない。恐る恐る音がしている方向に目を向けると、そこには超高速回転する二つの刃物が校舎を無造作に壊している様だった。

 「なんだよ。アレは・・」

 『恐らく敵の武装の一部じゃないか?』

 無造作に壊されてた構造物はなんとか倒壊だけは免れているが、いつ倒壊してもおかしくない。いつアレがこちらに向かって攻撃してくるのか分からない。ただ先ほど聞いた音とは今聞いている音が微かに違うのを優は気がついた。しかし、それだけでは闘える要素にはならない。かと言ってそれぐらいしか変わった様子がない。しばらくして微々たるその音の変化がくっきりとした音の変化に変わってきた。時折、刃物同士がぶつかって破損する音や「バッキーン」と大きな音を出し始めた。遂には錆びついた切れの悪い音まで聞こえるようになり・・・

 「何がどうなっている。勝手に壊れた。どう思う?」

 『うーん。確かなことは言えないが敵の武装の劣化速度が桁を超えているようだ』

 「劣化速度?」

 『簡単に言ってしまえば【最大威力のまま維持が出来ない】ってことかな・・・刃物系で普通の攻撃をしても刃が欠けたりはしないだろう?けど、最大威力を連続で使用したら反動で刃毀れするか最悪折れる。つまり、ここで言う劣化とは反動で出るマイナス部分。そのマイナス部分の速度が尋常じゃない程早まっている』

 「要は武装の寿命が早くなってきているってこと?」

 『うん。大体合っている。でも一つオカシイな点がある。さっきも言ったけど【維持できない】のは普通ではあり得ないんだ。劣化速度もそうだけど、武装の特性を敵に教えているようなもので、敵は自身の武装に対して知識が無いか乏しいに等しいかもしれない』

 だとしたら・・・・敵本来の攻撃手段は素手?



 敵が優の所に来る前の話に遡る。

 敵軍の某研究所において【サンプル対象:竹崎優の殺処分案件】が議論されていた。その議論の席には敵の大将:烈火の姿もあった。当初の議論には烈火の席はなく、研究所の責任者たちだけで指示を出していた。しかし、今回のような事態は初めてであり責任者たちも大変驚いていた。

 「今回の殺処分のサンプルについては、全て俺が指示を出す。」

 「‼」

 「異論はあるか?」

 「いえ。ありません」

 「では、今ここの研究所で使用可能なサンプルを使用する。まずは小手調べといこう。」

 そう言うと烈火はここに現存するサンプルの一覧を見ながら「コイツでいい。ついでに武器も用意してやれ、準備出来次第攻撃開始せよ。」

 「御意」


 【サンプル名:オルト】

 備考:覚醒者になり損ねた失敗作の一人。覚醒時間不足で人格崩壊のため、単調な言葉使いしかできない。ただ瞬間攻撃力では失敗作の中でも攻撃特化の覚醒者を凌ぐ。

 最新武器を装備している間。このサンプルに烈火は充分過ぎる殺気で「相手さえ殺せないサンプルには用はない」と非情とも思える言葉を掛けた。すぐに殺気を消して、非情な言葉を掛けた同じ人とは思えない言葉を言い放った「要は勝てばいい。相手の首を持ってくる覚悟で行ってこい!」

 鼓舞と言いたいところだが、最初に言った言葉しかこのサンプルには伝わっていない。烈火様はどういう気持ちで最後の言葉をこれに掛けたのだろうか、知る者は誰も居ない。サンプルの眼にはどう映ったのだろうか、あの世界でもいずれ神に取って代わる存在に推薦されたのは嬉しいだろうか、正直言って捨て駒にしかならないと思っていてもおかしくない。けれども、これにはそこまでの思考回路は持っていない。だから、サンプル:オルトの眼を見る限り『殺す覚悟よりも殺される恐怖の方が勝っている』ようにも見えた。ちなみにオルトに装備させる主な武器は斧。この武器の中には斧以外にも日本刀や小型の飛去来器が一緒に装填されている。どんな敵相手にも対応できるようなっている。今回に限って敵の非武装状態が想定され仮にこちらの武器を奪取される危険性もあった。しかし、基本的にこちら側が殺されることは無いと考えた。それは敵:竹崎優の覚醒者としての経験の無さが主な理由だ。万が一、武器を奪取され『相手を殺す』状況になった時、常人ならば「人を殺める恐怖」と相まってその武器の重みがより一層実感し持つことさえできない。ましてや敵はまだ中学生、その覚悟があるとは到底考えられないからだ。


 敵の元へオルトを転送し終わったと同時期に【烈火様の処から青空様が完全に離反した】と情報が上がった。上層部も寝耳に水で烈火様に直に問うと「ああ、本当だ。アイツなりに考えた末のこと『もしこちらに牙を向けてくるなら容赦ない』とも青空には伝えている。」理解した上での離反、今の立場でも烈火様に刃向かうのは無理があると青空様も充分理解しているはずなのに・・・烈火様は【青空の離反について】は認めたがそれ以上の事は決して話さなかった。




 ずっと校舎の中に居て外の状態まで把握していなかったが、外は嵐そのものになっていた。敵による無作為攻撃で環境が変化したとも思えた。あまりにも強い力は外部環境をも一部変換させることがあると聞く。どんどん不利的状況に傾いているようには正直自分は感じられなかった。逆に今いる敵と自分以外にも誰かがこのことに関与している可能性をわずかながらに感じていた。当然ながら校舎の窓ガラスを雨風が強く打ってくる。普通なら『窓ガラスを破壊し兼ねない雨風』なら恐怖を持つのかもしれないし、それが敵の攻撃だとしたら尚更。でも、その時の自分は恐怖さえも感じずその上でこの雨風に対して【優しい】感覚を覚えたからだ。

 「あのさ、自分も敵みたいに雨風を操れないのかな?」

 ふっと思った事を彼らに言ってみた。

 『いやぁ~それは無理だろう。それらを使役するには適性と熟練度が必要』

 「でも、この環境下ならできるんじゃない?たしか青と緑の人は『水属性』と『風属性』の適性を持っていたって言ってたよね?」

 覚醒した際に無数の人格が自分の中にはある。分かり易くするためにその人格たちには色を模してある。その色に合わせたのかは分からないが、それぞれに適性された属性があった。青は水関連、赤は火関連、緑は風関連、黄は電気関連等々があり、色を模した彼らは生前それらの属性を最大限使役していたらしい。

 『それは昔の話。今はそれらを使役・行使できる力は無いに等しい』

 「仮に自分の身体を貸してもダメか?」

 『適性外の身体を使用した場合、最悪その身体は壊死する可能性が大いにある。そんな危険は冒せない。特に共存状態である今の状態では・・・』

 「だからだよ。君たちが僕の身体と共生共存関係になっている時点で『最低限の適性』は出来ていると思う。ならこの体が壊死する可能性もかなり低いのでは?それにその力を使うのは一瞬だけだよ。」

 『それは・・・どういう意味?』

 敵の攻撃手法がどういったものなのか、まだ全貌が見えない中で勝機を見出すのは無理がある。それなのに優は何を見出したのだろうか?




 「テキ・・・どこ・・ころす、てき・・・ドコ、コロス」

 オルトは片言でも本来の目的を自分の言葉で理解していく。その中で烈火様に言われた言葉を思い出す「殺せないサンプルは要らない」つまり【殺傷能力が健在なら今まで通り生きることが許される】その為なら誰が相手でも殺す。

 その【生きる】為の執念が敵の僅かな殺気を捉えた。殺気だけで何処にいるのかすぐに把握した。オルトは研究者らから貰った武器に渾身の力を溜める。この武器には力を媒体して風を圧縮する機構があった。敵に放った最初の攻撃はオルト自体の力は反映されておらず武器そのものの力だった。

 「死ねええええええええええええ―」

 轟々とした中でも彼の声は敵である優にハッキリ聞こえるものだった。と同時に殺気がした場所目掛け渾身の攻撃が当たる。奇しくも優はその場所にいた。他の人格たちが「危険だから」と諭しても応じずわざと殺気を出し相手の出方を見た。渾身の攻撃範囲は敵を中心として特別校舎全体を網羅していた。風や暴風程度では学校の校舎はびくともしない。だが、人以上の力で圧縮された風はいとも簡単に校舎を砂状に変えていく。中に居るであろう敵に到達してこの攻撃で死ぬまでさほど時間は掛からない。先ほどみたいな殺気は敵から感じられない。巨大な力の前にして絶望したのか、抵抗する気すら起きないようで圧縮した風に校舎ごと呑まれていった。攻撃が止んだ後特別校舎があった場所には大量の砂が山積していた。オルトは敵の完全な死を確認するために肉片を山積した砂から採取できるか試みた。けれど、いくら探しても人間の肉片は確認できなかった。あの状況では脱出できたとしても瀕死の状態に近いはず・・・こちらと戦える力は無いと考えていいだろう。なんせ敵は回復手段を持ち得ていない。オルトはこの空間内で多少の力を使用した、それに伴い体力も少し減ったので研究所から【念の為の】回復薬を貰っていた事を思い出し、早速それを飲んだ。




 「痛ってて・・流石に体中傷だらけになっちまった。ひとまず助かった、ありがとう。」

 『やれやれ』

 優たちはあの校舎から北西にある雑木林まで敵の攻撃を利用してすっ飛んできた。これで少しは敵をかく乱できたと思う。しかし、もうこの方法は使えない。敵の力量を少しでも過小評価すれば足をすくわれ自身が窮地になる。

 『しっかし最低限の力であそこまでやるとは思わなかった』

 「それはこっちの台詞だよ。最低限の適性を合格していた事こそが今生きている証拠。」

 『ああ・・それな。さっき攻撃を受けた時その適性値が格段に上昇したようで、その証拠に四肢の末端に風が纏っているだろう?』

 「そういえば・・・そうだね。じゃあこの体の節節にある風たちは自在に使えるってこと?」

 『まぁそうなるなが、ただ厄介な事になりそうで一応言っとくぞ!いきなり何もない場所に突然目を引く何かが現れたら注目を浴びかねない。ましてや今の状況は非常にマズい』


 「見つけた‼」


 優の目の前に敵が出現した。他の人格らも驚いて敵の攻撃速度に一瞬遅れをとった。敵は硬直している自分に対して、何の躊躇もなく武器を自分の首を斬り落とす勢いで勢いよく振った。敵も優の中にいる人格らも「終わった」と思った。だが、優ただ一人だけが攻撃速度に順応して自身の首が落とされる手前ギリギリで回避した。敵も他の人格らもその行動に意表を突かれた。

 オルトは斬り落とす直前、敵の首の上の部分つまり顔に恐怖を感じた。敵の情報を大して把握せずに来たのが今の失敗に繋がった。非常に簡単な仕事だと俺自身も感じていたが、ここにきて烈火様以上に殺される感覚を全身が瞬時に受けた。敵が自分の攻撃を回避できたのは偶然でも奇跡でもない・・・あらかじめ狙われた状況なら可能だ。でなければ、あの時【笑顔】にはならない。全身の悪寒が走り続け足がすくむ。今すぐにでも敵を追いかけ殺さなければ殺されるのは確実に俺だ。でもその場から動けない。

 「はぁ・・・はぁ・・・落ち着け。まだ殺せる。まだやれる。オレはここで・・・・シネナイ」


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