私とあの子とコロポックル?
はづき夏芽
出会い
第1話 コロポックルだそうです。
とても天気のいいある日の午後。刺さるような夏の暑さが和らぎ、秋の空が広がる気持ちのいい日。
私、
事の始まりは、幼なじみの
友咲とは幼稚園からの親友で、小学校中学校そして、高校と同じ進路を進んできた。
ふんわりとした、所謂天然で放っておけなくなるタイプの女の子…それが友咲だ。
その日は、友咲と近くに出来たばかりのショッピングモールで、買い物をしようという約束だった。
どうせ出掛けるのだから…と、お昼もショッピングモールで済ます予定だったのだが、待ち合わせ5分前になって、友咲からキャンセルの連絡が来たのだ。
「一花ちゃん、ごめ~ん。おばあちゃんが今日、うちに来るから行けなくなっちゃった~」
うん、そっか。おばあちゃんが来訪するのか。なるほどね。
(…で、何故に5分前に連絡した?!)
いつもの事ながら、ツッコミたい気持ちが湧き上がったが、友咲の申し訳無さそうなフワフワボイスを聞いていると、まるで捨てられた仔犬か仔猫の潤んだ瞳が脳裏に浮かぶので、そこは敢えて言葉を飲み込んだ。
入園式に何故か親とはぐれて迷子になっていた友咲の手を引いて、一緒に教室に戻った所から私たち2人の縁は続いている。
幼稚園からこうしてツッコミ所満載の友咲と高校まで友だちでいられたのは、家が意外に近所だったからというのもあるかも知れない。
入園式の日、友咲の手を取り教室に戻った私は友咲のお母さんに痛く気に入られ、その流れで私のお母さんも友咲のお母さんと話す流れになり仲良くなった。
友咲は見た目こそしっかりしているように見えるが、その中身は外見を大きく裏切る。
眉の辺りで切り揃えられた前髪、顔のラインを少し隠すように、お姫様カットしている後ろ髪はロングの黒髪で、友咲を更にしっかり者に見せている。
思いがけず、1人の休日になってしまったその日、私は自分のこれまでの価値観や考え方を変える#ソレ__・__#に出会った。
「すみません、この辺りに蓮の葉が生えているところは無いですかね?」
突然後ろから掛かった声に私が悲鳴をあげなかったのは、奇跡としか言いようがない。
「この辺りに、蓮の葉が生えてるところは無いですかね?」
繰り返し尋ねるその人は、どこをどう見てもオジサン。しかも、裸の大将か!と言いたくなる膝丈のスボンにインナーシャツ姿。
固まっている私におじさんは、不思議そうな顔をする。
「あれ?言葉通じないのかな?」
(これは、絡んだらマズイ系の人だ…!)
不思議そうな表情のオジサンを前に、私はどうにか逃げ道を探そうと頭をフル回転させていた。
(何も言わず全力ダッシュするべき?それとも今更だけど、大声あげるべき??)
「ハスノハガアルトコロ、シリマセンカ?」
片言で再び声を掛けて来たオジサンから何故逃げなかったのか、今でも分からない。
「…あ、あの」
覚悟を決めて乾いた唇を湿らせると、私は今までで1番と思える勇気を持ってオジサンに言葉を返した。全身から変な汗が噴き出してくるのが分かる。
「最初から通じてます…ので…」
声が尻すぼみになっていくのは、振り絞った勇気が風船から空気が抜けて行くかのように、私の中から抜けて行ってしまったからだ。
「黙ってるから、言葉が通じてないのかと思っちゃいました!」
良かった良かったと繰り返す裸の大将…もとい、目の前の変なオジサン。
「それで、蓮の葉があるところ知りませんかね?」
三度繰り返したオジサンに、抜け切りそうな勇気を総動員して答える。
「…えっと、ここ…住宅街ですし…蓮の葉なんてどこにも無いです…けど…」
私の言葉に今にも泣き出しそうな表情のオジサン。まるで私がイジメているような構図が出来上がる。
「僕…北海道から出て来て…今はコロポックルも全国色々なところに移り住んでるんだけど…勢いで出てきたから住むところ…見つからなくて…」
オジサンの口から聞き慣れないワードが飛び出した。
「…ころ…なんですか?」
聞き流してその場を去るのが1番のはずだったのに、どうしてか私はオジサンの言葉に反応してしまった。
「コロポックルです」
オジサンと私の間に変な空気が流れた。
さも当たり前な事を言ってる風のオジサンと固まる私…。
「あれ?コロポックルって知りませんかね?アイヌの…」
説明し出そうとするおじさんの言葉を知ってます!と素早く遮る。色々おかしすぎて、思わず突っ込んでしまう。
しかも、コロポックルは「蓮」では無く「蕗」のはず。いや、大事なのはそこじゃ無いのだけど。
(コロポックルってアイヌ民族に伝わる精霊の類いで…小人のような姿をしていて…蕗の葉を持っていて…)
コロポックルについて考え始めてしまった自分の思考を現実に引き戻す。考えたいのはそこでは無く、オジサンが自分をコロポックルだと言っているところだ。夏も終わりに差し掛かっているとはいえ、まだ暑い日が続いている。このオジサンは暑さにヤラれてしまった可哀想な人なのかも知れない。
自分の中でオジサンへの落と処を決めると私の意識は思考と切り離された。
その後コロポックルだというオジサンと何を話し、どうやって家まで帰宅したのか一切の記憶が残っていない。気付いたら帰宅していた。
どうやら人は、自分の理解の範疇を超えると記憶喪失になるらしい。
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