デジャブ地球崩壊説

悪ッ鬼ー

デジャブ地球崩壊説


 デジャブには様々な説がある―――――


 一つ、夢で見て起こると言う説。

 二つ、前世の記憶と言う説。

 三つ、記憶障害説。

 そして四つ、地球崩壊説。


 僕はこれの真意を知っている。これは一種の僕の特技なのかもしれない。

 未来を知っている。この世界は今から一日後には。


―————崩壊を果たす。


 ほら始まった。地鳴りだ。これは崩壊の前兆なのだ。地震とは格の違う揺れの大きさ。それは絶望を感じさせるような。


―————あ、これは覚えてる気がする。デジャブだ。


 こうなったら人々は逃げ惑うこともできない。ただ指を咥えて死を待つのみ。僕も友達も家族も先生も皆死ぬ。どれも覚えている。これが僕の特技。


―————未来予知デジャブ


 あ、もう崩壊が終わったか。じゃあまた二十年前に行こう。

 また僕は暗い世界をひたすらに歩く。過去への道だ。これは皆も通る道だが、皆忘れてしまう道。

 またループが始まる。

 僕が生まれた頃に時間が戻っていく。




 世界はロストテクノロジーにスポットライトが当たっていた。

 遺物だったり昔の建築物だったりと、とにかく昔の技術に感化されていた。

 そこで、一つの説が浮上した。それは地球崩壊説だ。地球は数年周期で崩壊し、そしてまた再生するというのだ。

 そのファンタジー染みた話に目を輝かせていた。面白い。見てみたい。触りたい。好奇心が僕を襲った。すると。


ゴゴゴゴゴゴゴゴォォォッ


 と、地鳴りがひどく響いた。大きな揺れだ。立っていられないような。


―――――知っている。


 突如として以前体験したことのあるような、不思議な感覚に襲われた。勿論。立っていられないような大きな揺れを体験したことなど、人生一度たりとも無い。

 でも、知っている気がする。

 揺れはだんだんとひどくなる。家具が倒れ、悲鳴が聞こえ、人は姿を消す。

 熱が地面から伝わる。灼熱の大地が真下に姿を現した。数十、いや数百メートル下にはマグマ。足場はない。

 僕は急なハプニングの多発に、思考が追い付いていなかった。

 現状までに起きたことは、地震、地響き、地割れ、そして死。世界が崩壊を始めたのだ。


(あれ、まだロストテクノロジーを解明すらしてないよな)


 ここで僕は思った。目先の死より、周囲の地獄絵図より、人々の叫びより、考えたこと。


『あと二十年くらい先だったら』


 目が覚めると、そこは病室だった。周りにはロケットや太陽系の模型だったり、ザ・子供の病室のような場所だった。

 これは僕が小学生の時の部屋だ。その頃は病弱で、これも何かの病で入院しているのだ。

 覚えている。あれは夢じゃない。


良太りょうた君。お薬の時間だよ」


 看護師が病室のドアを開けて入ってくる。片手には袋。錠剤が入っているのだろう。


(つまずく)


 咄嗟にそう思った。何故か、覚えているから。

 その瞬間、看護師は少しよろめいた。


「わっ、危なかった」


 どうやらベッドの足に引っかかったようだ。看護師はなぜか泣いている。そんなに痛かったのだろうか。

 そんなことより、僕は未来を予知した。いや、正確には未来の記憶を残していた。崩壊した、あの世界の記憶を。

 これはすごいぞ。そう思ったが、何回、何十回とループをした。同じようなことを繰り返す以上につまらないことはなかった。

 ロマンだったロストテクノロジーなんて、一向に解明されることなく、世界は崩壊し続け再生する。その度に、あと数年、数十年あれば。そう思い続けた。




 これで何回目の回帰だろうか。これではただの生き地獄ではないか。悪い夢のようだった。

 何故僕だけが記憶を持って回帰しているのか。何故僕なんだと疑問に思った。僕は世界が崩壊の中にあるロマンに興味を持った、何億もの人類の中の一人なだけなのに。

 病院内を歩きながら考えていると、目の端に光る何かを見つけた。

 茶色く鈍く光るランプのようなものが飾られていた。

 僕は近くにいた看護師にそれはなにかを聞いた。どうやらそれは、この病院の土地で見つかったものらしい。


「触りたいの?そうだな、内緒にするなら少しだけ触らせてあげる」


 僕は顔を縦にブンブンと振り、幼少期の僕の手に遺物?が乗せられた。

 しかし、ただの飾り物なのか、何か怪しいボタンなどがないか見た。

 期待外れだ。それを戻そうとしたら、何かへこんでいる個所を見つけた。好奇心に抗えず、そこを少し強く押すと、カチッという音と共に、ランプの先から煙が出て僕を包み込んだ。

 気付くと、僕は鉄っぽい床、壁、いかにも研究所のような場所にいた。知らない場所だった。

 僕はそれが映像だとすぐに分かった。そこの登場人物が僕を無視し続けるからだ。

 登場人物は男が一人だけ。博士のような。そんな人だ。

 その男は先ほど見たランプを片手に持っていた。この人物こそが遺物を想像した本人なのだろう。そう直感した。

 突然、その男が話し始めた。


「いつまで眠っているつもりだ。起きないと、僕のように孤独になる。良太」


 驚いた。僕の名前が、誰かもわからない男の口から出たのだから。

 起きる。とは何か。


「これは夢だ。そのままだと、父、母、友人。すべてを失う」


 僕は思い出した。僕は交通事故にあったんだ。そのまま気を失い―――――。


「良太。私は植物状態になり、永遠に夢を見ていた。地球が崩壊し、ループする世界の夢を」


(そうだ。これは夢だ)


 これが夢だと自覚した途端に、視界が明るくなる。目覚めだ。


「良太君、お薬の時間だよ。わっ、危なかった」


 知っている光景だ。まだ夢の中なのか?


「いつになったら起き、って、え!?」


 看護師は驚き泣いている。これは覚えている。この喜んでいるようなこの顔。デジャブだ。

 その後、医者からの検査。親の号泣、友人からの見舞い。など大変な日になった。




 僕は不思議な体験をした。現実だと思っていたことが夢だったということ。

 僕は知った。デジャブは世界の崩壊が原因ではなく、夢で見たことがデジャブとして起きているのだろう。そう思った。

 だが夢の中での僕が僕を助けてくれたことは、どうしても夢とは思えなかった。

 本当はあのランプのおかげで、過去を変えることができたのではないか。そうとも思えてしまったのだ。

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