「水の匣」 獏
@Talkstand_bungeibu
第1話
「水の匣」 獏
とある人里離れた村には、きれいな湖がありました。それは対岸もよく見えないほど広く、木々に覆われているので神秘性すら感じさせます。赤が差した木々の合間を、湖を眺めながら二人の男の子が歩いていました。どちらも14,15歳くらいの年齢で一人は第二次性徴を迎えたのか少し身長が高く、快活な雰囲気でした。もう一人の男の子はやや身長が低く、少しおとなしそうな雰囲気でした。夕陽が傾き始める頃、快活な男の子は口を開きました。
「なぁ、この湖に『水の匣』ってのがあるんだろ?」
「そうらしいね。」
「『水の匣』には希望が詰まっているらしいな。」
「大人の人たちはそう言うね。」
「そうさ。だけど、湖ん中入れないだろ?どうして皆知っているんだ?」
「それは湖には神様が住んでいるから汚しちゃいけないと、そう伝わっているからだよ。」
「誰も見たことねーのに?」
「湖の神様は守り神だからね。僕たちの前に現れないのは平和だってことらしいよ。おじいちゃんが言ってた。」
「でもよ、せっかくの希望の詰まった匣だぜ?開けねーと勿体ないだろ。」
「そんな匣を開けなくても暮らしていけてるって、十分良いこととは思わない?」
「そりゃそうだけどよ、『もっと、こうなれば良いのに』みたいなのあるだろ?例えば、急にいなくなった奴とかに、また会いてーじゃん?」
「会いたいよね。まぁ『便りの無いのは良い便り』とも言うからね。きっと、皆元気にやってるんじゃないかな?」
「そうかー?ていうか、お前、もしかして興味ねーの?」
「いやいや、そんなことないよ。キミが不思議に思うことについて、僕が知っていることを答えただけだよ。」
「そーかよ。確かにお前は物知りだったもんな」
「おじいちゃんから色々聞いていただけだよ。ところでさ…」
「んー?」
「実はこの湖に入って良い、『例外』ってものがあるんだ。」
「え、嘘だろ?」
「湖の神様は守り神だからさ。悪いことが起きようとすると、守るために姿を現すって伝承があるんだ。」
「聞いたことねーぞ、そんなの。」
「僕もおじいちゃんから聞いただけだからさ。実は嘘かどうか分からないんだよ。さて、ここは僕が知る一番上夕陽が綺麗な場所だよ。」
「おぉ、赤い!なんつーか赤い。」
「そうなんだよね。紅葉にも負けないくらい赤で、綺麗だよね。」
「そうだよな、それにちょうど木々の真ん中に太陽がきてるからさ、遮るものもまくて一番輝いてるようで本当にかっこいい。マジでここ好きだ。」
「この景色を見てもらえて良かった。あ、ちょっとごめん。暫く歩いてきたら、用を足したくなってしまったよ。」
「締まらねーやつだな。行ってこいよ。」
「ふふ、そうするね。」
友達を待ちながら、快活な男の子は一人夕陽を眺め、希望に思いを馳せていました。
そして、ザシュッという音を聞いて以降、その男の子の体は動かなくなりました。
「ふぅ。『水の匣』と最初に言った人は、上手いこと言ったものだね。この湖には確かに希望が詰まっている。誰もかれもが真実から目を背けることで、この村は冬を越せる。正に『見ずの匣』だ、この湖は。」
「水の匣」 獏 @Talkstand_bungeibu
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