前世で殺した女と再会した話
社会不適合者
第1話
______東京都千代田区
略して「シキコー」は、都内でも1.2を争うヤンキー高校である。
偏差値はBFをキープし続け、ここ数年の留年生は10人を超えている底辺高校だ。
校則は学校を名乗るための飾りに成り果てており、風紀なんてものはない。校門を潜る生徒に制服を正しく着こなす生徒はおらず、髪色は色とりどり。十代に見えない濃いメイクをする者もいれば、男子生徒に至っては入れ墨を入れている者だって少なくない。
「荒くれ者」の代名詞を物にするシキコー生……しかし、そんな荒くれ者達でさえ恐れる、シキコーの番を張る二人の男の存在があった。
____3年 春日 桜樹
シキコーの中で最も美しい顔を持つ高校生。だが、その裏側は国宝級の顔には全く見合わない苛虐性・残虐性の性格を合わせ持つ豹。
噂によると、万引き、補導、無銭飲食は当たり前。挙句の果てには、顔を利用して女を誘い、ハメ撮り写真で脅迫したことがあり、刑事事件を起こしたことがあるなど、シキコー生の中で最も過激な噂が絶えない人物である。しかも、それらの事件をすべて親が金によって揉み消しているらしい。
気に食わないことがあれば場所や相手を選ぶことなく、すぐ殴る。そんな野蛮な彼の隣にいることを唯一許されたのが、同じ3年の陽向 真昼という男である。
____3年 陽向 真昼
俳優 市原隼人に似ている青髪オールバックヤンキー。基本的に何事にも無関心な性格をしており、春日以外の人間とは会話すらしない。春日の喧嘩のバックアップを担当しており、実質的シキコーの裏番を張っている。野生的な春日とは違い、弁護士を父に持つ彼は、裁判で勝訴できる状況下を見極める狡猾さを持っている。
この二人が登校する時間帯になると、シキコー生は道の真ん中を歩くことを止め、つけられないよう目線を下に、息を殺し、二人の姿が見えなくなるまでその場を静かにやり過ごすことが通例となっている。
それが例え、新入生であったとしても……
「お前のせいだ!!!!!」
____2021年4月11日
今日は、シキコーの始業式の日だった。
在学シキコー生にとっては、新入生の品定めを行う査定の日である。
美人、ブス、イケメン、根暗、コネ、パシリ……査定を行い、目ぼしい新入生を自分達のグループの傘下に入れることで、校内のカーストを上げるチャンスを窺う。
反対に、新入生にとっては新しい場所で羽を伸ばし始める一方で、自分が下位カーストにならないよう、先輩に目をつけられないために声をかけられるまで息を潜めるものが多い。況してや、シキコーのトップを張る春日・陽向に真っ先に話しかける強者など、存在するはずがなかった。
「お前のせいだ!!!!!」
「は……っ?!」
その光景に、現場にいたシキコー生全員が息を呑んだ。教師に助けを呼ぶことは愚か、悲鳴を上げることすらできないほどの緊張感だった。
時刻は午前8:30。ちょうど春日と陽向が学校に到着した時間に事件は起こった。
道行くシキコー生全員が彼らに道を開ける中、二人の後を追いかける一人の新入生の姿があった。その女は険しい顔をして、背後から陽向の襟を掴むと、容赦なく彼を地面に叩きつけ、馬乗りになり、彼の首を両手で締めた。
それはまさに、一瞬の出来事であった。
見知らぬ女に首を絞められている。今晒されている自分の状況を、陽向は不思議なほどに冷静に把握することができた。しかし、頭ではどう対処するべきか理解しているものの、それ以上に驚きが勝り、咄嗟に女の両手に手をかけることしかできなかった。
ところが、パニックになりかけている陽向に女は容赦なかった。恨めしい表情で、女はずっと彼を責め続け、次第に首への力を強めた。首を絞め続ける彼女の瞳には、殺意に満ちていた。
「真昼!!!」
春日の声が聞こえたその時、重く鈍い音とともに息苦しさが外れた。珍しく焦った表情をした春日が、心配そうに顔を覗かせる。そしてその隣には、春日に蹴られ、女が顔を疼くませていた。
「ゲホツ!」
「大丈夫か?! このクソ女ぁ!」
痛みに悶える女に、春日はさらに追い討ちをかけ、殴りかかろうと拳を振るった。
しかし、そんな彼を陽向は身を呈して取り押さえにかかった。
「いい!! 春日、よせ!!」
「はあ?! テメェ、殺されかけといて女殴るのひよってんじゃねえよ!」
「いいから!! 落ち着け!!」
「俺は落ち着いてるぁあああああ“あ“あ”あ“あ”!!!!」
その直後、騒ぎに気付いた教師陣がすぐに春日を止めに入った。
その場の目撃者の証言や関係者の事情聴取がそれぞれ行われた結果、不可抗力とはいえ暴行を加えた春日は厳重注意に。
事の騒ぎを起こした女
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