第11話 体育祭2

担任を後にした俺は、為す術もなく立ち尽くしていた。


「アーオソラガキレイダナァ」

若干幼児退行していた。


そんな時、ドドドドッと地鳴りする音が聞こえる。

何事かとそちらに目をやると、何やら土煙が舞っていて、何かがこっち側にきているようだった。


目を凝らす。

土煙の先陣にいたのは、セイキンデスだった。

そう、彼女はまるで50メートル走の勢いで俺の方に向かってきていたのである。


俺はまずい!直撃する!と思い、横にステップを刻む。

それはさながら反復横跳びであった。


そしてその攻防がしばらく続き、彼女が目前まで迫ってきたとき——

(キキ―!)

さながらスポーツカーのようにブレーキをかけた。


(ボフッ)

土煙が舞う。

俺は土煙に包まれる。


「ケホッケホッ、なんだ!何の用だ!何の騒ぎだ!何の嫌がらせだぁ!!!」

俺は叫ぶ。


「ご、ごめんなさい、田中太郎様!一刻も早くあなた様の出場する種目を聞き入れたい所存で——」

「それにしてもやり方ってのがあるだろ!」

「申し訳ございません!次から気を付けます!」


「……リレーだよ」

「リレー……」

「なんだ?不満か?」

「いえ……そういうわけじゃなくて……」


セイキンデスはそれっきり黙り込む。

「おい、なんだよ、続きを言えよ」

「その……」


セイキンデスはこう口を開く。

「私、誰かを応援するのって、思い返してみれば初めてだなって」

そう言ってほほ笑んだ。

その笑顔は美しくか弱げで、でもやっぱりかわいくて、心が甘酸っぱくなるような心地がした。

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