第86話 墓標の前で②
墓標の前で②
「なぜです?」
ジオルグは静かにジルヴォルへと問いかける。だがジオルグの声にはややジルヴォルを責めるような響きがある。
(なぜ俺はジルヴォル王を責めている?)
ジオルグは自分の感情に対して不思議であった。理性ではジルヴォルという危険極まる男が王でなくなるというのはガルヴェイトにとって都合が良いはずなのに、ジオルグは妙にそれが
「卿から見てユアンは王たる器ではないのか?」
「……」
ジルヴォルの問いかけにジオルグは答えに窮した。ユアンのソシュアに対する態度から、自分の行動がどのような影響を与えるかをきちんと理解しているように思える。これは権力を扱うものが持たねばならない
だが、それを素直に告げることは得策ではないとこの時ジオルグは感じていたのである。
「返答を避ける……懸命な判断だ」
ジルヴォルは楽しそうに言う。その反応にジオルグは自分の考えが正しかったことを察した。
「ユアンは高潔な人格を有している。大部分のレクリヤーク城の者達を処刑しなかった。もちろん、それだけではない。きちんと工作をおこなって中央貴族共の残党の評判をきちんと落としている」
「……」
ジオルグは返答しないがジルヴォルは構わず話を進めていく。
「ユアンは守り育てることに関して言えば私などより遥かに王に相応しい」
「自分は王に相応しくないと思われているのですか?」
「ああ、もちろんだ」
ジオルグの問いかけにジルヴォルは即座に返答する。
「それは……
ジオルグの言葉にジルヴォルは全く不愉快な様子を見せない。それはジオルグの言葉に忌避感が一切感じられなかったからであろう。
「それはある。だが、それは理由の本筋ではない」
「本筋……と言うことは他に理由があるのですね?」
「私は報復に対しては皆を率いることができる。報復とは破壊行為に他ならない。私は
ジルヴォルの言葉にジオルグは頷かざるを得ない。実際にジルヴォルはギルドルク王国内の一勢力でしかなかったザーベイル辺境伯領を率いて、勢力のはるかに勝る王家と中央貴族達を完全撃破したのである。しかもギルドルク動乱が起こってまだ一年経っていないのである。
「だが、私は他の皆と
「喜び……?」
「ああ、私にはフェリアが殺されてから心から笑ったことはない。 私は困難に皆と立ち向かうことはできても、皆と喜びを分かち合うことができないのだよ。そんな私が国を率いればどこかで歪みが生まれ、それは国を崩壊させるきっかけになりかねない」
「……」
ジルヴォルの言葉にジオルグは返答することはできない。ジルヴォルの言葉には空虚な響きは一切ない。いや、真逆で強い力を発している。そして、この強い力は自分と
(ああ、そうか……妙に気に食わなかったのは
ジオルグはユアンに王位を譲ることは舞台から去ることを
「王弟殿下にソシュア嬢を娶らせたのはザーベイルがギルドルクを支配することの正当性を得たというのはザーベイルのためというわけですか」
「そういうことだ。私がソシュアの家族を殺したからな。私に憎しみが集中すればそれだけでユアンには憎悪が向かない」
「王弟殿下には甘いことですな」
「これから苦労を背負い込ませることになっている。
ジルヴォルはそう言ってニヤリと笑う。その表情には自分の決断に一切迷いのない者の表情である。
「さて、ここからが
「本題?」
「ああ、この場に卿を連れてきたのは今の話をするためではない。この話であれば
ジルヴォルの言葉にジオルグはチラリとフェリアの墓標が目に入った。
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