第84話 招待状
「ザーフィング侯、よく来てくれた」
ガルヴェイト王国国王アルゼイスはジオルグに向かって威厳ある声で言う。執務室にはアルゼイスだけだく王太子のイルザムも同席している。
「早速だが、これをどう見る?」
アルゼイスが差し出した書状を受け取ると中を確認した。
「ザーベイル
ジオルグは書状を確認すると小さく疑問を浮かべた。国家間の式典の招待状に一臣下のジオルグの名を載せることに対し疑問が生じるのは当然であった。
「そうだ。私と父上はジルヴォル王はお前と何か話したいことがあるという見解に至った」
イルザムの言葉にジオルグは少し考え込む。イルザムが言いたいのは何かしらの心当たりは無いかと問うているのだ。
「……誠に申し訳ございません。その内容に心当たりはございません」
「そうか」
「ですが、今回の件でジルヴォル王へ尋ねたいことがあります」
「王弟とソシュア女王の婚約か?」
イルザムの返答にジオルグは頷く。ジオルグの元へはザーベイルからの情報がいくつも入っており、その中には当然ながらレクリヤーク城が陥落し、ソシュアが投降したこと、そしてミレスベルスへと移送され、そこでギルドルクの王位をジルヴォルへ譲り、ユアンとソシュアの婚約の情報も当然のごとく入ってきていた。
ジオルグはソシュアの処遇に対しては正直意外であった。処刑はないと思っていたが、よりにもよって王弟とソシュアを婚約させたことはジオルグにとっても衝撃であったのだ。
「はい。王弟とソシュア女王を婚約させるのは将来の騒乱の種になります。それがわからないジルヴォル王ではないはずなのに、なぜわざわざ騒乱の種を作ったのか不思議です」
「確かにそれは不可解だ。自分であれば鎮圧できるという自信か……それとも過信かな……」
「過信ではございますまい。ジルヴォル王はここまで綿密な計画を立て行動し、ギルドルク王国とフラスタル帝国を手玉に取ってきました。その彼がここにきて自分の能力を過信するとは思えません」
「ならば……この婚約自体はそもそもの計画通りというわけだな」
「私はそう考えます」
「そうか」
ジオルグの返答にイルザムは難しい顔を浮かべた。そこにアルゼイスが口を開く。
「二人とも
アルゼイスの言葉にイルザムとジオルグは視線を交わし、それからアルゼイスへと視線を向けた。視線を向けられたアルゼイスは苦笑を浮かべていた。
「陛下はジルヴォル王の考えがわかるのですか?」
「ある程度はな」
「それは……一体?」
ジオルグの問いかけにアルゼイスは首を横に振る。
「イルザム、お前は余の名代として建国式典へ出席せよ」
「はっ!!」
「その際に王弟
「王弟の? ジルヴォル王ではないのですか?」
「そちらはザーフィング侯に任せよ」
アルゼイスの言葉にジオルグは疑問の表情を浮かべた。
(陛下にはわかっているのか……一体陛下には何が見えている?)
ジオルグとすればアルゼイスが見えているモノがわからない。もちろん悪意などで教えないと言うのは理解しているのだが、それでも意図するところが見えないのである。
(私などより余程、才能のある二人でもわからぬか。不思議なものだな。まぁ、こればかりは王位に就かねばわからぬことかな)
アルゼイスはそう心の中で呟いた。アルゼイスは国王という地位にあり、王という地位が如何なるものであるかを実感として有しているのに対し、ジオルグとイルザムにはそれがない。
(一つはジルヴォル王の王弟への心遣いであろうな……そしてもう一つはジオルグを意識したゆえであろうな)
アルゼイスはそう心に呟くとジオルグへと視線を向けた。
(この二人は長い付き合いになりそうだな)
アルゼイスはジオルグとジルヴォルの今後のことを考えると少しばかり気の毒になってくる。二人の争いは表にでることはほとんどない。だが、激しい戦いが繰り広げられることがわかっているからだ。
「今回の建国式典にはイルザム、ザーフィング侯、護国卿レパレンダス、財務相ディバルを参加させる」
「はっ!!」
アルゼイスの言葉にジオルグとイルザムは恭しく一礼した。
この後、御前会議でザーベイルの建国式典に参加する旨が発表された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます