第69話 最凶と最凶⑥
「さて、確認なのですがジルヴォル陛下にお聞きしたいことがございます」
「何かな?」
ジルヴォルの返答を受けてまずはジオルグが動く。
「何のためにガルヴェイトへデミトルを送り込まれたのですか?」
ジオルグから発せられた言葉にザーベイル側だけでなくガルヴェイト側の方から驚きの気配が発せられた。
「簡単なことだ。ギルドルク滅亡に対してガルヴェイトがどのように動くかを確認したかった。それだけだよ」
それに対するジルヴォルの返答に周囲の者達はまたしても驚きの気配が立ち上った。ジルヴォルの返答はガルヴェイトに工作を行った事を意味するからだ。
(やはり、認めてきたか……だがそれは
ジオルグは周囲の文官達と反応は異なり驚きなどしない。ジルヴォルはこの段階でアーゼインをジオルグに抑えられていることの意味を理解しているために、否定することは意味をなさないのである。
「我々を試したというのならば、組むに値するかどうかの結論は出たと思いますが、どう結論を出されました?」
「保留だよ」
「保留?」
「ああ、一年前からガルヴェイトからの情報の質がガクンと落ちてね。重要な情報ほど決断が迷うようになった」
ジルヴォルの言葉にジオルグは表情を崩すことはない。一方で周囲の者達はジルヴォルの発言の意図がわからず戸惑っている。
(俺がジルヴォル=ザーベイルの存在に気づいていたように……あっちも俺のやっていることに気づいていたのか)
だがジオルグとすれば戦慄せざるを得ない。ガルヴェイトで各国の諜報員が活動していることなど誰もが承知である。ジオルグとすればそれを潰すよりも利用することにしている。意図的にいくつかのルートに加工した情報を流すことにより、情報の受け取り手が迷うように仕向けているのである。
「不思議なもので君がザーフィング侯爵になってからの時期とぴったり合うんだよ」
ジルヴォルの言葉にザーベイル側の視線がジオルグへと集中する。
「私が情報を操作していると?」
「そうだ。違うのかね? まぁ、君が否定することは想定している。だが、君がいくら否定しようとも関係ないのだよ」
「あなたがそう判断したからということですか?」
「そういうことだ。それで? 君はこの後に及んで否定するのかね?」
ジルヴォルの問いかけに対し、ジオルグは首を横に振る。この状況で否定しても仕方ないし、ジルヴォルに対して嘘を重ねたところでそこを逆手に取られることを本能的に察したからだ
「否定などしませんよ。もはや隠したところで意味がないですからな」
ジオルグは余裕の表情を崩すことなく返答する。その返答にジルヴォルは心の中でニヤリと嗤った。
(くそ……今後はやりづらくなるな)
しかし、ジオルグは心の中で舌打ちをしたい気持ちでいっぱいであった。ザーフィング家は表向き代々文官であり、裏業には関係ないという立場であったのだが、今回の件でそれが白日の元に晒されたのである。これは今後ジオルグ達の活動が注目されることを意味している。
「特使殿、やはり君は危険な男だな。凡夫であれば先ほどの問いに正直に答えない」
「この程度で感心されては困りますな」
「ほう……」
ジルヴォルはそう言って目を細めた。その反応にジオルグはグッと気合を入れる。ジオルグの決意を感じたのか、周囲の文官達はブルリと身を震わせた。
(危険な賭けだが、ジルヴォル王にガルヴェイトと事を構えることに利はない事を示さねばな)
ジオルグは心の中でそう決意を固めている。これはジルヴォルという男の能力を最も高く評価しているのがジオルグであるとも言えるのだ。
ジオルグも他国や敵対者から見れば限りなく危険な男である。そのジオルグをしてジルヴォルという男の恐ろしさは底が知れないという評価なのである。
「はい。実はデミトルはいくつかガルヴェイトで書状を書いたのですよ」
「ほう……」
「もちろん中は
ジオルグの言葉に文官達は首を傾げた。デミトルが書状を書いたという事をこの場で告げることの意図がわからないのである。だがジオルグの意図をジルヴォルは即座に察した。
(こいつはあっさりと……しかもこの場で交渉の場に乗せるか。ち……悪手だった。いや、悪手に
ジルヴォルは心の中でジオルグの胆力を感嘆すると同時に自らの失敗に舌打ちしたい気持ちになった。
ジルヴォルの失敗とは、ソシュアの受け取ったデミトルの書状はジオルグによって
しかし、その証拠はない。デミトルがいくら『書いていない』と主張したところで、ガルヴェイトとすればデミトルがザーベイルに送り込まれた工作員であると主張すれば良いのである。それは偽造があろうがなかろうがそれはザーベイルの指示によるものであるとなってしまう事を意味するのである。
しかもジルヴォル自らが、たった今デミトルを送り込んだ事で認めてしまったのである。ジオルグを引っ張り出すための発言が失言となってしまったのである。
「ご存知の通り、デミトルがどのような書状を書いたかは
「それは……ここに持ってきているのかな?」
「もちろんです」
ジオルグが即答するとアイシャが持っている鞄をジオルグの元に持ってくるとジオルグへ手渡した。
ジオルグは手渡された鞄から四通の書状を取り出して机へ置いた。
「単刀直入に言います。この書状
ジオルグはジルヴォルの目をまっすぐ見て言った。
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