第67話 最凶と最凶④

(一体どんな手を使った? 情報によれば開戦は今日という話だった……ハッタリか?)


 ザーベイル軍勝利の報に沸き立つ会談の場でジオルグは一瞬ではあるが動揺したのは事実である。


(ハッタリの可能性もあるな……時間を稼ぐか・・・・・・


 ジオルグはそう判断すると即座にハンドサインを背後に控えるロイ達に送ると、ロイとライドが即座に会談の場から出ていく。


「ジルヴォル王、戦勝誠におめでとうございます」


 ジオルグがにこやかに告げる。事実かハッタリかは現段階で判断することができないが、それでも戦勝の報に祝辞を述べないわけにはいかない。


「うむ、ありがとう。今回のフラスタル帝国の侵攻はこちらにしても想定外・・・であったので勝てるかどうか心配であったがよくやってくれたと思う」


 ジルヴォルの声にはやや探るような気配がある。


 二人の会話が始まったことで、ザーベイル側の者達も慌てて席に着いた。


「さすがはエクトル=ザーベイル卿にございますな。それにしてもエクトル卿は御病気であったと聞いておりましたが?」

「ふ、そうであったのだが、今回のザーベイルの危機に病を押してフラスタル帝国を迎え撃つと出陣していったのだよ」

「なるほど、エクトル卿の救国の意志は素晴らしいものでございますな」

「まったくだよ。病気により引退したのだからこちらにも少しは任せてほしいというものだ」


 ジオルグの言葉をジルヴォルはサラリと受け流し軽口で返答する。


(やはり……精神的に優位に立ってるな。こちらの一手を実力で打ち破ったのだから当然か。ハッタリの件はなしか? いや、慌てるな。確認はせねばな)


 ジオルグは相手の軽口を精神的優位ゆえの発言であると捉えていた。そのためハッタリと判断するのは間違いであると考えたが、やはり情報をきちんと得てからと心の中で首を横に振った。


(正式な情報確認のためにも時間を稼がねばならないな……デミトルを使う・・か)


 ジオルグはそう判断すると疑問があるかのように問いかけた。


「それしてもジルヴォル王」

「何かな?」

「先ほどフラスタルの侵攻が想定外とおっしゃいましたが?」


 ジオルグの問いかけにジルヴォルは皮肉気な表情を浮かべた。


「うむ、フラスタル侵攻を我々はあと三ヶ月後と見ていたのだが、想定よりも三ヶ月も早くて驚いたものだ」

「なるほど、それは想定外でございましたな」

「しかも、ガルヴェイトとの国交樹立を話し合うというこの大切な会談と重なるとはね」

「フラスタルはこの会談に合わせて侵攻してきたのでしょうか?」


 ジオルグの問いかけはいけしゃあしゃあと称されるべきものであるが、ジオルグとすればとっくに看破されているのを承知の上である。


「それはソシュアが即位したことによるものであろうな」

「ソシュアが即位!?」


 ジルヴォルの返答に反応したのはジオルグではなくデミトルであった。


(よし、食いついてきたな)


 ジオルグは心の中で上手くいったことにニヤリと嗤う。フラスタル侵攻の時期が早まったことを話題にすれば、必ずソシュア即位に触れることになる。そうすれば書いた覚えのない・・・・・・・・書状の件でデミトルが取り乱すことは必至である。そうすればデミトルの処遇を話題にして時間を稼ぐことができるという判断であった。


「なんだ? ソシュアの即位は君が奨めたのだろう?」

「な……」

「ん? 違うのかな? 私は君が書状・・で即位を奨めた。それに従って彼女はギルドルク女王に即位したという報告が入っている」

「私はそんな書状など書いてはいない・・・・・・・!!」

「ほう?」


 デミトルの言葉にジルヴォルは目を細めた。


「どういうことかな?」


 ジルヴォルは視線をジオルグへと向ける。


「さぁ? 私はデミトル殿下が書状を書くのを確かに奨めました。ですがその内容までは確認しておりませんので」


 ジオルグは白々しく答える。実に不誠実な返答であるが、それを突き崩すだけの論拠をジルヴォルは有していないのである。


(どういうことだ? てっきりザーフィングがデミトルを脅して書状を書かせたと思っていたが……デミトルの反応から考えればは書いていない)


 ジルヴォルはデミトルの態度からデミトルが語っているのが真実であることを確信した。


 ジルヴォルは目を細めた。


「そうか……しかし、特使殿ひとつ確認をしたいのだが」

「何でしょう?」

「ここにデミトルを同席させている理由は何かな? 確かに事前に許可を求めていたのだがその目的までは把握していないのだよ」


 ジルヴォルの問いかけにジオルグは澄ました顔で返答する。


「ええ、実はデミトル殿下に頼まれたのです」

「ほう、何をかな?」

「デミトル殿下の助命をです」


 ジオルグの発言にジルヴォルの目が細まると同時にザーベイル側の文官達から凄まじい殺気が放たれた。


「特使殿、その申し出は聞くことができないな」


 ジルヴォルの声が明らかに低くなる。その返答にデミトルは期待を込めてジオルグを見る。


「そうですか。それでは仕方がありませんな」

「何だと?」


 ジオルグの返答にジルヴォルは明らかに虚を衝かれたような声を出した。


「受け入れてもらえなかったのは残念ですが仕方ございませんなと申し上げたのです」


 

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