第41話 ジオルグの思案

「鮮やかな手並みだ……」


 ジオルグは送られてきた報告書に目を通しながらポツリとつぶやいた。


 ジオルグの呟きに対してアイシャとロイは視線を交わした。何かと軽いところのあるロイであるが主人であるジオルグの邪魔だけは絶対にしないのである。だからこそジオルグに声をかけない。

 ロイもアイシャもジオルグが思案をおこなっていることを知っているからである。そして自分達の出番は思考の迷路にジオルグがはまった時であることを知っているのである。


(王城を落とした際にその場にいた貴族達のほとんどはその場で殺害……それから時をおかずして先代ザーベイル辺境伯と地方貴族の連合軍が中央貴族の所領から貴族達を……徹底排除か)


 ジオルグはギルドルグ王国での動乱にザーベイル辺境伯を盟主とする地方貴族達の動きの早さに内心舌を巻いていた。


 地方貴族軍は中央貴族達の所領を攻めるが支配することなく。そのまま次の貴族を攻めるという方法で動乱発生からわずか半年て中央貴族達を駆逐してしまったのだ。

 地方貴族軍は中央貴族達の駆逐を終えるとそのまま自分達の領地へ引き上げていき中央貴族の領民達はほぼ無傷のままであるのだ。


 虜囚となったギルドルグの王族達はザーベイル辺境伯領へと連行されており、そこでオルタス2世は独立宣誓書に署名させられた後に王妃と共に処刑された。


 独立が成立したことでザーベイル辺境伯領はザーベイル王国と名を変えた。


(ザーベイル王国の建国に参加していなかった貴族の所領は基本的に無視・・か……外国の介入の可能性を考えれば掌握を急いだほうが良いと思うのだが……そうしない)


 ジオルグはザーベイル軍が旧領主達を排除したが、その後は支配するのではなく、放置していることについて考えざるを得ない。

 ジオルグはそれを愚かとは思わない。何らかの意図があるということは確信しているのである。

 ギルドルク王国は決して小国ではない。ギルドルク王国の国力、領土の広さを考えればまず大国と称しても問題はないのだ。

 それを地方の一勢力であるザーベイルがわずか半年で支配者層を駆逐するというのは異常なことなのだ。決して行き当たりばったりではなく、長年に渡り綿密に計画を立てていたはずなのだ。

 ならば、この旧貴族達の所領を放っておくのにも何らかの理由があるのは間違いない。


(支配者がいなくなれば、治安を維持するものはいなくなる。ということは治安が低下するな。おそらく中央貴族達の所領では泡沫勢力が乱立するだろうな……そして新たな支配者が生まれるだろう。だが、新しい勢力は統治の経験は乏しいはずだ……)


 ジオルグはそう考えたところでザーベイル王国の思惑を結論づける。


「……ザーベイル王国にとって中央貴族達の領民は保護の対象外……ということか。いや……生贄・・かもしれんな」


 ジオルグの言葉にロイとアイシャは互いに視線を交わす。ジオルグの言葉からザーベイル王国を危険視しているように感じているのだ。


「ロイ」

「はっ!!」

ギルドルク王国のカーミュス街道、レムドレン街道をザーベイル王国がどのように扱っているかを調査するように指示を出しておけ!! それから旧中央貴族達の残党がどうなっているかを調査するように伝えろ」

「はっ!!」

「アイシャは国内にギルドルク王国の動乱についてどのような形で話が伝わっているかを至急調べるように」

「承りました!!」


 ジオルグの指示を受けたロイとアイシャは即座に動き出していった。


「ザーベイルは中央貴族の領地の支配を考えているか考えていないか……街道の取り扱いでわかるな。そして……王太子、第二王子、王女の情報が入ってこない。幽閉されているのか……既に消されているのか……それとも既に他国に送り込まれてるか・・・・・・・・だな」


 ジオルグは呟きながら思案していく。


「普通に考えれば、フラスタル帝国か……そして、ギルドルク国内・・、最後はうち・・の可能性というわけだな。……となると釘を刺してもらわねばならないな」


 ジオルグはそう判断すると報告書を書き始めた。

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