第38話 ギルドルク王国動乱⑥
「今日は良い知らせを持ってきたぞ」
ジルヴォルはオルタス2世とその家族の前で冷酷に言い放つ。ジルヴォルの言葉にオルタス2世とその家族は正気のない虚な目でジルヴォルを見る。
「ガルスマイス公爵領が陥落した。ガルスマイス公爵家は滅亡した」
ジルヴォルの言葉にオルタス達は目を見開いた。個人的に親交があったガルスマイス公爵家が滅亡したということにやはり衝撃を受けたのである。
「それのどこが良い知らせかという思いだろうな。実はな公爵は自分達が助かるためにこちら側につこうとしたという話だ」
「なんだと……?」
「随分と悪様にお前達のことを罵っていたらしいぞ。どうやらお前達よりも公爵は自分達の命が大切であったということらしい。ああ、もちろん公爵の助命は受け入れられることなく一家まとめて処刑しておいた」
「……」
ジルヴォルの言葉にオルタス2世は反論することすらできない。しかし、反論したのは王妃のカサルディアである。
「まとめて処刑……どうしてそんな酷いことを!! 末っ子のツヴォルはまだ11だったのよ!! それなのに!!」
カサルディアは厳しい口調でジルヴォルを責める。
「フェリアが殺されたのは十歳だったぞ?」
「……」
ジルヴォルの言葉にカサルディアは絶句した。
「どうした?」
「そんな……でも……」
カサルディアはしどろもどろとなった。これはジルヴォルに論破されたことを示しているように思われた。
「嘘だよ」
「え?」
ジルヴォルはニヤリと笑って自らの意見を覆した。その様子はカサルディアを侮辱しているとしか思えないものである。
「フェリアと俺は同い年、十二の時に殺されたのでな」
次いで発せられたジルヴォルの言葉にカサルディアは激昂しようと口を開きかけた。しかし、次の瞬間にはジルヴォルはカサルディアの口に剣を突っ込んでいる光景が展開されていた。
オルタス一家は誰もがジルヴォルがいつ剣を抜き、カサルディアの元に剣を突っ込んだのか見ることができなかったのである。
「どうした? 嘘だとわかった途端に強気になったな? 11でどこかの貴族のガキが処刑されたぐらいで一々喚くな。お前の怒りなど俺の稚拙な嘘一つでひっくり返る程度のものでしかない」
「ひ……」
ジルヴォルは口に突っ込んだ剣をそのまま横に払うとカサルディアの口は大きく切り裂かれた。
「はぅぅ!!」
「カサルディア!!」
「母上!!」
「お、お母様!!」
頬を切り裂かれたカサルディアはそのまま蹲り、家族が駆け寄った。
「さて、これで中央貴族共はほとんど始末した。父上に率いられた百戦錬磨の
「き、貴様は民達を苦しめどうするというのだ!!」
そこにデミトルがジルヴォルへ叫んだ。これは別に深い考えがあってのことではなく、やられっぱなしではいられないという短慮ゆえの行動であった。
「ふ、我らは別に領民達に恨みがあるわけではないからな。お前達と違って虐待するようなことはしない。実際に支配者の貴族を断じた後は我が軍は立ち去っている」
「う、嘘だ!!」
「なぜ嘘だとわかる? 根拠は? お前達に与えられている情報は私が
「う……」
「デミトル、お前はどこまでも浅はかだな。あの女と一緒でどこまでも思慮が足りない」
「あの女……?」
「ルシオラに決まっているだろう。あの女は本当に都合よく踊ってくれた」
「踊っただと?」
ジルヴォルの言葉の意図が読めないデミトルの口から疑問の声が発せられた。
「わからんか? あの女はザーベイルを見下していた。そのあいつが俺と婚姻ともなれば不平不満をもつのは当然。こちらとすれば願ったり叶ったりだった。もし、自分の使命をきちんと理解し、地方と中央の融和のために立ち回り、ザーベイル辺境伯領で人望が高まれば厄介だった。そこでこちらはお前に近づくようにしむけていたというわけだ」
「そ、そんな……バカな……」
「お前とルシオラの不貞行為はザーベイル辺境伯の誰しも知っている。当然だ。私が広めたのだからな。お前とルシオラの醜聞はザーベイル辺境伯領の者達にこれ以上ないメッセージになったわけだ」
「め、メッセージ?」
「ああ、中央の者共は地方との融和を本気で考えていないというな」
ジルヴォルはニヤリと嗤いながら言う。デミトルはその嗤顔にジルヴォルの言葉が強がりでもなく本心であることを確信した。
「いやはや、オルタスがわざわざ王命でルシオラを選んでくれたおかげで本当に助かったよ」
ジルヴォルの言葉はオルタスにとって毒刃に等しい。選択を誤ったことをこれ以上ない形で知らしめたようなものである。
「さて、ここからは今後のお前達のことだ」
「……」
「中央貴族の粛清はほとんど終わった。あとは仕上げとしてお前達の処刑を行うことにした」
「しょ……処刑だ……と……」
「ああ、ザーベイル辺境伯において大々的に行う。よかったな。ザーベイル連合王国の礎のためにお前達を処刑する」
ジルヴォルはそう言い放つとくるりと背を向けて退出した。
扉が閉じられてしばらくすると王族一家の叫びが発せられた。
「首尾は?」
「人選は済ませております」
「そうか、あの一家には最後まで役に立ってもらわねばな」
「はっ」
部下が一礼して離れていく。
(さて……どちらがどちらに流れ着くかな)
ジルヴォルは心の中でつぶやいた。
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