第34話 ギルドルク王国動乱②
「せ、宣戦布告だと!?」
王太子デミトルの側近の一人が引き攣った嗤いを浮かべてジルヴォルへと近づいてくる。
そして、次の瞬間にジルヴォルが動く。
それは非常にゆったりとした動きである。だが、周囲の者達はジルヴォルが動いたことを認知したものはいなかった。
ジルヴォルは側近の目に指を入れ、そこを起点にくるりと周り側近の背後に回り込むとそのまま首を捻る。
ギョギィィ
ジルヴォルはそのまま限界まで首を捻ると異様な音がして側近は崩れ落ちた。
「バカが……」
ビクンビクンと陸に打ち上げられた魚のように痙攣していた側近の首をジルヴォルは容赦ない一言ともに踏み抜くと動かなくなった。
出席者達は一様に呆けた表情を浮かべていた。これは自分の見たものがあまりにも現実感がなかったため反応ができなかったのである。
「キャぁぁァァァァっぁぁ!!」
「うわァァァァ!!」
しかし、その静寂も長いものではない感情と認識が一致した瞬間に音程の外れた絶叫が出席者の間から起こった。
「フラスタ!! ジルヴォル!! 貴様何をしたのかわかっているのか!?」
王太子のデミトルが恐怖に顔を引き攣らせながら叫んだ。隣に立つルシオラは顔面から完全に血の気が失せている。
「何を言っている? たった今宣戦布告したばかりではないか? ここは
ジルヴォルの言葉に出席者達は戦慄した。この場にいる上位貴族達は戦場には出たことはあるが、最前線にたったことなどないため、命の危険など感じたことはない。だが、自分達が今まさに最前線に立たされていることを自覚したのである。
「衛兵!! 衛兵!! この者を捕らえろ!!」
「いや!! 殺せ!!」
出席者の誰かが叫ぶと周囲に配置されていた騎士や衛兵達が会場に入ってきた。警護の者達は基本的に外部からの侵入を想定しとり、会場でことが起こる事をほぼ想定していなかったのである。
(全く遅いな……合図が送れないからことが盛り上げられないだろうが)
ジルヴォルはその様子を皮肉気に見ている。ジルヴォルはチラリと周囲に視線を向ける。ジルヴォルを見る目には恐怖がありありと浮かんでいた。
騎士や衛兵達がジルヴォルをぐるりと取り囲んだ。全員が槍や剣先をジルヴォルへと向けている。
「ザーベイル辺境伯……あなたを拘束させていただく。無駄な抵抗はあなたのためになりませんぞ」
指揮官の騎士が厳かに告げる。
その様子を見た出席者達は途端にジルヴォルへ蔑みの視線を向けた。有利な状況に立てば相手を蔑むというのはある意味一般人の感覚からすれば当然かもしれない。
「ほう……無駄な抵抗とな?」
ジルヴォルの余裕の表情に指揮官は訝しんだ表情を浮かべた。
「え、ええそうです。このあまりにも浅はかな……」
指揮官の言葉はここで中断された。ジルヴォルが手を衛兵の一人に手をかざすと衛兵の一人が手にしていた槍をジルヴォルへと放ったのだ。
「やれぇい!! 者共!!」
放られた槍がジルヴォルの手に渡った瞬間にジルヴォルが叫ぶ。
『応!!』
ジルヴォルの声に周囲から応える声が発せられた。そして次の瞬間にジルヴォルの周囲を取り囲んでいた衛兵達が隣にいた周囲の兵達を襲い始めたのである。
「ぎゃああああ!!」
「何をする!!」
「狂ったか!!」
ジルヴォルを囲んでいた兵士たちが殺し合いを始めたのを見て指揮官は唖然とした表情を浮かべた。
(ぬるいな)
ジルヴォルは皮肉気に嗤うと渡された槍を指揮官の喉へと突き刺した。
「が……」
喉を刺し貫かれた指揮官は自分の身に何が起こったか理解できていなかっただろう。それなりの技量を有していたのだろうが、それを全く発揮する事もなく指揮官の人生はそこで断たれたのである。
そしてほぼ同時に出席者の貴族の中からも絶叫が響き渡った。
下級貴族のが忍ばせていた匕首で貴族達を襲いかかったのである。
「がぁ!! カークゴル……貴様ぁぁぁ!!」
「そういうことだよ 阿呆が」
カークゴル子爵が寄親であるカジネルト侯爵の腹に容赦なく匕首を突き刺している姿があった。
「
カークゴル子爵はそういうとカジネルト侯爵の胸、腹へ何度も何度も匕首を突き刺していく。
「がぁぁぁぁ!! た、たのむゥゥ……止めてくれ」
「お前の一族は皆殺しにしてやる!! 全員後で地獄に送ってやるからそこで仲良く暮らせ!!」
「ぎゃああああああああ!!」
カークゴル子爵はカジネルト侯爵の心臓に匕首を突き立てるとカジネルト侯爵は事切れた。
カークゴル子爵の理性を失った目が隣にいた侯爵夫人を見た。
「ひっ」
侯爵夫人の恐怖に満ちた叫びは長く続かない。子爵が侯爵夫人の顔面を掴み上げると腹を差し貫いたからである。あまりの恐怖と苦痛に侯爵夫人は声を出すこともなくうずくまった。
ドガァ!!
蹲る侯爵夫人の顔面をカークゴル子爵は容赦なく蹴り付けた。死んでも構わないという蹴りではなく殺すつもりで放った明確な殺意のこもった蹴りである。侯爵夫人は二メートルほどの距離を飛び床に転がった。
「合図だ!!」
ジルヴォルの言葉を受けたカークゴル子爵の目に理性が戻る。
「はっ!!」
カークゴル子爵は事きれたカジネルト侯爵の体を引きずって外へと飛び出すとカジネルト侯爵の体に懐から皮袋を取り出し中に入っていた油を死体へとかける。
「地獄の業火に比べれば生ぬるいだろうがな」
カークゴル子爵はニヤリと嗤うと死体へ火を放った。
侯爵の死体へ火を放ってしばらくして王宮のあちこちで絶叫が起き始め、そして火の手が上がり始めた。
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