第10話 国王へ報告
ジオルグは王城の国王の執務室前で立っている。昨日のうちに登城し、国王への面会を取り付けており、たった今到着し、警護の騎士に入室の許可を取りに行ってもらったのだ。
「ザーフィング侯、お入りください」
取り次ぎを行った騎士がジオルグに告げる。
「ありがとう」
私は騎士に礼を言うと執務室へと入る。
(宰相……それに王太子殿下まで……)
入室したジオルグの目に国王アルゼイスの両隣に控える二人の人物が目に入る。向かって右側に宰相フィジール公爵、左側に王太子イルザムがいた。
「本日はお忙しいところ、お時間をいただき誠にありがとうござます」
私はまず国王アルゼイスに向かって一礼しつつ挨拶を行う。
「王太子殿下、宰相閣下におかれましてもお時間をいただきありがとうございます」
次いで王太子と宰相に一礼すると二人も静かに頷いた
「うむ、ザーフィング侯よく来てくれた」
「もったいないお言葉」
国王アルゼイスの労いの言葉に私は恭しく応える。
「それでザーフィング侯、報告にあったように代侯とその妻を処刑するという事だな」
「はい」
「ふむ、そこに対しては私に異論はない。お前達は?」
アルゼイスの問いかけに王太子イルザムと宰相フィジール公爵も一礼する。
「前ザーフィング侯爵の暗殺という事を考えれば当然の処置かと」
「むしろ処刑にしないことの方が問題かと」
イルザムとフィジール公爵も即座に答える。
「しかし、事が国家反逆罪に匹敵する罪状だ。なぜこちらに裁きを持ってこなかったのかね?」
フィジール公爵が続けて言う。確かに事の大きさを考えれば国の裁きに任せるのが本来の流れだ。
この国では貴族が一定の裁判権をもっている。領内のことであれば一々国が裁判をおこなうようなことはしないのである。
「お言葉ではありますが、ガーゼルは先日、代侯の地位を失っております。私が侯爵の地位を継ぐと同時に代侯は貴族籍から外すという申請は行っております。いわばガーゼルとその家族はすでに身分的には平民でございます。平民である以上、私の裁判権の範囲内のこと、国の手を煩わせる必要はございません」
私の返答に宰相フィジール公爵はやや苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべた。私が侯爵を継ぐと同時にガーゼル達を貴族籍から抜くことは三年前に申請していたことを思い出したのだろう。
「確かにそうだな。確かに三年前にザーフィング侯からその旨の届出があったな」
イルザムの言葉にアルゼイスも頷いた。
「……ということは、少なくともザーフィング侯は三年前に代侯が前ザーフィング侯爵を暗殺したことは知って居ったというわけだな?」
アルゼイスは目を細めながら言う。
「もちろんです」
私の即答に三人から立ち上る気配が一気に剣呑なものとなった。国の指導者的な者達からの圧力は相当なものであるが、私は平然としていた。
「ほう……ザーフィング侯爵よ。それは国家的犯罪者を庇ったということになるぞ。納得のいく説明を用意してあるのだろうな」
「当然です」
アルゼイスの問いかけに私は平然と答える。ここで言い淀んだりすれば確実に罰を受けることになる。
「理由は三つあります」
「ほう」
私の言葉に三人は聞かせてみろという表情が浮かんだ。その様子はできの悪い生徒を評価しようという教師のようでもある。
「一つ目は
「どういうことかな?
アルゼイスの顔をまっすぐ見つめて私は答える。
「
「ふむ……たしかにあの連中を身分で押さえる事は出来ぬな」
「はい。今後の事を考えればそちらの方が我が国のためになると判断いたしました」
「まぁ良かろう。次は?」
「二つ目は、工作時間の確保です」
「新子爵の後見、エルデ村のセレンス伯爵家からの割譲がそれか?」
「エルデ村の方は僥倖でしたが、新子爵の後見は私が考えていたことです。両子爵家は利用価値が高い」
私の返答に三人は思案顔を浮かべる。
「ご承知の通り
「その間に証拠を始末するということか?」
イルザムの問いかけに私はニヤリと嗤って頷いた。即座に理解するというのはやはりこの方も私と同類だ。
「はい。もしくは別の一手を打つための時間を稼ぐ事ができます」
「ふむ。それでは最後は?」
アルゼイスの言葉に私はまたも
「私の矜持のためです」
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