法律に縛られた世界で、転職賢者は経験と知識と煽り言葉を武器に戦い続ける

ざくろ山

プロローグ

 剣から放たれた闘気の刃は弧を描きながら一直線に進み、ヒュドラの首を1つ落とした。すでにこれまでの戦いで3つの首を失い、残る首は5本となっていたヒュドラだが、それでも力尽きる様子はなく、なおも荒々しく炎や毒液を吐き散らしている。


「みんな、射線を開けろ!でかいのが行くぞ‼」


 魔法の詠唱を終えた魔導士の号令に応じて、前線で戦うナイトやバーサーカーらは一斉に退避した。魔導士の杖に魔力が集まり周囲の空間が揺らぐ。肉眼でも良くわかるほどの膨大な魔力だ。その圧縮された魔力を一気に解放すると巨大な炎の弾が出現した。多くのモンスターを巻き込みながら高速で飛んでいく火球はヒュドラに直撃すると炎の柱に変化し、そのすべてを燃やし尽くした。


「さすがだ!シリウス!」

「なに、私にかかれば九頭龍もこんなもんさ。だが油断するなよ。大物は他にもまだまだいるぞ。」


 魔王に奪われた人類の土地を取り戻すために始まった戦争は最終局面を迎えていた。百人を優に超える冒険者たちが人間の未来を取り戻すために立ち上がり、無数のモンスターを倒して魔王城に迫っていた。進軍が進むにつれて先程のヒュドラのような巨大モンスターも出現し、戦いは苛烈を極めていた。


「足止めされていたウリエルの聖人の部隊がパズズの魔人を落としたと伝令があった。もうすぐ合流できるはずだ。流れはこっちに来ているぞ。全員足を止めるな!」

「俺たちにもオリオンの聖人がついている!恐れるな!前に進め!!」


 各部隊の戦果報告を受け取った戦士たちは益々士気を上げて、魔王軍に切り込んでいく。進軍を進めるその足元に地割れが発生し、マグマが噴き出した。降り注ぐ溶岩を浴びた冒険者たちの悲鳴が戦場に響き渡る。


「こんな広範囲の地属性と火属性の混成魔法なんて、人間技じゃない。気持ちを切り替えろ、死ぬぞ!」

 さきほどシリウスと呼ばれた魔導士が警戒を促すのとほぼ同時に無数の氷柱が彼らに降り注いだ。パラディンが光の盾を作り範囲防御をするが、カバーできない者たちはその攻撃に倒れた。


「ちくしょう、一体何が起こったんだ⁉」

 慌てふためくナイトに近づきそっと諭すようにシリウスは語った。

「切り替えろと言っただろう。魔王が魔王城に引きこもっていると誰が決めたんだ。必要とあれば最前線にも出張ってくるのが、優秀な指揮官だ。ほら、なかなか見れるもんじゃないぞ。ルシファーの魔王なんて。」


 天使や神々の力を宿した聖人を中心に編成された人間たちの最終目標は、悪魔ルシファーと契約した魔人である。元々は人間だが、全身が黒く硬質化し、巨大なコウモリを思わせる翼をはやしたその姿はあまりにも禍々しく、人としての面影を残してはいない。多くの魔人を統べるルシファーの魔人は魔王と呼ぶにふさわしい存在だ。


「さぁ行くぞ!ケジメを付けるときが来た!」

シリウスは再び杖に魔力を集中させた。

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