第4話 宿泊する

 二人とも森の中を抜ける不安と緊張でへとへとだった。

 街は古い石造りで、防壁によって周りを守られていた。入り口は大きな門が北と南に一つずつあるだけ。さてどうやって中に入ろうかと考えあぐねていると、何かの荷物を積んだ馬車がやってきて門の前で止まった。


 「あれよ。あれにしのび込もう」

 リーナもそれにうなずく。

 木々に隠れながら、足音を忍ばせて、馬車の後ろに接近すると、中にもぐり込んだ。やがて馬車は街の中へ向かって進みだす。

 コレットがささやく。

 「思ったより楽勝ね」


 馬車が停車する頃合いを見計らって、二人は外へ降りた。リーナはぶるぶると手足をふるわせて、とても寒そうにしていることにコレットは気づいた。そういえば、リーナはパジャマ姿のままだったのだ。


 「どこか休めるところ……」

 「コレット。宿屋に泊まろう。お金は持ってきたから」

 「お金なら私も持っているわ、でも宿屋がどこにあるのか」

 コレットはあたりを見渡すが、どこの家々もランプを消して、静まり返っている。

 「とにかく歩こう」コレットははげますように言う。

 震えているリーナが無言でうなずいた。


 宿屋はなんとか見つかった。

 歩きに歩き、とっくに月が真上を通り過ぎた頃だった。

 叩き起こされた宿屋の主人は不機嫌ふきげんそうに、深夜におとずれたあやしげな少女二人を見つめていたが、詮索せんさくはされなかった。


 二人で合わせても、お金が足りなくて一人分の部屋しか借りられなかった。

 なので、何とか借りた部屋はベッドが一つしかなく、仕方なく二人で一つのベッドを共有して、身を寄せ合うようにして、深い深い眠りに落ちた。それほど二人とも疲れ切っていたのだ。もっとも仕方なくと思っていたのはコレット一人で、リーナはそうでもない様子だった。


 コレットが起きたとき、既に太陽はのぼりきっていた。

 どうも窮屈きゅうくつな感覚がして目が覚めたのだ。

 意識がはっきりして、あたりの状況を確認すると、驚いた。リーナが、ここまで持ってきたまくらをほっぽりだして、コレットを抱き枕代わりにしていたのだ。手と足をコレットの体にからませてぐっすり眠っている。これでは窮屈なはずである。ただでさえ一人用のベッドなのに。


 「リーナ、リーナ起きて」

 コレットはリーナの絡みつく手足から逃れようと、体をよじる。

 「コレット。行っちゃ嫌」

 リーナのひとみは閉じたまま。息遣いきづかいも規則正しい。どうやら寝言らしい。

 今の寝言で、コレットは昔のことを思い出した。


 まだ学校でコレットとリーナが友達になる前の話だ。

 コレットはある日、リーナがいじめられているところに遭遇そうぐうしたのだ。当時のリーナは引っ込み思案じあんで暗い子だった。掃除を一人でやらされていたのを見つけたコレットは、掃除を押し付けた子たちを片っぱしから捕まえて、魔法でこらしめてやったのだ。


 そのおこないが先生に見つかり、コレットは停学寸前までいったが、リーナの必死のうったえによりなんとか停学はまぬがれた。リーナは自分がいじめられていることを話すのが今思えば辛かったのだとコレットは思う。それでもリーナはコレットのために、気力をふるい立たせて自分のことを話したのだ。


 だが、あの時先生の前で見せた涙はコレットをかばったものではく、いじめられていることを先生に言えなかった自分の弱さを恥じたものだったのだろう。リーナはきっとコレットが暴れる前に、先生に言う勇気があれば、コレットが停学寸前の問題児扱いされることもなかったと思っているのだ。


 この出来事以来リーナはコレットになつくようになった。そして彼女は段々と強く明るくなっていったのだった。

 これがコレットとリーナが友達となったなりゆきである。

 「そんなこともあったっけ」コレットはぽつりとつぶやく。

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