ー 来歴 ー

 エレカンペイン王国において、傍流だが当時の王の長孫として生をける。

 父は当時の国王の第二王子、母は王弟ラヴィッジ伯の長女と、両親共に王族。母は隣国カンファー王国の貴族ソーン伯の女子継承人でもあった。

 王国はその二年後に代替わりして伯父が王位に就き、その時点で第三位王位継承者となる。

 六歳で母より家督を継承し、ラヴィッジ伯、ソーン伯を名乗る(エレカンペインではラヴィッジ伯が通称)。この時点でカンファー王国における世襲貴族の筆頭。

 幼少期は父の領地ウォータークレスの城で過ごしたが、母の家督相続を機に生誕地であるラヴィッジの州都ダイアンサスに戻り、母とラヴィッジの城代の補佐の許、領事にたずさわる。

 この時期、数度にわたりソーン伯としてカンファー宮廷にも足を運んでいる。母は病弱で長旅に耐えられる身体ではなく、その際には父が同行していたが、エレカンペイン王弟である父はカンファー宮廷に口を出せる立場にはなく、基本、ソーン伯としての発言や行動についての責任はすべて自身に帰するものであった。

 エレカンペイン王族でありながらカンファーにおいて国王以上の実権を握るとされるソーン伯家の当主である彼は、子供時代から難しい立ち回りを要求される立場であった。


 十歳の時に母シスリーが病死。

 その数か月後、父シダーウッドが死亡。

 エレカンペイン王国第二位王位継承者となり、父に代わりウォータークレス公に封ぜられる。

 しかし、ウォータークレス公位の継承と同時に、父の死の原因となった出来事のために、ケンプフェリア大聖堂付き僧院への蟄居ちっきょを命じられ、以降、おおやけにはエレカンペイン国内の領地へ戻ることは許されないまま現在に至る。

 彼の処遇が幽閉ではなく蟄居で済んだのは、ひとえに本人とその側近の立ち回りにるものであった。


 蟄居後は主にケンプフェリア大聖堂のアガヴェ大主教の許で教育を受け、また非公式にではあるが、武術全般については大主教の甥にあたるラングワート家のリエール卿に師事する。この際、身分を隠して僧院を出、師の騎士見習いというていでエレカンペイン国内を転々とした。

 彼が身分に反して自身の身の回りのことや、完璧ではないまでも野宿といった実践的な技術を習得し、市井の人間とも抵抗なく話せるのはそのときの経験と師の教育による。


 エレカンペインの王都、ラウウォルフィアの宮廷に関わることは許されず、蟄居後は一度も王宮に足を踏み入れていない。政治に関わる重鎮とも交流を絶たれたままである。

 ただし、母方の血筋であるリリー=アイブライト家はソーン伯として隣国カンファー王国におけるリリー一門の後見役を担っているため、カンファー宮廷への関与は一応認められている。


 十五歳を目前に、伯父の命により目付け役としてリエール卿を伴い、カンファーの王都エキナセアに赴き、そこで十五歳の成人を迎えた。

 この際、これまた伯父の命で、幼馴染で遠縁にあたるリリー家のフレーズ伯息女、アルテミジア姫を愛人(この文化圏に側室という概念が無いため、いかなる理由であれ、正妻でない以上は愛人と称される)に迎えることとなる。

 ただしあくまでケンプフェリアの僧院に蟄居処分となっている身であるため、数日間フレーズ邸に滞在したのち、彼女を伴わずに帰国せざるを得ず、その後も定期的に彼女を訪う予定であった。


 十六歳になる直前、カンファーにおいてそのアルテミジア姫が自死する事件が勃発。報告を受けケンプフェリアを抜け出し、単身エキナセアに入った彼は、カンファー国王にその責を問い、彼女の死を招いた兄のフレーズ伯ローゼルよりリリー一族の宗主権を剥奪して自身に付すよう迫り、これを承認させた。

 以来、アイブライト家の身でありながらカンファーの権門リリー一族の宗主も務めている。

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