サイバー・フロント

書い人(かいと)/kait39

VSエレクトロマスター

 仮想のネット世界で、とある戦い、サイバー・スポーツの一種が行われていた。

 無数の兵器パーツを組み合わせてできる兵器、『バリアブル』。

 そう定義された名前の兵器を操縦し、駆り、戦い抜く。

 バリアブルの操縦兵パイロットが今日も戦場で戦い、散っていく。


「まあ、そんなに詳しくないけどね」

 と、黒髪を伸ばした少女であるサレットはそう言った。

 彼女がノートパソコンを有線で繋いでプログラムを調整しているのは、運営本社から提供されてレンタルした真っ黒なカプセルである。

 極めて高速かつ、大容量の通信が発達した今日では、この真っ黒な『パイロット・カプセル』からサイバー・スポーツと言う一連のゲームの一種――『サイバー・フロント』で戦うことができる。

「動かし方はゲーセン通りだ。

 拡張プラグインも問題なし。このまま戦うには少し不安が残るけどな」

 空気が多少入る程度に閉鎖されたカプセル内の声が、外のスピーカーを通じて聞こえてきた。

 少年の声だった。

 カプセルの前と後ろが大きく開く。

 空調の行き届いていたそれから冷気が漏れると、それが外部空間、室温と混ざった。

「アール、そんなに寒くしていたら風邪引くわよ」

 サレットにアールと呼ばれた黒い短髪の少年が口を開く。

「真夏だぜ?」

「電気代も。ただじゃないんだから」

 カプセルの中にはモニター、操縦桿、複雑な計器などが備わっていた。

 彼らが詰めているのは、高層ビルの一区画にあるレンタルオフィスの一室である。

 この少年少女二人は友人同士であり、同じ学校のクラスメートだ。

 毎日のように、補導されそうになるような時間までゲームセンターでこの『サイバー・フロント』に明け暮れ、時間と小遣いを支払った。

 その結果が、オーナーが付いた上でのプロ契約だった。

 使っているデバイスなどの一部には広告が付き、それらのスポンサー料と大会での賞金が彼らの主な収益源となる。

 勝てれば、だが。

「土日祝日しか来れない縛りはたしかに辛いな。

 ジュニア部門があるわけでもないし」

 サイバー・フロントに年齢制限は基本的にない。

 操縦するための体格が実質的な制限になったり、未成年が大会での賞金を受け取るにはオーナーのような代理人が必要だったりと、いろいろと面倒な事はあるのだが。

「何度も言うけど、初陣ういじんは今日の午後五時。

 それまで調整を続けるわよ」

「ああ」


 午後四時五五分。

 最終調整をとっくに終え、対戦相手と、戦闘空間の開示を待つパイロットのアールとオペレータのサレット。

 時間になる。

 オンライン回線が光情報を運び、ノーラグで対戦相手と繋ぐ。

 戦いの舞台となるのは、一つの街である。ゲーム内時刻は昼間。快晴。

 複雑な建築物もあれば、開けた湖畔などもある。広い空間内にそれらが一定の計算式アルゴリズムの上でランダムに置かれる仕組みだ。

 二〇〇メートルの距離を開けて、開けたその湖畔の両サイド、湖を挟んで二機のバリアブルが対峙していた。

「パーツ、見たこともない機体だ」

 敵は二〇メートルほどの黒い球体のボディをしていた。

 たとえるのなら、海苔のりで全面を覆ったおにぎりのようなものに、さらに黒いパーツが幾部分かに貼られ、接続されている。

 他方、アールは標準的ともいえる人気の、人型のパーツを採用していた。

 灰色のカラーリングで、全高は一七メートルほど。全身の各所に武装を施している。

 機体名は『SERAFIMセラフィム』。

 戦闘開始直後、敵バリアブルはアールから見て右に移動した。速度は遅めだが、機体の下部分に推進装置スラスターがあるらしい。

 アールも右回りに走って近づく。

「ロックオン」

 照準を終えると、三〇ミリ口径の突撃銃アサルトライフルタイプ機関砲マシンガンを秒間一〇発で撃ち込む。

 バナナ型弾倉の装弾数は一二〇発で。予備の弾倉は六つ。

 黒の球体、機体名『KANDEN』の周囲で黄色い稲光いなびかりが瞬く、と三〇ミリ弾は敵機の手前で弾け飛んだ。

 すぐに攻撃を中止した。

「電磁防壁の自動防御か!!」

『近づかないで! 相手の動きがわからないわ!!』

 サレットに言われるか早いか、アールはセラフィムの高速飛翔用スラスターを全力で使用して、市街地へと移動する

 電流がほとばしる。稲妻の放電・放射だった。

 ビルの影に移動する直線で、セラフィムの左足が電流に引っかかった。

「損傷、軽微。

 まだ歩けるが、なるべくならスラスターを使ったほうが良いだろうな」

『時間はあまりない、ということね』

 アークジェット推進式のスラスターを使用すると電力キャパシタをひどく消費するのである。

荷電粒子かでんりゅうしランチャーの威力なら貫けるはずだ」

 両方の肩部一つずつ配備された、使い捨てのロケットランチャーに似た荷電粒子キャノン。

 三〇ミリ機関砲を背中に装着マウントして戻し、アールはその筒花火に似た物騒なランチャーを手に取った。

 スラスターを使ってジャンプするように飛翔すると、ビルの上に飛び乗る。レーダーで敵の位置は筒抜けだ。

 発射体制に入る。

 荷電粒子ランチャー。

 ゲーム内の設定上は、中性子を束ね、亜高速まで加速させて敵を貫く兵装ということだ。

 ランチャーの利点は、電力キャパシタと切り離された兵装であるため、こちらの機体の電力を消費しないというものがある。

 弱点は使い捨てであり、一度放てば廃棄するしかないというところだろう。

 ロックオンが完了する。

「発射する」 

 敵機である球体は同様にビルに隠れているようだが、ビルは破壊可能だ。それごと貫く。

 アールが操縦桿の主武装用トリガーを押した瞬間、一切のラグなしで敵を破砕するビームが放たれた。

 何重ものパルス。衝撃波と電流が飛び散った。

『敵機健在!!』

 サレットが敵機の存続を警告する。

 破砕されたビルディングの土埃が払われる。

「電気……プラズマの鞭だと!?」

 合計八つの鞭状のプラズマが重なり合い、スパークを伴って球体正面を守っていた。

『敵の球体は、おにぎりじゃなくて蜘蛛だったようね』

「引き続き、敵の情報を処理してくれ」

 アールが冷や汗気味にそういう。

 KANDENが跳ねる。雷の鞭を地面に突き刺し、跳躍したのだ。

 アールはスラスターを使い後進。一旦距離を置く

 敵の移動速度は極めて早かった。飛翔能力はほぼないものの、超高速の三次元立体起動を八つの足――プラズマの鞭によって可能としていた。

 ビルに鞭を突き刺すと、即座に飛び跳ねる。それを何度も繰り返してこちらに接近してくる。

 アールは撃ち放った後の荷電粒子ランチャーはとうに廃棄し、またしても三〇ミリマシンガンを空中で構え直す。

 近づけさせまいと、ブレる狙いで機関砲を乱射する。

 ある程度狙いが定まり、着弾する手前。

 KANDENはプラズマの鞭で弾丸を絡め取るように防御。三〇ミリ弾が焼き切れた。

 動きは止まるが、続くアールの発射した弾丸を、今度は電磁バリアを展開されて防御される。

『プラズマの鞭は電力消費がとんでもなく激しいはず。

 そうじゃなきゃ、切り替える理由がないわ』

「電磁防壁にプラズマの鞭、いずれにせよ弾丸は防がれる。後者に至っては荷電粒子ビームを防ぎやがったからな」

『敵の攻撃能力は中距離までと思われる。

 電力キャパシタを消費させてエネルギーの枯渇こかつに追い込むか、罠を張って攻撃を着弾させるか。

 その辺りしかなさそうね』

「いずれか、とにかく勝てればいい」

 アールはスラスターを使って大きく飛翔し、後進する。

 距離を置くが、遠距離攻撃手段のないKANDENは必然的に距離を詰めようとしてくる。

 プラズマの鞭八本のうち四本で飛び跳ね、残る四本で攻撃を防ぐ。

「地雷を設置する」

 アールのSERAFIMにある右腰の小型カーゴから、設置型地雷を素早く用意。

 KANDENの死角となるビル群に入り、四箇所。十字形にビルの横を囲うように地雷を設置した。

 地面に置くのではなく、取り付けたのだ。

 アークジェットで飛翔。二発目の荷電粒子ランチャーを構えつつ、上昇する。

 KANDENはそのビル群四方の中心へとまんま入るが、ここで地雷を発破させても、電磁防壁に防がれるだけだが――。

『かかった!』

 アールとサレットが唱和し、『狙いを定める』。

 引き金を引くと同時に中性子ビームが放たれ、またプラズマの鞭全て・・束ねて防がれる。

「爆破だ」

 わずかな差で、地雷のスイッチを押す。

 四方から指向性の爆発を受けて、KANDENは薄い装甲を破かれる。

 さらに追い打ちの三〇ミリ機関砲弾をアールは放ち、その全てが着弾する。

 相手パイロットは、電磁防壁に切り替える精神的余裕がなかったのか、それとも地雷でそのシステムがダウンしたのか。

 何にせよ、アールたちはその戦いに勝利した。

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