第33話いつか遭うあなたのために
ヘイゼル島でのバトルロワイアル、そしてオークキングとの邂逅。
怒涛のピンチをどうにか切り抜けた俺は、無事ロボの電池交換を成功させた。
これで当分は問題なく動けるらしい。
突発イベント自体も盛況だったようで、特別報酬なんかの話題でどこも持ちきりだ。
ルリエッタは……リスポーンしなかった。
港町ラフテリアの復帰ポイントでしばらく待ってみたものの、その姿は見られないまま。
それから二日経ち、三日が経った。
モンテールの酒場に戻ってきた俺は、ぼんやりと窓の外を眺める。
テーブルを挟んだ正面の席には、スピカと雪村。
隣は空いたままだ。
店内では吟遊詩人たちが楽しそうに楽器を鳴らし、歌う。
今日も変わらず盛況だ。
「待ってたぞ!」
「ッ!!」
聞こえた声に慌てて振り返る。
そこには、楽しそうに戦利品の確認を始める四人パーティ。
「……俺、探しに行く」
そう告げて、立ち上がる。
雪村とスピカにも、ルリエッタとの出会いや自爆後のリスポーンができない事は説明済みだ。
「ルリエッタがいれば、クエストが成功しようが失敗しようが、モンスターから逃げ回ったあげくリスポーンになろうが、何をしてたって楽しかった。いつでも楽しそうなあいつと世界を駆け回ることが、俺にとっては……本当に大切だったんだ」
約束から10年。
ずっと再会の時を待っててくれたAI少女・ルリエッタ。
「まだまだこんなもんじゃ遊び足りないはずだ。俺だって全然足りてない」
そう、この広すぎる世界を俺たちはまだ1/100も見ていない。
冒険は始まったばかりなんだ。
「そしてルリエッタはこの世界にしかいない。だから、必ずどこかにいるはずだ」
チュートリアルから始まったユニークシナリオ。
こんな終わり方をするはずがない。
いや、させない。
「消えた大切な仲間を取り戻すことが、この世界における俺のゴール。たとえどんなに大変でも、どれだけ時間がかかってもいい。ルリエッタを見つけて、一緒にこの世界を遊び尽くす。それこそが――――俺の物語なんだ!」
……だから。
「急な話で悪いな。けど、二人にも今後を決めてもらいたい」
「でも……」
何やら言いづらそうにしてる雪村。
それも当然だ。雪村は明確な目的があって俺たちに付いてきたんだもんな。
ルリエッタを探すための旅を始めるとなれば、少し状況が変わってくる。
そう簡単に答えは出せないだろう。
「スピカはどうだ?」
ただ静かに、雪村と顔を見合わせてるスピカ。
「もちろん無理にとは言わない。これは……俺の物語なんだから」
それでもスピカは変わらない。
ただ真っすぐに、俺を指さした――。
「翔太郎」
「なんだ?」
「後ろ」
「……後ろ?」
「そう、後ろ」
言われて振り返る。
「…………えっ?」
目を疑う。
そこには、うれしそうに瞳を七色に輝かせるワールドナビゲーションAIの姿。
「翔太郎ぉぉぉぉぉぉ――――っ!!」
「お、おおおおおおおお――――っ!?」
猛ダッシュで駆けて来たルリエッタは、そのまま抱き着いてきた。
あまりの勢いに、俺は床の上に押し倒される。
「そうか! 翔太郎もまだまだ遊び足りないんだな! わたしもまったくもって同じ気持ちだぞ!」
「なんで!? どうなってんだこれ!?」
ギューギューと腕に力を込めてくるルリエッタ。
どうしてこんなしれっと戻ってきてんだ!? 意味が分からねえんだけど!
そんな俺たちを見て、スピカは静かに立ち上がる。
「消えたルリエッタを探す物語……エンディングになります」
ぱち、ぱち、ぱち。
スピカの始めた雑な拍手が、すごい勢いで広がっていく。
な、なんだこれ……。
いつの間にか酒場中の人に見られてる!
「や、やめろ! なんかめちゃくちゃ恥ずかしいから拍手を止めろ!!」
「いいエンディングだったね」「よく分からないけど感動した」「VRMMOはこうでないと」
振り返ってみると、めちゃくちゃ恥ずかしい俺の一人語りを丸々聞いてたのであろう酒場の客たちは、ニヤニヤしながら手を叩く。さらに。
「……おい、この曲はなんだ吟遊詩人ども! エンディングっぽい壮大な曲を演奏するんじゃない!」
「おめでとう!」「クリアおめでとう!」「今までありがとう!」
「やめろってマジで!」
ヤバイ、恥ずかしすぎて顔が熱い!
「おいルリエッタ、これはどういうことなんだ!?」
ルリエッタは首を傾げる。
「自爆したらリスポーンしないって言ってただろ!」
「リスポーンはしないぞ。自爆した場合は、北の遺跡にあるスペアの身体で再起動するんだ。そこから帰って来るのに時間がかかってしまった」
「そんなの聞いてねえんだけど!」
「緊急事態だったからな」
てへっ。と舌を出してみせるルリエッタ。
お前そんなのどこで覚えてきたんだよ!
「ていうか雪村たちは気づいてたよな! ルリエッタが店に入ってきたの」
「うん……でも翔太郎くんの迫力がすごくて言い出しにくかったんだよ」
「そこは無理にでも止めてくれよ……っ」
俺という最高のおもちゃを見つけたギルド酒場は、盛り上がる一方だ。
二人の常連客がホールの真ん中にやって来る。そして。
「俺……探しに行く(真顔)」
「だからやめろって!」
「それこそが……俺の物語なんだ!(迫真)」
「やめろって言ってんだろ!」
ルリエッタがいるのに気付かず俺が決意を固め出す感じ、めちゃくちゃ再現できてんなオイ!
「いいポエムだった」「熱いポエムだな」「ポエム助かる」
ドッ! ワハハ!
「……ルリエッタ」
「なんだい翔太郎」
「――――もう一回自爆してくれ。こいつらごとこの街を吹き飛ばして、恥ずかしい記憶を消し去ってやるんだ!」
ドッ! ワハハハハ!
「笑ってんじゃねえよぉ!」
戻ってきてたルリエッタに気づかなかったことで、恥ずかしいポエムを熱読してしまった俺をつまみに盛り上がるプレーヤーたち。
ダメだ、これはもう何も言っても収まらない。
だって俺自身、誰かのこんな状況に立ち会ったら冷やかしまくるに決まってるもんなぁ!
「ああもう! 行くぞっ!」
俺はそそくさと酒場を後にする。
「翔太郎くん。私はルリちゃんを探す旅でも一緒に行ってたよ」
「当然」
ニヤニヤしながら付いてくる雪村とスピカ。
「翔太郎、ロボは!? ロボは元気か!?」
「元気だよ」
ロボの安否を確認して、「やった!」と拳を振り上げるルリエッタ。
「それなら今日は、どこへ行くんだっ!?」
「どこが面白くなりそうなんだ? 雪山か? それともジャングルか?」
さっそく駆けつけて来た、10年来の友達に問いかける。
するとその翠眼をキラキラと輝かせ始めたルリエッタは、もう我慢できないとばかりに俺の腕を引く。
「どこだって楽しいに決まってる! スピカ、雪村、そして――――翔太郎が一緒なら!!」
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