第31話対決・帝王獅団
突然の衝撃波に、倒れ伏すプレーヤたち。
そのど真ん中を突っ切って来るのは、二人の男女。
一人は銀色の長い髪に、悪魔のような二本角。
歳は俺と同じくらいか、深紫のノースリーブをまとった妖艶美女だ。
その背後をついてくる……あれはなんだ?
ダークグレーの巨大な人型スライムが、美人の後をついてくる。
全身に入った紋様が禍々しくて、なんか相当ヤバそうだぞ……。
そしてもう一人、ガッチリ体型の男は紺碧の鎧に身を包んだ騎士。
柄の長い鍔なしの剣を引きずりながら歩いてくる。
「従魔士グリシャと、黒騎士ベルガー……」
すでに観戦モードのプレーヤーたちが、ゴクリとノドを鳴らした。
バトルロワイアルを勝ち抜いてきた者たち同士、俺たちは自然と向かい合う。
「ずいぶんと活躍したみたいね。でも、前座はもう十分よ」
自信に満ちた表情で、ハッキリと宣言するグリシャ。
「俺たちに出会っちまった不運、察するぜ」
な、なんかカッコいいこと言ってる……。
こんなの、よほどの強キャラじゃないと言えねえやつだぞ。
「……って、冒険者?」
「ああ、確かに俺は冒険者だ。だが……あんまり舐めない方がいい」
「その通りだ! 翔太郎を舐めるなー!」
「ふーん」
従魔士グリシャが片手を上げる。
すると『人型』から『水たまり型』に姿を変えたスライムが高波のように隆起。
その巨大な口で、プレーヤーを数人まとめて飲み込んだ。
「さて、準備運動は済んだわね」
「「…………」」
なるほどね。
俺はルリエッタとしばし見つめ合い、やれやれと笑い合った後……。
「「うわああああー!!」」
全力で走り出す!
こんなのまともにやり合えるはずがねえッ!!
「食い尽くしなさい、ディープワン」
「お、おいおい! あのスライムめちゃくちゃ足早えぞ!」
地面をものすごい勢いではい寄って来たスライムが、大きく波打つ。
「ルリエッタ!」
「翔太郎!」
左右に飛び込む形で散開。
喰らい付きに来たスライムの牙をかわす!
ていうか、牙の生え方がマジでえげつねえな! 怖すぎだろこんなのッ!
即座に立ち上がった俺たちは、再び合流して逃げ回る。
「ちょおおおおっ! 今尻を浅く噛まれたぞ!」
「わたしもだー!」
ガチガチと俺たちの真後ろで歯を鳴らすスライム。
ああ、なんか以前にもこんな展開やった気がする!
「もう一回! いきなさいディープワン!」
「翔太郎っ!」
ルリエッタが俺を抱き込む形で飛びついて来る。
ゴロンゴロンと転がる俺たち。
その直後、サメのような形状をしたスライムが俺の数センチ横を通り過ぎて行った。
「あっぶねええええー! サンキュールリエッタ!」
「ふーん、逃げ足はなかなかのものじゃない。でも、そんなんじゃいつまで経っても勝ち目なんか生まれないわ」
グリシャはそう言って、わざとらしく頬に手を当てると――。
「本当、私ったら強すぎ」
めちゃくちゃ調子乗ってんなあ! 余裕かましてくれやがって!
「ほらほら、もっと楽しませてくれてもいいのよ冒険者さん! 貴方たちの力を見せてちょうだい!」
「確かにこのままじゃ埒が明かねえ! やるぞルリエッタ、俺が引き付けるからその間に狙いをつけるんだ!」
「了解だー!」
俺はあえて速度を落とし、ルリエッタと別れることでスライムのターゲットを引き受ける。
得意の逃げで喰らい付きをかわし、再び逃走。
いいぞ、スライムがターゲットを俺に絞ってきた!
あとはわざと追いつかれて……スライムが波打ったところで――!!
「今だ! やれルリエッタァァァァ!!」
「任せろー!」
「はっ! 何をしたってムダよ! その子は防御力も半端じゃない。私の全てを注ぎ込んだ最強スライムなんだから! 本当に、強すぎちゃってごめんなさいねぇぇぇぇ!!」
今まさに俺を飲み込もうとしてくるスライム。
ルリエッタの目が、まばゆく輝き出す!
「――――デストロイビーム!!」
最強スライムは、爆散した。
「…………えっ?」
ポカンとするグリシャ。
さあチャンスだ! 従魔ってことは、死んだ場合は復活までしばらく時間かかるはずだ!
「行くぞォォォォ!! モンスターを失った従魔士さんよォォォ!」
俺は霊角の短剣を手に、隙だらけのグリシャに襲い掛かる!
「……あなた達こそ、私をあまり舐めない方がいいわ」
そう言ってゆらりと一歩、踏み出したグリシャは――。
「きゃあっ!」
思いっきりすっ転んだ。
「な、何よこれ……っ!?」
その足もとには、粘液。
「ちょっと、全然動けないんだけど! どうなってるのよこれええええ!?」
「ウォォォォーッ!」
倒れ込み、粘液まみれになったグリシャのもとに仕掛ける特攻。
するとグリシャは、憎らし気な顔で俺を見上げて――。
「ちょっとだけ調子に乗っちゃったかも……てへへっ」
ごめーんね? と小首をかしげてみせた。
……イラッ。
「きゃあああああ――っ!!」
全力で媚びてきたグリシャに、俺は容赦なく霊角の短剣を振り下ろした。
「あーあー、油断しやがって。負ける相手じゃねーだろ」
ため息をつき、強気の笑みを浮かべるベルガー。
「さあ、こっちも前衛同士で楽しくやろうぜえっ!」
そう吠えて、雪村に襲い掛かる。
「こちとら近接には自信があってなぁ! もちろんそこの魔法使いも加勢してくれていいぜ。そもそも俺が相手なんじゃあ勝負にもなんねえからな!」
強気の笑みを口元に浮かべたベルガーは、スピカに言い放つ。
「高えレベルとイイ武器による圧倒的攻撃力!」
スカッ。振り上げたベルガーの剣をかわす雪村。
「自慢の耐久値と防具によって生まれる防御力!」
スカッ。踏み込んで来たベルガーの剣をかわす雪村。
「それだけじゃねえ! 小型の速いモンスター相手に俺自身のプレーヤースキルも上げてきてんだァァァァ!!」
スカッ。
「ぜんっぜん当たんねえ!! どうなってんだよこいつ!? 打ち合いならまだしも当たらねえってなんだよ!!」
雪村、本当に回避は天才だな。
まるで本物の忍者みたいだ。
「ああもうめんどくせえ! ――――ソードブラスト!」
「ッ!!」
しかし突然の範囲攻撃に、雪村が顔色を変える。
横なぎに合わせて広がる衝撃波。
慌てて後方へ下がり、ギリギリのところで範囲外へと抜け出した。
「……そういうことか」
その姿を見て、ベルガーがニヤリと笑う。
「そんだけ速えんだ。その分防御はペラペラ、範囲攻撃には打つ手なしってかぁ?」
一変。ベルガーは怒涛の勢いで【ソードブラスト】を連発し始める。
「うわっ! うわわっ!」
「どうしたどうした! 逃げてばっかじゃ勝負にならねえぞ! さっきまでの勢いはどこ行ったぁ!」
連続で放たれる衝撃波に、雪村は逃げの一手。
「もっと攻めて来いよ! 勝負にならねえだろうがあ!」
必死にクナイ投げで応戦するも、ベルガーの厚い装甲を前に大したダメージは与えられない。
「ハーッハッハ! 結局、俺に勝てるヤツなんざいねーんだよ!」
雄たけびと共に放たれた範囲攻撃は……軌道が違う!?
「ッ!?」
突然技を変えて来たベルガーにギリギリの回避を見せるも、雪村は大きくバランスを崩した。
当然ベルガーは、この隙を逃さない。
「そーら行くぞォォォ! こいつで俺の勝ちだァァァァァァ――!!」
勝利宣言と共に剣を振り上げたベルガーは、大きく一歩踏み込んで――!
グシャ。
「…………?」
突然、動きが止まる。
その足元に――――粘液。
「うおおおおおい!! なんだこれ全然動けねえッ!!」
「狙い通りっ! いけるよねスピカちゃん!」
「問題ない。準備はできている」
スピカの詠唱時間を稼ぎつつ、粘液への誘導。
雪村のヤツ、完璧じゃねえか!
「――――水星逆行」
「ウ、ウオオオオオオオオ――――ッ!!」
本日三発目の大魔法。
噴き上がる水刃に高々と打ち上げられたベルガーは、そのまま頭から地面に突き刺さって斃れた。
「やったあ!」
これで二連勝。
歓喜の雪村は、スピカのもとに走り出す。
「ありがとうスピカちゃ――」
突如、巻き起こった爆炎。
雪村の目前で、スピカが消し飛ばされた。
一撃必殺。煙を上げながら倒れ伏すスピカに、雪村は茫然とする。
「グリシャとベルガーを倒すとは、なかなかやるようだ」
深紅の剣を手に、戦場となった平原をゆっくりと歩いてくる一人の男。
着こんだ鎧に、赤いマントを翻しながら俺たちの前にやって来る。
肩まで届く橙色の髪を大雑把に後ろへ流した姿は、ライオンのよう。
「帝王だ……ついに帝王が来た……っ」
観戦プレーヤーたちがざわめき出す。
仲間二人が倒れてもなお、帝王と呼ばれた男は不遜な笑みを浮かべていた。
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