第20話緊張マスターマインド
「すげえ……」
「ワクワクしてしまうな、翔太郎」
ルリエッタが、うれしそうに見上げてくる。
広がる大きな空間。
ここでも、綺麗に削られた岩の表面には幾何学模様。
その模様に沿って走る光が、ほどよい光源になっている。
この不思議な光景、まさに異世界の遺跡って感じだなぁ。
「あっ、ドアが閉まっちゃうよ!」
「構わないよ。昇降機に戻ったところで地上への道は閉じられている」
年齢は50歳くらいだろうか。
ちょっとワイルドな雰囲気をした先生は、そう言って閉じるドアを見送った。
「それなら、どうやってここを出るんですか?」
「ホロスコープ中央の聖火台に、四つのオーブをはめ込むんだ」
「……四つ?」
「その通り。君たちが持っている三つのオーブと、私の三つ。計六つから正しく四つ並べれば遺跡が起動し、道が開かれる」
「四つって、どれですか?」
雪村がたずねると、先生は首を振った。
「分からない。紋章の意味を解読できれば、正しい並びが分かるはずなのだが……資料がそろっていないんだ」
「出られないってことですか?」
「ただ、正しいオーブを正しい場所にはめ込んだ際は大きな火が灯る。正しいオーブを間違った場所にはめ込むと小さな火が点くようになっている。そして必要ないオーブは、はめても火が点かない」
「なるほど、ヒントはくれるってことか」
「んー、やっぱり紋章の意味が分からないと無理じゃないかなぁ」
「……その必要はない。オーブが正解か否かは炎が教えてくれるのだから、この問題は必ず解ける」
スピカはそう言って紋章入りのオーブを、一列に並べていく。
「左から『123456』でいい。解答はこれの組み合わせでしかない」
「これって『1234』が正解の場合、『1356』のオーブをはめ込んだら『1』は使ったオーブも差し込んだ場所も合ってるから大きな炎が一つ、『3』が場所だけ違うから小さな炎が一つ点くってことだよな」
スピカはこくりとうなずいた。
「あとはそれをヒントに、正解の並びを見つけるだけ」
「先生、他にルールは?」
聖火台の下に浮かび上がっている文字を、先生が読みあげる。
「一人一回ずつ計五回で一ターン。失敗だと正解の並びが変わってやり直し。持ち時間は一人につき十五秒で、周りに教えてもらうのは不可とのことだ」
「ダメもとで差し込みまくるのは?」
「不正解だと罰を受けることになるから、体力次第だろうな……」
「ボクが一人目をやります」
唐突に、少年が名乗りを上げた。
……これ、おそらく『そう決まってる』んだな。
勝負の五人目が、少年にならないようにしてるんだ。
「構わない。ルリエッタはどうする? こういうのは得意なはず」
スピカが問う。
なるほど、AIならこういうのは大得意だろう。
「わたしは二手目か三手目がいい」
「……分かった、それなら私が三手目を受け持つ。始めよう」
「はい! ではいきます!」
そう言って少年は、並んだオーブから1234をはめ込んだ。
小さな炎が二つ点灯する。
正解の並びに使われてるけど、場所の違うオーブが二つあるってことだな。
「次はわたしだな!」
続いてルリエッタが2145の順ではめ込んだ。
またしても小さな炎が二つ点く。
「……次は私が行く」
それを見てスピカが、1356の順でオーブをはめ込む。
今度は小さな炎が三つ点灯。
思わしくないのか、スピカは息を吐く。
「次は私にやらせて」
四手目。雪村が選んだのは1532の並び。
小さな炎が三つ。変わらない。
「最後は俺だな……」
ここまでの流れを見ると、ずっと1が入ってるけど最高でも小さな炎が3つしか点いてない。
これ、1は外していいんじゃないか?
あと、4も炎の数に関係してないっぽい。
こうなると残りは順番だ。位置まで正解してるオーブは今までなかったからそれを考慮して……。
「6523だ」
左から順にオーブをはめ込んでいく。
そして最後の一個、3のオーブを右端にはめ込んだ。
「さあ、どうなる!?」
息を飲む。
静まり返る遺跡内部。
次の瞬間、ホロスコープ内に雷が落ちた。
「うおおおおッ!? なんだこれ痛え! ちゃんと痛ええええ――ッ!!」
バリバリと全身を駆け抜けていく強烈な電流に、思わず五人のたうち回る。
お、おいおい、ゲーム内の罰にしてはハードすぎだろ。
スピカなんて、倒れたまま煙を上げてんじゃねえか。
「大丈夫?」
駆け寄った雪村が、手を差し伸べる。
「…………」
するとスピカは、少し迷うようにした後。
「問題ない」
その手を取って、立ち上がった。
「もう一回いきましょう」
少年はまたも、無難に1234を選ぶ。
今度は小さな炎が三つか。
前回よりは条件がいいってことか?
「次はわたしだな」
続くルリエッタは2345の順で並べる。
「翔太郎くん、大きな火が二つも点いたよ!」
今度は大きな火が二つに、小さな火が一つ。
二つのオーブは場所も完全に正解、一つは使うオーブだけ合ってるってことだ。
続いて動き出したのはスピカ。
並びは1245。
大きな炎は一つに減ってしまった。でも。
「……使うオーブはこれで確定だな」
小さな炎も三つ。
これで使用するべきオーブは、全て割り出された。
あとはこの四つの位置を合わせるだけいい。
「よし、今度は俺が行く」
ここまでの火の付き方から考えて、2145の順ではめ込んでいく。
すると大きな炎が二つ、小さな炎が二つ。
悪くないぞ、正解は目前だ!
「ラストだ、頼むぞ雪村!」
「う、うんっ……ええと、これは前に違ってるし、これは……さっきのと同じだし、ここは合ってる可能性が高くて……ど、どうしよう、急がないと雷が! 雷がっ!」
めちゃくちゃ混乱してるな、おい!
「雪村、時間がない! とりあえずはめろ! 俺のと違う並びではめるんだ!」
「あ、う、うんっ!」
大慌てで雪村がオーブがはめ込んでいく。
その並びは251と来て、最後は……4!
さあ、これでどうだ!?
再び訪れる静寂。祈る雪村。
次の瞬間、ホロスコープ内部に再び盛大な雷が落ちた。
「きゃああああああああ――――っ!!」
全身を駆け抜けていく強烈な電流に、全員がプスプスと煙をあげる。
「め、めちゃくちゃ痛え……ていうか最後のオーブをはめ込んだ後にタメの時間作るのやめろ! 何ドキドキを煽ってきてんだよ!」
ピカッ。
「あっ、う、嘘です! すいません!」
雷をチラつかせてくるのは反則だろ……。
三回目の挑戦。
少年はいつも通り、1234の順でオーブをはめ込んだ。
帯電のせいで髪ふわっふわのルリエッタがそれに続き――――そして地獄が始まった。
「しょ、翔太郎くん。雷が怖くてオーブを入れる手が震えるんだけど!」
「分かる。俺もそうだ」
「ああー! 怖いよー!!」
「いや、今回こそ大丈夫だ! 信じろ! 信じるんだ!」
「う、うんっ」
「…………うぎゃああああっ!!」
駆け抜ける電流。
「ええとこの並びはさっきやってるから、1は……どこだ!?」
「翔太郎くん、時間がないよ!」
「ああもう! これで勝負だ!」
「…………きゃああああああーっ!!」
電流。
「「……あばばばばばばーっ!!」」
また電流。
三連続の雷に倒れ伏した俺たちは、打ち上げられた魚みたいにビクビク痙攣する。
「みんな、ごめんねええええ」
死屍累々。
雪村はもう半泣きだ。
「…………でも、今のは惜しかった」
「うう、ありがとうスピカちゃん」
そんなスピカの言葉に、雪村がフラフラと立ち上がる。
「この雷しっかりHP削られてるんだね……次ダメだと死んじゃうよ」
「ダメージは割合なんだな。俺も次で終わりだ」
これに関してはどうやら、スピカやルリエッタも同じらしい。
「これって、スピカちゃんたちを最後にする形はダメなのかな?」
「いや、おそらくルリエッタとスピカで選択肢をかなり絞ってくれてると思う。これを俺と雪村が先にやると、残した多量の選択肢からスピカたちが勘に頼って回答することになるんじゃないか?」
そんな予想に、スピカとルリエッタは首肯する。
頭の回る二人が選択肢を減らして、俺たちが答えるのがベストなんだろう。
「……どっちにしろこれでラストだな。こうなったら絶対正解してやろうぜ」
「その意気だ翔太郎!」
「私もがんばるよ!」
意気込んで迎える最終戦。
少年は、馬鹿の一つ覚えみたいに1234の順で並べた。
小さな炎が二つ灯る。
続くルリエッタは2145。
大きな炎が二つに、小さな炎が一つ。
「いいぞルリエッタ! 一気に近づいたぞ!」
ルリエッタがピースで応える。
三人目はスピカ。
勢いに乗って、1235でオーブをはめ込む。
……しかし、点いたのは小さな炎が二つだけ。
「えっ」
まさかの事態に、雪村が硬直する。
マズいぞ。慌てると一気にワケが分からなくなるんだ、このゲームは。
しかし雪村は頭を振る。
「……大丈夫。炎が減ったことも含めてスピカちゃんからのヒントのはず」
落ち着きを取り戻し、これまでの流れを見返していく。
そしてギリギリまで時間を使い、1345を選んだ。
「「ッ!」」
その解答にスピカが、ルリエッタが同時に顔を上げる。
大きな炎が一つ、小さな炎が二つ灯った。
そして、最後の一手。
ここまでの流れで145が必要なことは確定。3は要らない。
「よって並びは……514だ。そして」
ここまで1から5までを使って、ついた炎は最高で三つ。
ということは、まだ使ってない数が入ってくるはずだ。すなわち。
「最後は――――6だ!」
俺は聖火台に右端に、6のオーブを押し込む。
……これが、最後の勝負だ。
全員が言葉なく、ただ祈るようにして審判の時を待つ。
そして、長い長い待ち時間の後。
金属板が輝きを放ち、足元のホロスコープが光で満たされた。
雷は、落ちない!
「……きた。きたぁぁぁぁっ!!」
「やったな翔太郎!」
歌舞伎頭のルリエッタが飛びついてくる。
雪村も思わず隣のスピカに抱き着いた。
「やりましたね! ついにここから出られますよ!」
少年が歓喜の声をあげる。
「先生っ、やりました先生ーっ!」
そのまま親愛なる先生のもとに、満面の笑みで駆け寄ると――。
「あばばばばば」
先生は、白目をむいていた。
「雷、先生も喰らってたのかよ……」
※ 一応、回答は『5623』『2541』『5146』となっております。
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