第18話使者、襲来
「そろそろ、頃合いか」
開発者、長瀬流一郎は壁面モニターを背にする形で振り返る。
シンプルかつ最新。流一郎の無機質な執務室へやって来たのは、金色の髪をした少女。
モデルのようなスタイルをした彼女は、まだ17歳だ。
「君の目的は、『彼女』たちをとあるクエストに巻き込むことだ」
モニターには、一人のAI少女が映し出されていた。
「クエスト?」
「そこで現れるボスには、今の彼女たちでは絶対に勝つことができない。そして敗北した場合に入手するアイテムは、後のイベントにつなげられる物となっている」
何が『ユニーク』につながるか分からないのが、このゲームの特性。
そうなれば、未知のアイテムは常に所持しておこうと考えるはずだ。
「それによって今後、こちらの意図するクエストなどに引き込めるようにする」
流一郎に、過干渉をするつもりはない。
しかし、ただあてもなく世界をフラフラするだけでは何も『変わらない』可能性がある。
その時のために、開発側だからこそできる仕掛けを施しておきたい。
それが彼の狙いだった。
「いいかい、君の任務はしっかりとボスに敗けてくることだ」
「分かった」
「もちろん仲間になってそのまま一緒に行動してくれれば、それが一番だけどね」
しかし少女は首を振る。
「それはない」
そう言って少女は、手にした角砂糖を一つ口に放り込むと、流一郎の執務室を後にした。
「確か彼女は『星継ぎ』の開発に関わっていた……飛び級の天才だったね」
流一郎が問いかける。
「はい。そのせいか常に一人つまらなそうにしていましたが、14歳から開発に携わってきた能力や、それを支える頭脳は本物です」
応えたのは、開発部の一人。
クールな面持ちをした壮年の男だ。
「ゲーム好きらしく、最近はもっぱら『星継ぎ』で遊んでいます。ソロを貫いているにもかかわらず、準ユニーククラスの【賢者】としてトッププレイヤーに並ぶほどの活躍を見せていますよ」
「……孤高の天才か、まさにぴったりのクエストだ」
流一郎は笑い、再び『彼女』たちの動向に視線を戻したのだった。
◆
「待っていたぞー!」
ログインすると、さっそくルリエッタが飛びついて来た。
「翔太郎! 今日はどうするんだ!?」
ルリエッタは瞳を七色に輝かせながら見上げてくる。
「待ち合わせ時間の十分前から、翔太郎くんが戻って来るポイントの近くでウロウロそわそわしてたんだよ」
よっぽどだったのか、雪村はちょっと苦笑いだ。
「まずはのんびりその辺を決めてくか。せっかくだし店にでも入ってみようぜ」
「「おおーっ!」」
ネズミ狩りのおかげで、少しだけど稼ぎもある。
鍛冶屋のあるモンテールに戻った俺たちは、さっそく酒場に入ることにした。
北欧のログハウスみたいな造りの店内はなかなか広く、たくさんのパーティがおとずれている。
中には吟遊詩人なんかもいて、皆わいわいと楽しそうだ。
「二人に相談なんだけどね、私も正式に仲間に入れてもらえないかな」
席に着くとさっそく、雪村が切り出した。
「まあ、確かに俺たちは目立つだろうからな」
忍者なのに目立ちたいとかいう妙な目的がある雪村には、うってつけかもしれない。
「それもそうなんだけどね、やっぱり二人が面白いから単純に一緒に冒険したいんだよ。絶対に楽しくなると思うんだ」
その言葉にルリエッタは「えへへへへ」と、うれしそうに首元をさする。
「もちろん今度は、私が多重影分身で二人の力になるよ」
正直それはありがたい。
ぽむぽむ設定はともかくとして優秀な前衛がいるのは助かるし、そのうえ多重影分身っていう強スキルまで持ってるんだもんな。
「ルリエッタはどうだ?」
「もちろんわたしはかまわないぞ」
「じゃあ決まりだな」
「うん、よろしくね」
「それならさっそく聞きたいんだけど、多重影分身ってどうなってんだ?」
昨日俺たちは、伊賀甲賀との戦いを経て忍者専用のユニークスキルを手に入れた。
間違いなく強力な武器だ。
まずはその内実を知っておきたい。
「MP1使用につき一人だね。人数の調整も可能で、何かしらのダメージを受けるとその大小に関わらず消えちゃう感じかな」
「そうなると、弱点は範囲攻撃ってとこか?」
「そうだね」
VR系のゲームでは、範囲攻撃が結構ネックになるんだよな。
素早いから範囲攻撃のど真ん中に突っ立ってても勝手に回避とは、さすがにならない。
範囲外に逃げるか、大人しく防御するかの選択を迫られる。
「なるほどな、そんで雪村は今後もぽむぽむ流の復活を目指すのか?」
「もちろんだよ! 忍びの本分であるぽむぽむ流を、しっかり世界に発信していくんだから!」
拳を握り、雪村は気合を入れる。
「何せ相手は業界最大手の伊賀と甲賀だからね、ぽむぽむ流としても忍者らしい姿をどんどん見せていきたいところだよ」
「ふーん。そういうことなら語尾に『ござる』とか名前に『殿』って付けたらどうだ?」
「あはははは、さすがにそれは恥ずかしいかな」
恥ずかしいからダメなのか。
すぐに忍びっぽさが出て、いいと思うんだがなぁ。
「なあ翔太郎」
「なんだ?」
「翔太郎はぽむぽむ忍者になったのか?」
「なってねえよ。サスケが勝手に勘違いしただけだ」
「ぽむぽむ流はいつでも新人歓迎だよ! そうだ、今なら特別に中忍からスタートでもいいよ!」
「ならばわたしは中の上忍だ!」
「中の上!?」
「あ、じゃあ俺は下の下忍で」
「すぐやめそう!」
ぽむぽむ流のランクを勝手に細かくして遊んでいると、店員がメニューを持ってやって来た。
「翔太郎、この店は和スイーツがおすすめみたいだぞ」
「この雰囲気で和スイーツなのか。意外だな」
「わあ、おいしそう」
雪村もメニューをのぞきながらノドを鳴らす。
「白鶴の滝とか見事な清流だったし、その辺も関係してんのかね」
さて、どうしよう。
「店の絶対的おすすめは白玉ぜんざい、宇治金時、栗ようかんの三つか……」
洋菓子なんかもあるけど、どうせなら名産がいいよな。
「よし、俺は白玉ぜんざい」
「わたしは宇治金時だ」
「雪村はどうする?」
「苺パンケーキ!」
「忍べよ」
忍者らしい姿を見せていくつもりなんだろ?
なんでそんなうれしそうな顔で、『意外にも北欧風の店が勧めしてる栗ようかん』なんて一品を無視できるんだよ。
「――お待たせしました」
この世界のいいところは、待ち時間がないところ。
注文を終えると同時に店員がやって来た。
「わー! 見て見て苺たっぷりだよ!」
「忍べって」
和スイーツには見向きもせず、届いたパンケーキに歓喜の声をあげる雪村。
この普通の女子感が、ぽむぽむ流を信じられない要因なんだよなぁ。
能力と設定以外は、マジで普通の女子なんだよ。
そんなことを考えていると、店のドアが開いた。
やって来たのは、一人の少女。
小さな宝石付きの頭飾りでまとめた、金色の長い髪。
瀟洒なローブをまとい、手には長杖。
なぜか少女は真っすぐ、俺たちのテーブルにやって来る。
……なんだ?
気の強そうな目つきをした少女は、AIなのにかき氷で『頭キーン』をやらかしてるルリエッタに気を使うでもなく、口を開く。
「クエストを見つけた。一緒に来て欲しい」
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