店長の涙

レナード

第1話 店長の涙(一話完結)

「いらっしゃい。どーも」

オーナー店長が今日も元気に挨拶をしてくれた。

相変わらず店には他のお客がいない。

こんな暗い道に面した個人経営のコンビニには滅多に客が来ないのだと思う。

滅多に来ないはずなのに、品揃えは完璧にしてあるからいつも感心させられる。

正直、ほとんどの商品が廃棄になるに違いない。もっと、商品の数を減らさないと経営が成り立たないのではないかと心配にもなる。

私はお気に入りのお菓子と風呂上がりに飲むビールを買ってレジに向かった。


「毎度ありがとう。お兄さん、このお菓子好きだねえ。」

「ええ。小さい頃から好きなんですよ。」

「そうかい、そうかい。小さい頃に好きだったお菓子ってやめられないよなぁ。」

「全くそうなんですよ。・・・でもこの歳にもなって、少し恥ずかしい気にもなります。」


店長は私の少し照れた顔を黙って見続けた。

しばらくした後、ほおを優しく釣り上げて微笑み、落ち着いた声で話し始めた。


______


昔、40歳の囚人が銀行強盗で捕まった。彼は生活するためにお金が必要だった。捕まってからというもの、清掃業務をサボったり、他の囚人に暴力を加えたりと、模範囚には程遠い獄生活を過ごしていた。


せめて親族が面会に来て話しかけてくれれば、落ち着いたのかもしれない。だが、結婚相手や兄弟はいないし、両親は既に他界していた。彼を助けようとする人はいなかったし、彼も人生を諦めたかのように、自分自身を助けようとはしなかった。


そんなある日、近くのスーパーから大量の廃棄食品が刑務所に届いた。どうやら誤発注で処分しきれなかったものらしい。廃棄品は適当に囚人に配られ、その中にあった大きなクッキーが40歳の囚人に配られた。クッキーを手に取ったその囚人は、どういうわけか大粒の涙を流しながら謝り続けた。悪いことをして親に怒られた子供のように。


次の日から、そいつは人が変わったかのように、模範囚として、刑期を全うした。


_____


「刑務官が言うには、囚人は小さい頃、そのクッキーが好きで母親に毎日買ってもらっていたらしい・・」店長は目を閉じて言った。


店長があの頃を思い出しているかのように見えた。


「そのお菓子は今では製造中止になってしまい、どこにも売られていない。」


「囚人は刑務所を出て、もう一度そのお菓子を食べることができたのでしょうか。」


「さぁ、・・どうだろうねえ。」


私はもう一度自分の買ったお菓子を見つめ直した。

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店長の涙 レナード @tenten1031

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