第577話 牽制

桜子のヤツ、何を話しているのだろう? 誰に話しているのだろう? どういう脈絡の話だろう? 【紋次郎君はデブせんだからね】って聞こえた。


デブせんって? もしかしてこのみの女性の話しだろうか? もしもそうならば、桃代に聞かれると、とばっちりを受ける。

もちろん、ぽっちゃりとしているが、俺は桃代がデブだとは思わない。

しかし、女性が思うぽっちゃりと、男が思うぽっちゃりは大差があるような気がする。


仮に女性から見た場合、桃代がデブの部類なら確かに俺はデブ専なんだろう。

いやいや、違う違う、俺はデブ専ではない。桃代が桃代だから好きなだけだ。


しかし桜子のヤツ、何を考えている? その発言が失言だと気づいてないのだろうか? 

もしかして、まだ酒が抜けてないのか? それしか考えられない。

もしも素面しらふの状態でこの発言をすると、あいつはフォアグラになるまで、桃代にトウモロコシを食べ続けさせられると思う。


そうならないように、俺は居間まで聞こえる咳ばらいをして桜子の話を止めた。


桃代と一緒に静かになった居間へ行くと、桜子はギリギリセーフみたいな顔をしていたが、ユリと苺は下を向いて首を横に振っていた。

バカたれが、バレバレだぜ。だけど、桃代がまだ脱衣所にいる時でよかったな。


俺を見てウィンクをした桜子は、台所で夕食を作る梅さんの手伝いに入るが、なんだそのウィンクは? どういう意味だ?

意味が分からず夕食になると、キーコとりんどうは山盛りのお代わりをしていた。

そんなに食べて大丈夫か? まぁ、泳ぐ練習で、きっとお腹が空いたのだろう。

決して桜子の助言のせいではない・・・と思いたい。


食事が済むと、これまたどこから持って来たのか知らないが、桜子が人生ゲームを持って来て、みんなでやろうと言いだした。

子供向けのゲーム・・・やりたくないが、りんどうが居るので断れない。

まぁ、いいや、俺は人生ゲームをやったことが無いので試しにやってみた。


しかし、なんだコレは?【交通事故で一回休み】【バイトをクビで一回休み】【会社が倒産で一回休み】【詐欺に巻き込まれて一回休み】俺が止まるマスは、こんなんばっかし。

しかも、実際に経験した事ばっかり。なんかおかしくないか?


そして結婚マスに止まると、桃代が不機嫌になった・・・ゲームなのに、なんで怒るんだ? ただの遊びだろう。

不機嫌な桃代をなだめる為に【結婚相手は桃代さんですぜ】そう誤魔化すと、桃代はゲームを棄権して、俺と共同でやり始めた・・・だから、ただのゲームだろう。


しかし、桃代と共同でやり始めると、今まで不幸マスに止まり続けて断トツのビリだった俺は、逆転でトップになった・・・俺の存在ってなんだろう?


波乱万丈の人生だった人生ゲームが終わると、今度は桜子がトランプを持って来てババ抜きを始めようと言いだした。

実のことろ、俺はトランプもやったことが無い。ババ抜きのルールを教えてもらい始めるが、なぜか毎回ジョーカーが俺の手元にやって来る。

しかも、居心地がいいのかジョーカーが居座り続ける。結果、何度やっても俺はビリだった。


どうして負け続ける? 俺のどこに落ち度があるんだ? 桜子におちょくられるのは屈辱だが、キーコとりんどうが楽しんでいるから我慢してやる。

だけど憶えてろよ、いつかおまえにババを引かせて、しっぺ返しをしてやるからな。


もちろんビリになると、トップからしっぺの罰がある。ビリになり続けた俺の腕が赤く腫れ始めたのでトランプは終了になった。

終わると、りんどうは腕をさすりながら息をふぅーふぅー吹きかけて、キーコは濡れたタオルで冷やしてくれる。

そして、俺はみんなに情けない視線を向けられる・・・オメエらがシバいて腫れたのに、なんだ、その目はッ!


キーコからタオルを受け取り、自分で冷やしていると、りんどうがあくびをしたので今日はお開きになった。


「さてキーコさん、りんどうさんのお布団は、キーコさんの部屋に敷けばいいですか?」

「へっ? 苺さん、あたしがやります。ではなくて、ベッドで一緒に眠りますから、お布団はいいです」


「そうですか、仲がよろしくて結構です。では、紋次郎さん。明日はわたし達も忙しいので、早めに休ませて頂きますね」

「明日は忙しいって? 苺は何か用事があるのか?」


「その前に、キーコとりんどうは歯を磨いて、早く眠りなさい。明日も練習なんだから、寝不足になると辛いわよ」

「そうですね。じゃあ、りんどうさん行こうか。みんなもおやすみなさい。紋次郎兄ちゃんと桃代姉さんもおやすみなさい」


「紋次郎君と桃代さん、みんなもおやすみなさい。今日はありがとうございました」


桃代がキーコとりんどうを遠ざけた感じだが、苺の用事ってキーコに聞かれるとマズいのか?

キーコとりんどうが洗面所へ行くと、桃代と苺だけでなくユリにまで、俺はキツイ視線を向けられた。


「紋ちゃんは、もう忘れたの? 明日はユリが苺たちと叔父一家のところへ行く日でしょう」

「・・・はぁ? もう忘れたのって、オイラは誰にもその予定を聞いてないですぜ」


「あれ、そうだっけ? 伝えてなかったかしら? まぁいいわ、そういう訳で、明日は苺とクルミが居ないから、りんどうが溺れないように紋ちゃんはシッカリ見張ってなさい」


そうか、叔父一家の件は金が絡む生臭い話だからな、キーコとりんどうには聞かせたくなかったんだ。

しかし、偶発的な水泳教室を利用して、りんどうのプールに対するトラウマの話から今日のお泊り会まで、桃代に上手く誘導された気がする。


おそらく、俺が内緒でユリに付いて行かないように行動を制限するために、りんどうのお泊り会を計画したのだろう。


やはり、これからも人生ゲームと同じように、俺の人生は桃代の主導で進んでいく気がする。

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