第338話 母屋まで

桃代と俺、他の人には見えない楓の三人で駄菓子屋に行くと、キーコとりんどうは楽しそうにクジを引いていた。

さすがは子供同士、仲良くなるのに時間が掛からない。


ただ単に、俺の警戒心が強かったのかも知れない、オイラの子供の時とはエライ違いですぜ。


キーコとりんどうが、お土産用に駄菓子を選んでいる横で、俺も大好きなきな粉棒を大人おとないする。

小さな子供が一本ずつ買うきな粉棒、それの箱買い・・・どう考えても、大人気おとなげない買い方だと思う。

あとは、龍神をらしめる為のウイスキーボンボンもついでに買っておく。


子供らしく駄菓子に喜ぶりんどうに、楓は微笑ましい顔を向けていた・・・なんだ、楓のヤツ、そういう表情も出来るんだ。


まあ、多少? のハプニングで時間は掛かったが、お土産を持ち無事に母屋まで戻ってこられた。

俺は母屋の前で【ここなら誰にも邪魔されずに、じっくり話が聞ける】そう説明するが、楓もりんどうも庭先で足を止めて、中に入ろうとはしない。


どうしたんだ?・・・まさか、ピクニックに出掛けたはずの龍神が中にいる? 龍神の何かしらの気配を感じて尻込みをしている?


俺のように後天的に見えるのではなく、りんどうが先天的に見えるのなら龍神の発する何かに気づき、警戒しててもおかしくない。

胸の前で両手を握り震えているように見えるりんどうに、俺は頭を撫でながら声を掛けてみた。


「どうしたりんどう、早く入らないと時間が無くなるぜ」

「ねぇ、紋次郎君。どうして紋次郎君のおうちにはピラミッドがあるの? あの中にはミイラとか死体があるの?」


「あ~~そっち。安心しろ、中はカラだ、今は何も無い。アレは桃代が個人的に建てたモノだ」

「桃代さんって、本当はおもしろい人なんだね。ボク、もっと怖い人かと思ったよ。でも待って、今は何も無いっていうことは、この先何か入る予定なの? 桃代さんに聞いたら教えてくれる?」


「あのな、それを桃代に聞くとホラーな目に遭うぞ。それより、おまえの話を聞く方が先だろう。ほれ、キーコが呼んでるぜ、早く中に入れ」

「えへへ、紋次郎君のおうちってなんか楽しい。キーコさんも仲良くしてくれてうれしい。姉ちゃん、早く行こう」


玄関前で手招きをするキーコの元へ、駆け足で行くりんどう・・・龍神を警戒したと考えたのは、俺の思い違いだった。


「ねぇ、もんじろう。幽霊のわたしが言うもヘンな話なんだけど、この家、なんか怖いんだけど、どうして?」

「あ~~今度はそっち。安心しろ、楓が悪霊にならない限り安全だから。りんどうの為に、心残りに呑み込まれるな」


「・・・ありがとう、もんじろう。わたしを信じてくれるのなら、わたしは悪霊になんて絶対にならない。だから信じて」

「信じる信じないかは話を聞いてからだ。最初から妙な駆け引きをするな。そうしないと、楓も俺を信用できないだろう」


「そうね、その通りよ。だけど、りんどうがなついているもんじろうを、わたしは信用している。だから、あなたもわたしを信じて」

「・・・わかった、信じて、あ痛ッ! ももちゃん何するの? なんで頭を叩くの? オイラのバカが進行したらどうすんの」


「も~ぅ、いま自分が【話を聞いてからだ、変な駆け引きをするな】って、言ってたのに、どうして【わかった】なのよ。ほら、行くわよ。楓、あなたは自分の立場を忘れないようにしなさい」


桃代に怒られて小さくなる俺の横で、楓はテヘペロって舌を出している。

このヤロウ! 俺をおちょっくるつもりだったんだ。

シバいてやりたいところだが、すり抜けて空振りするのが目に見えているので、やらない。


怒りを抑えて母屋に入った俺は、居間に行く途中で仏間を覗き、念の為に龍神の所在を確認する。

まあ、桜子が弁当の用意をしていたからな、食いしん坊の龍神は当然いなかった。


この家を、楓が本当に怖がったのか? それは、まだわからない。

とにかく、龍神の存在を知られては困るからな。


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