第326話 きりょく

妙な事になってきた。

キーコの言う通り、やはりあのまま、俺はりんどうを無視すれば良かったのかな?

いや、それは出来ない。ちゃんと退院の挨拶をしてくれた子供のりんどうを無視すれば、俺は情けない大人になってしまう。


りんどうの隣で、しげしげと俺を見ていた女の子は、キーコがあいだに入って見返すと、何故なぜだか視線をらしてくれた。

よかった、これでつつかれるような感覚はなくなった。


キーコの眼力に恐れをなしたのかな?・・・キーコさん、お願いだから、その眼で俺を睨まないでね。


「おぉ、そうだった、そうだった、まだお互いの紹介をしてなかったな。この子は入院中に知り合った森山りんどう。それで、こっちの子は俺の妹でキーコ、真貝キーコだ。二人とも仲良くしてくれ」

「初めまして、りんどうさん。紋次郎兄ちゃんが失礼なことを言ってごめんなさい」


「キーコさんだね。ボクの名前は森山りんどう、9歳です。キーコさんも謝らないでください。男の子と間違われるのは初めてじゃないから平気です」

「う、本当にしっかりしている。それで、こちらの方は? お姉さんって言ってたけど、このままだと良くないよ」


「あのね、今まで姉ちゃんが見えて話が出来るのは、ボクだけだったの。だから、変なヤツって言われてたんだけど、紋次郎君とキーコさんも見える人なんだ。きょうだい揃って凄いんだね」

「やっぱり、そういう事だったんだな。病院の検査の後でお祓いをするって聞いたから、そうだと思っていたぜ。ほいで、姉ちゃんの名前はなんて言うんだ?」


「姉ちゃんはね、楓。森山楓です。姉ちゃんはボクが赤ん坊の頃に死んじゃったんだけど、心残りがあって成仏できないらしいの。紋次郎君、お願いです。姉ちゃんの心残りを叶える手伝いをしてください」

「はぁ? なんで俺なんだよ? もしかして、それを頼む為に、毎日駅で待ってたのか?」


「そうだよ。初めて紋次郎君を見た時に感じたんだ。この人はボクをバカにしない。ボクの味方になってくれるって、感じたんだ」

「あ~あ、わかる。りんどうさんは、紋次郎兄ちゃんの雰囲気でそれを感じ取ったのね・・・あたしの時と一緒だ。ねぇ、紋次郎兄ちゃん。あたしも手伝うから、りんどうさんの姉さんの心残りを叶えてあげようよ」

「へっ? いいのかキーコ? 勝手な事をすると、あとで桃代に怒られるぜ・・・俺が」


あれ? 桃代と一緒で、この手のことには反対しそうなキーコなのに、どういう事だ?

俺はりんどうに待つように伝えて少し離れた場所に行くと、キーコの真意を聞く事にした。


「どうしたキーコ? 妙なことに巻き込まれないように、俺の監視をしてるくせに、りんどうの頼みをきいていいのか?」

「ごめんね、勝手に話を進めて。だけど、何かが引っ掛るの。これを解決しておかないと、近い将来に暗雲が立ち込める。そんな気がするの。だからね、りんどうさんの姉さんの願いを叶えてあげた方がいいと思うの」


「ふ~ん、まあ、キーコがそう思うのなら、そうした方がいいのかな。だけど問題は桃代だな。アイツには心配を掛けたくないからな、この件は内緒にしてくれるか?」

「それはダメだよ。桃代姉さんには正直に話して許しをもらうの。それが一番心配を掛けない方法だと思う。それに、桃代姉さんに秘密を作りたくないの」


「そうか、そうだな。ヘタに秘密にすると、キーコの負担になるからな。ごめん、考えが浅はかだった」

「勝手な事ばかり言って、あたしの方こそごめんなさい。だけど、モンちゃんのおかげで鬼力きりょくも体力も回復して、守ってもらうだけの弱い自分ではなくなったから、そんなに気を遣わないで」


「よし、りんどうの話を聞いて、一旦持ち帰って桃代に相談をしてみるか。【わたしを頼りなさい】って、何時いつも言われているからな」

「うん、そうしよう。頼りにされた方が、桃代姉さんも喜ぶと思うから」


近い将来に暗雲が立ち込める。あの言葉を言った時の、キーコの表情が妙に気に掛かる。

あと、気力と体力だよな。何故なぜだか分からないが、俺の頭の中では鬼の力で鬼力きりょくと変換された。

キーコに鬼の能力が目覚めつつあるのか? 果たしてそんなモノが本当にあるのか?


取りあえず俺とキーコは、りんどうの元に戻り詳しい話を聞く事にした。


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