紋次郎 がんばる編

第323話 平凡

俺は体調が万全になるまで、桃代に言われた通りのんびりと過ごしていた。

ショッピングモールの仕事の方は、森のお祓いが劇的に効果をあらわして、真貝建設の工事は順調に進んでいるそうだ。

しかも、神主でも祓えなかった森の祟りを、あっさりと祓った事で、噂を聞いた他社からも、その手の仕事が舞い込んで来たらしい。


まあ、あの森の真実を伝えたところで、誰も信じないと思うが、あっさり祓った訳ではない。少なくとも俺だけは、あっさりと終わらなかった。


桃代はその手の依頼が来た時に、苺とキーコを連れて現場の下見に出向き、下見が終ったあとは、はなれの会議室で龍神を交えて対策を立て、あっと言う間に解決をしていた。


あなたを危険な目に遭わせたくないから、俺は頑張っているのに、どうして俺を飛び越えて勝手に出向くの? しかも、キーコまで一緒に連れ出して・・・。


さいわい危険な目に遭う事なく無事に解決したようなので、キツい事は言わないでいたが、全て事後報告だったので桃代に軽く注意をしたら、苺とキーコに俺が怒られた。


苺には、【わたくしは蛇神になる為の徳を積んでいるだけです。紋次郎さんの代わりに出向いた訳ではありません。】そんなツンデレ気味に怒られて、キーコには、唇を噛みしめたまま泣きそうな顔で睨まれた。


苺、おまえは面倒くさい。キーコ、おまえはどうして俺を睨むんだ? 睨まれる何かを、俺はしたのか?


桃代がその手の仕事で不在の時や、経過観察で病院に行く俺に付き添う時には、ユリが代わりを務め、議長室の仕事が滞ることは無いそうだ。

病院の付き添いには【来なくていい、付いて来るな】と、その都度言うが、桃代は一切取り合ってくれない。


桜子は、業務連絡のし忘れと、パソコンの入力ミスを桃代とユリに厳しく矯正されて、やっと一人前になってきたらしい。


【おまえ達どちらかは、桃代と一緒に行動しろよ、秘書なんだろう】そんな注意をユリと桜子にすると【あんたの所為せいでしょう!】っと、ハモりながら怒られた。


クルミは微々たる日数でこの家に馴染み、母屋と川を行ったり来たりして、毎日元気に遊んでいる。

ただし、みんなが不在の時は俺のそばから離れない。どうやら、俺の監視をしているようだ。

母屋の中に居るのに、どうして俺は監視をされないといけない?

しかも、柱に半分だけ顔を隠して・・・【おまえはどこかの家政婦かッ!】なんて文句を言いたくなる。


龍神にブラシ掛をしている時に、最近の俺に対してのみんなの対応を愚痴ると、理由を教えてくれた。

どうやら、あがたもりとの一件で、俺の無茶をの当たりにした為に、苺とキーコは変な義務感を覚えて、俺の代わりに頑張っているそうだ。ついでに、ユリと桜子は俺のバカを再認識したらしい。

今回の森の祟りの結末で、俺は信用を無くしたようだ。


俺は無茶をしたとは思ってない。

俺が入院したのは、ここで気持ち良さそうにブラシを掛けてもらっている龍神の所為せいだし、現在俺は健康なのだから。


龍神に俺の監視が厳しくなった理由を教えてもらうと、足元で遊んでいるクルミにも、【無茶をしないでね】っと、注意をされた。


だからッ、おまえまで俺に注意をするんじゃねぇ! 小動物に心配される俺の気持ちがわかるか? 結構、情けないモノなんだぜ。


でも、まあ、桃代をはじめ、みんなには迷惑を掛けたからな、しばらくはおとなしくしていよう。


そんなこんなで、ここのところ、俺は平凡で平和を日々を過ごしている。


曰く付きの物件のお祓いなど、そうそう依頼があるはずもなく、今日は苺とキーコも母屋でのんびりしている。


苺は部屋で裁縫でもしているのだろう、キーコは午後から居間で本を読んでいた。

俺はキーコの隣に座ると、どんな本を読んでいるのか気になり、一冊借りて読んでみた・・・気付けば、座卓の上につっぷして眠っていた。


目が覚めると、肩から毛布が掛けてある。

俺が風邪を引かないように、キーコが自分の毛布を持って来て、掛けてくれたみたい。

起こしてくれればよかったのに・・・また、情けない姿をキーコに晒す事になった。


俺がお礼を言うと、キーコは小さく笑ってくれた。

何事もない、俺の平凡な日常。


しかし、そんな平凡な俺の日常は、そんなに長く続かなかった。


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