第308話 う~~Part2

誰かが取り憑いた気がする・・・非常に気持ちが悪い。


苺やクルミ、あとはあがたもりに対して余裕を見せる為に、俺は大きな音がするように両手を合わせて合掌すると、歯を食いしばり気合を入れる。

それから、土砂降りの雨を浴びながら、声に出さないように心の中で祝詞のりとを唱える。

何時いつぞやの、あの祝詞のりとだ。


えぇっと、はらえたまえ、きよめたまえ、かむながら守りたまえ、さきわえたまえ・・・だったはず。


お願い、これで成仏して・・・あとで線香を供えてあげるから。

強気の行動とは裏腹に、俺は弱い本音も持っている・・・人間だもの。


そんな本音が通じたのか、気持ちの悪さが無くなった。

おそらく、俺に取り憑いていたヤツが、いま成仏したのではないかと思う。それが証拠に、俺の耳元でお礼の言葉が聞こえた。


この調子だ、この調子で、まずはヤツの配下を成仏させる。

こいつ等は、もともと巻き込まれただけの奴ら、好きであがたもりの配下になった訳ではない。

早く成仏をしたいはずだ。


いいか、次に生まれ変わったら自分勝手に強く生きろ。他人に付け込まれるな。

そんな思いを、取り憑いた奴らに投げかけながら、また一人、また一人と配下の奴らは減っていく。


「え~いッ、何をしておるッ! 小僧っ子ひとりあやつれんとは我が配下の名折れ、はじを知れッ!」

「けッ、死んだ人間をあやつるだけのくせに、おまえは口先だけのヤツだな、あがたもり。そんなおまえを神として祀れだなんて、それこそはじを知れ」


俺は挑発を続ける。

何人かは成仏してくれたと思う、だが気付いた事もあるからだ。

配下の奴らが俺に取り憑き、成仏をする度に力が抜けて、半端じゃない疲労感が残る。

このままでは俺自身がもたない。


今はまだ立っていられるが、そのうち地面に膝をつく。

膝をついたところで、上から複数に取り憑かれると、地面にひれ伏して身動きが取れなくなる。

下手をすると、足元にある水たまりに顔をうずめて溺死する。

なので、まだ元気のあるうちに、あがたもりと決着をつける為に挑発を続ける。


しかし、【神として祀れ】だなんて厚かましい事を平気で言うヤツ、みずからは行動を起こさない。

あくまで、自分は命令を出すがわ、手を下すのは末端の配下、そんな考えなのだろう。

ブラック企業の経営者かッ!

そんなたとえを叫んだところで、ヤツには伝わらない。なにせ大昔に死んだヤツだからな。


さて、こうなれば我慢比べだ。俺は意地でも膝を地面につけない。弱味を見せない。

そのつもりなのだが・・・う~~頭が痛い、う~~気持ちが悪い、う~~吐きそう。

気持ちと裏腹に身体は正直みたい。


「ねぇ苺さん、あのあがたもりって死霊の言う通り、みずちっていうのは本当に悪行を重ねたのでしょうか? もしもそうなら、どうして紋次郎君はみずちやしろを守るのですか? 大切な人が作ってくれたモノだとしても、あんなに頑張ると、紋次郎君の身体からだが心配です」

まったってその通りです。みずちに関しては、わたくしも書物で読んだだけなので、詳しくは分かりません。ですが、桃代さんが言うには、【どちらかが一方的に悪く書かれてる場合もあるそうですから、自分の頭で考えなさい】ですって」


「どうしましょう、このままでは紋次郎君が倒れちゃいます。藪から出るなと言われましたが、もう我慢できません」

「そうね、ではこうしましょう。みずちには足が四本あったと言われております。わたくしが本来の姿に戻り、鎌首をもたげますから、クルミさんはわたしの下に潜りこみ足になって下さい。そうすればこの雨です、仮に見つかったとしてもみずちが黄泉返ったと勘違いをして、わたし達とは気付かれないはずです」


「そうですね、紋次郎君に見つからないようにしないと。だけど、苺さんは大丈夫なんですか?」

「ほほほ、造作ぞうさもありません。紋次郎さんを守るのはわたくしの務め、今ある神力しんりょくが尽き果てようが、必ず守ってみせます。いいですかクルミさん、わたし達はやしろの影に隠れて、紋次郎さんの後ろから加勢しますよ」


まわりの様子を見る余裕のない俺は、苺とクルミの計画を知らない。

豪雨に打たれながら滝行を思い浮かべ、みそぎをしている気持ちで、ひたすら耐えていた。


だが、激しい雨に打たれ続けて体調を崩したのかも知れない、大きく咳き込むと何かを足元に吐いてしまった。

う~~気持ちが悪かったからな、お昼に食べた物を吐いたのかな?


しかし、そうではなかった。

俺が目線を下に向けると、足元に広がるそれは赤い液体だった。


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