第306話 武者震い
俺は
ついでに、短絡的な行動をしようとした事で苺に怒られた。
ヘビの苺に怒られて、カワウソのクルミに慰められて、霊長類の俺は居たたまれない。
「もうッ、落ち着いて下さい紋次郎さん。せっかくクルミさんが話を聞いてきたのに、それではなんの為にクルミさんが危険を
「そうですね、すみません苺さん、親指の青タンがズキズキしたもので。それで、話の内容はなんだったんだ、クルミ」
「あのね紋次郎君。見て、聞いた感じでは、まともと言っていいのか、まともそうなのは、あの命令をしてる人だけでした。あの人は【どうしてまた
「ん?
「わかりません。だけど、あの人? あの死霊? とにかく高圧的で、嫌な感じでした。あと、ここからだとわかり辛いですが、他の黒い影とは違い、あの死霊だけはハッキリと姿が現れてました」
「そうか、きっと、生きてる時から高圧的だったんだろう。それで他の奴らはどうだった? 何人くらい居た?」
「他の死霊はですね、あ~とか、う~しか言ってなかったです。数は二十人くらいでしょうか。みんな、あの死霊には逆らえないようで、
「二十人か・・・意外と多いな。一斉に取り憑かれたら、俺は自分の意志で動けなくなるな」
「紋次郎さん、その前に。いまクルミさんの言われた
「えっ・・・あっ、イヤ、俺は知らないけど、クルミの話を聞く限りそうみたいだな。苺こそ
「まぁ、書物で読んだ事があります。確か、
「そ、そうかも知れないな。
不味い、苺に
もしも、
それは阻止しないと・・・最悪の場合、苺が破裂して
そうなれば俺も無事では済まない。
無事に帰る約束をした、キーコにメチャメチャ怒られる。
俺は頭をフル回転させて、この場を凌ぐ解決策を考える。
しかし、それより早く、命令をしている死霊が怒鳴り声を上げると、トンデモない命令を叫び始めた。
「え~いッ、このままでは
「う~~っ、あ~~っ・・・ ・・・ ・・・ ・・・あ~~っ、う~~っ」
「ヤバいな苺、あそこの土手を崩されたら、
「ハァ~~~紋次郎さん、あなたという人は、
「はい、すみません。緊張をほぐそうと思ってふざけてみました。よし、まずはあの死霊の手下を成仏させる。奴らは操られているだけだからな、俺だけでなんとかなると思う」
「また~~紋次郎さん、あなたに何が出来るんですか。【一斉に取り憑かれたら動けなくなる】って言ったのは、あなた自身でしょう」
「だからな、この雨を利用するつもりだ。この土砂降りだ、
「それでしたら、わたくしが代わります。紋次郎さん、あなたとクルミさんはここで待機してください」
「それは無理だな。鱗に残る龍神の
「うっ、最後の一文で反論のしようがありません。ですが紋次郎さん、本当に大丈夫なんですね?」
「おまえは長く生きてるわりに心配性だな。まあ俺を信じろ・・・なあ、苺、おまえは長い
苺に出て来ないよう釘をさし、俺はひとりで藪から出て行く。
苺が無理をして水神から貰った
それは嫌だからな。
「ねぇ苺さん、紋次郎君は行っちゃいましたけど、【最後くらいは守ってもらうのも悪くない】って、どういう意味なんですか?」
「さぁ、さっぱり分かりません。あの人は何を考えているのでしょう。クルミさん、あなたこそ分かりますか?」
「苺さんが分からないのに、わたしに分かる訳ないですね。だけど、紋次郎君の優しさは伝わってきました。あの人、時どき冷たい言い方をしますが、行動は温かいですからね」
「ふふ、そうね、クルミさんの言う通りです。ヘビが苦手なくせに、わたくしにまで気を遣ってくれて、本当に不思議な人です」
苺の残り少ない寿命に気を遣い、カッコ良く藪から出たのはいいが、俺の身体は
雨に打たれて身体が冷えたから? 苺やクルミに良い所を見せようと武者震いをしているから?
そうではない、ただ単に、あの高圧的な死霊が怖いからだ!
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