第299話 ラスカル

苺も名付けに参加して、カワウソの名前は最終的にクルミという名に決定したようだ。

何故なぜクルミ? その名前にするのなら、オスだかメスだか聞く必要はなかっただろう。

そうすれば、俺と龍神は怒られなかったのに。


まあ、それでも、ユリの提案したラスカルよりは良いけどな。

アイツは本当にカワウソが好きなのか? アライグマとカワウソの区別がついてない気がする。


更に、桜子は最悪だった。

わたしは、ネロが飼っていた犬に憧れていたの。なんて言いながら、カワウソの名前をヨーゼフにしようと言い出した。

バカたれが、ヨーゼフが出てくるのはハイジだ。ネロが飼っていたのはパトラッシュだ。

その程度の知識で名前を付けようとするな。


さて、名前も決まったしカワウソ・・・いや、クルミを風呂で洗ってやろう。

母屋で暮らすのだから、衛生的にしてないと、妙な病気が蔓延したら大変だからな。

クルミの見た目はカワウソだが、コイツは普通のカワウソではない。

石鹸でガシガシ洗っても問題ないと思う。


俺は片手に着替え、片手にクルミを持つと風呂に行く。母屋の風呂は、ユリの家と同じくらい無駄に広い。

その為に、掃除道具も充実している。


ちなみに、龍神を磨くデッキブラシは、もともと風呂場のタイルを磨く為の物だった。

それを龍神用にしてしまい、桃代は次の日に電動ブラシを買って来て、掃除が楽になったらしい。

その他に、木製のタライなども置いてある。


何故なぜタライ? デリケートな洗濯物を手洗いする為なのか? 俺はタライの用途を桃代に聞いた事がある。

するとヤツは、【紋ちゃんをミイラにする時に、取り出した内臓を洗う為よ。】そう答えた。

用途は正しいのかも知れないが、その行動は正しくない。何時いつになれば、それに気付くのだろう。


そのタライに、ぬるま湯をはると、俺は中にクルミを入れる。

もちろん、カワウソの方のクルミだ。食べる方のクルミではない。


ついでに言うと、俺はクルミがあまり好きではない。

クルミを半分に割り、食べる部分を崩さぬように、上手うまく殻を取り除くと、出て来たモノが脳ミソに似ている気がしたからだ。


それを、殻を割りながらクルミを食べていた桜子に伝えると、硬い殻に入ったクルミを顔にぶつけられ、【あんたの所為せいで二度とクルミが食べられなくなったでしょう!】っと怒られた。


そんなアホな事を思い出し、湯船に浸かったままで身を乗り出すと、タライの中で泳ぐカワウソのクルミに話し掛ける。


「湯加減はどうだクルミ」

「はい、熱くなく冷たくもない、丁度いい湯加減で気持ちが良いですよ」


「そうか、それなら良かった。あとで身体からだを洗ってやるからな、何か不都合があれば今のうちに言っておけ」

「いえ、不都合はありません。わたしなんかの為に、ありがとう紋次郎君」


「いいかカワウソ、じゃなくてクルミ。おまえも我が家の一員だ、遠慮する事はないからな」


俺は湯船から出ると、クルミを洗ってやる。

石鹸で洗うと毛がゴワゴワになるからな、もちろんシャンプーで洗ってやる。

ついでにリンスもしてやる・・・今はトリートメントって言うんだっけ?


よくすすいだあとで、脱衣所にキーコを呼ぶとクルミを手渡して、乾いたタオルで拭いてもらう。

クルミと一緒に出ないのは、これから桃代が入ってくるからだ。


【お風呂は一緒に入る約束だからね。】籍を入れる時に一方的に桃代に決められて、俺は素直に従うしかなかった。

桃代が決めた事に異議を唱えると、アイツは必ずブンむくれる。

アイツがブンむくれると面倒くさい。


クルミが泳いでいたタライの片付けが終わると、身体からだにバスタオルを巻いた桃代が入ってくる。

今度は桃代にシャンプーをしてやる番だ。


普段の俺は桃代の髪を洗う、なんてことはしない。

だが、罰の為に腕枕をした日の夜は、桃代の洗髪をする事になっている。

桃代曰く、【髪の毛が傷んだかも知れないからね。】だそうだ・・・だったら腕枕をさせるなよ!


毛むくじゃらのクルミを洗い、それが終わると桃代の髪の毛も洗う。

もしかすると、ユリが名づけようとしたラスカルは、アライグマだけに、俺を揶揄からかう為に言ったことかも知れない。


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