第298話 カワウソとタヌキ

夕食の用意が終わったらしく、キーコが呼びに来たので、俺と桃代は居間に行く。

居間に行くと、ユリと桜子に遊んでもらっていたカワウソは、すぐさま俺の足元にやって来た。


俺にスリ寄るカワウソは、なかなか可愛い。

犬や猫などの小動物しょうどうぶつに癒される、他人の気持ちがよくわかる。


まあ、俺が居ないあいだかまっていたようだから、カワウソを取られた気分になったのだろう、ユリと桜子のキツい視線の理由はよくわかる。


ただ、なんでおまえまで、眉間にシワを寄せて俺を睨むんだ・・・龍神。

今までさんざっぱら俺をおちょくり、おまえのツノやトゲ、鋭い爪でどれだけ怪我をしたと思っている。

大動物だいどうぶつのおまえに、癒された事は一度もないぜ。


睨む龍神を無視すると、俺は何時いつもの場所に座り、夕食を食べながら名前を決めたのか、キーコに聞いてみたが、まだだった。


「ねぇカワウソさん。あなたは自分の名前も憶えてないの? もしかして名前だけは憶えてたりしない?」

「キーコさんでしたよね。ごめんなさい、それがサッパリでして。だけど龍神様と話をしてると何か思い出せそうです」


そうだ、そうだった。俺も龍神の言霊の力で、昔の事を思い出したんだ。

忘れていた年数にもよるが、俺のように十数年と短い年数ならば、早めに思い出すのではないか?


「なあ龍神、おまえなら、言霊の力でカワウソの記憶を元通りに出来るんじゃないのか?」

「はぁ? 無理じゃと思うで。ワシは紋ちゃんのアレコレを桃代さんに聞いとった。じゃけぇ、あんたが忘れとる事を神力しんりょくを込めて話が出来たけど、ワシはこのカワウソの事を知らんけぇ、コイツが忘れとる事を説明出来んじゃろう」


「そうか、俺が昔の事を思い出したのは、そういうカラクリだったんだ。おまえでもそれなりに神力しんりょくを持ってるんだな」

「あのな~紋次郎、あんたもワシのことを龍神様って言うとるじゃろう。龍の神と書いて龍神じゃ。当然、神力しんりょくを持っとるに決まっとるじゃろう」


「そうだな、おまえは龍神だからな。いいか龍神、様を付けて欲しかったら、カワウソがじゃれたくらいで嫉妬の目を俺に向けるな。腹が立つぜ」

「そうは言うがのう、ワシがじゃれると紋ちゃんは怒るくせに、なんでカワウソには怒らんのじゃ?」


阿呆あほうッ、おまえにじゃれられて、俺がどれだけ血を流したか。おまえのツノやトゲをノコギリで切り落としてやろうかッ!」

「また始まった。紋次郎さんも龍神さんも食事中なんですから静かにしてください。龍神さん、食べてるご飯がここまで飛んできましたよ!」


「あっと、すまんのう苺。じゃけど、紋ちゃんがカワウソばっかりかわいがるけぇ、ちょっと危機感を覚えたんじゃ」

「龍神様のくせに情けない事を言わないでください。弟子として、わたくしまで恥ずかしいでしょう」


ふふふ、バカな龍神め、苺に怒られていやがる。

でも、弟子ってなんだ?・・・ ・・・ ・・・ ・・・あ~~そういえば、ユリの離島で龍神の弟子になったって言ってたな。

ついでに、桃代の子分になったとも言ってたな。


蛇の姿の苺に巻き付かれ、高い崖の上から深い海に向ってダイブした、あの時の事を俺は思い出した。

怖いモノのオンパレードだったので、思い出さないようにしてたのに・・・。

しかし、バカな俺は肝心な事を思い出そうとしなかった。


食事は終り片付けが済むと、名前を決める話を続ける。

キーコに意地の悪いところを見せたくなくて、ユリと桜子にも参加をさせてキーコの主導で話し合う。


「ねぇ、紋次郎兄ちゃん、名前を決める前に教えて。あたしは重要な事を聞いてないの。この子は男の子なの? それとも女の子なの? それがわからないと決められないよ」

「あ? あ~そうか、そう言えばそうだな。おいカワウソ、おまえにたまたまが付いてるかキーコが聞いてるぜ」


「ええか紋次郎、こういう時は、ズバリ聞きんさい。おいカワウソ、あんたにはイチモツが付いとるかって、キーコが聞いとるぞ」

「ちがッ、違います。あたしはそんな聞き方をしてないですよ。もうッ、やめてくださいよ。この子が女の子だったら怒られちゃう・・・えっ! イチモツって、そういう意味なんですか苺さん」


「がッ! わたくしにまで飛び火しました。もうッ! 紋次郎さんも龍神さんもいい加減にしてください! あのねキーコさん、お願いですから、あの時のあの言葉は忘れてください」

「ぷッ、苺さんって意外とお茶目ですね。忘れる代わりと言ってはなんですが、苺さんも一緒にこの子の名前を考えてください」


「は、はい、忘れてくれるのなら、いくらでも考えます。ありがとうキーコさん・・・それはそうと、紋次郎さんに龍神さん、あなた達は本当によく似てますねッ。二人とも、もっとデリカシーを身に付けないさいッ!」


つい何時いつもの調子で喋り、龍神が俺の話に合わせた所為せいで、今度は俺も一緒に怒られた。

やっぱり、俺と龍神は同じ穴のむじななのかも知れない。


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