第288話 外来種?

池に気付かず落ちないように、足首を掴まれて引きずり込まれないように、俺は途中から龍神の背中にまたがり、血洗い池までやって来た。

確かに近くには河が流れている。

しかし、いま現在は河と切り離されているように見える。


さて、ここが祟りの発端となったかも知れない血洗い池だ。


池の大きさは思ったよりも大きい、たたえた水は血の色ではない。

ただし、まわりにはやぶかやなどが生い茂り池の存在を知らずに近付くと、かなり危険な気がする。

金網で池のまわりを囲まないと、落ちて溺れる人が続出するような気がする。


まあ、見たところ、浮かんでいる人は居ない。

ただ、どれ位の深さがあるのだろう? もしも、重りを付けて沈められると、カラ梅雨のあとで、猛暑日が続いた時にしか見つからないと思う。


あとは、死臭ではないがイヤな匂いが立ち込めている・・・なんだ、何か生臭いような獣臭いような、この変な匂いは? 

もしかすると、水中にはトンデモない巨大魚がいて、池にハマったドングリ・・・ではなく、人や動物を喰い殺している。なんて、つい、バカな事を考えてしまう。


俺は池のほとりに降ろしてもらい、龍神は水面すれすれに浮かび、まわりの様子を見ている。

龍神は過去を懐かしんでいるのかも知れない。

何にせよ、どうしてこの場所を見たいのか、俺にはサッパリわからない。


「お~い、龍神。なんでこの池を見たかったんだ? 何か理由があるのか?」

「ん~ん、まあ、ちょっとした感傷じゃ・・・ワシがあの時、もう少し早う冬眠から目覚めたら、あがたもりなんぞにみずちを殺させんかったのに」


「そうか・・・・いろいろままならないモノだな。みずちが生きていれば、何時いつかおまえも誰かに退治されて、俺の前世が喰われる事はなかった。いま一緒に居る事もなかったのにな」

「・・・・あっ、そうじゃ。そしたら、ワシが龍神になる事も、紋ちゃんと知り合う事もなかった。それはイヤじゃ、ワシは紋ちゃんが好きなんじゃ・・・ず~ちゃん、やしろの修復はしてやった。あんたも昔の恨みを忘れて、早う前向きになりんさい」


なんだッ、それは? 感傷の切り替えが早過ぎるだろう・・・あと、ほのかにキモい。


「・・・ ・・・なあ龍神、苺のことが気になるからな、そろそろ帰ろうぜ」

「ん~ん、そうじゃのう・・・なあ紋ちゃん、話は変わるけど、あそこ、池の左奥になんか動いとるヤツがおるけど、あれはなんじゃろう?」


「おい、怖い事を言うなよ。もしも、みずちの生き残りか、巨大魚が居たら大変な事になるぜ」

「いや、そうじゃのうて、なんか小動物みたいなんじゃが、ビーバーでもラッコでもない。紋ちゃんならわかるか?」


「どれ・・・あっ、本当だ、何か居る。なんだろう? カピパラとかヌートリアみたいな外来種の大型ネズミかな?」

「あれ? 泳いどる、なんかこっちに来るけど、紋ちゃんの知り合い?」


「あのな~ 俺にネズミの知り合いが居る訳ねぇ~だろうッ。てか、おまえを恐れて普通の動物は寄って来ないんじゃないのか」

「じゃけど、こっちに来るで。ほれ、見てみんさい、泳ぎながら手を振っとる。しかも、なんか喋っとるで」


「また~ッ、適当な事を言って、ネズミが手を振ったり喋るわけないだろう。ほら、さっさと行くぞ。やしろの再建をした事で、苺に変化が現れたかもしれないからな」

「おお、そうじゃった、そうじゃった。ネズミなんぞ構っとる暇はないんじゃ。紋ちゃんは早う背中に乗りんさい。安全な所まで連れて行くけぇ」


小動物に知り合いが居ない俺と龍神は、泳いでいるネズミを無視すると、背中に乗せてもらい安全な所まで行き、あとは歩きだ。

いくら田舎とはいえ、人に見られる危険性があるからな。


龍神の背中から降りて、血洗い池に行った時と同じ道を歩いて帰るが、暫らくすると、池に行く時には聞こえなかった音が藪の中から聞こえ始めた。


なんだ? 誰か居たのか? まさか! 龍神の姿を見た誰かがあとをつけてきた? もしも、そうなら非常に不味い。


俺は一旦立ち止まり、まわりの警戒をしていると、藪の中の音も止まった。

気のせいだと思い歩き始めると、やはり音が付いてい来る。

不味い、本当に誰があとを付けて来ている。


俺はもう一度立ち止まり、足元の小石を拾うと音のする方に投げ、反応を確かめる。すると、藪の中から一匹の小動物が姿を現した。


なんだ、こいつが音をさせてたのか、バカたれが、驚かせやがって・・・・・あれ? こいつはさっき池に居たネズミじゃないの?


龍神の存在がバレなくて安堵したバカな俺は、気持ちがゆるんだのだろう、藪の中から出て来たネズミに対し、声を掛けてしまった。


「おいネズミ、なんで俺たちのあとをつけてくる? もしも、龍神を見たことを誰かに漏らしたら、はりつけのネズミの刑にするぞ。略してハリネズミだ」

「・・・紋次郎、あんたは何を言うとるんじゃ。ネズミにはりつけの意味がわかる訳ないじゃろう。ちゅうか、ネズミに話しかけるな」


「わかってる! おまえの正体がバレなくて、ホッとしたからボケただけだ、真面目にツッコむな」

「ぷぷぷ、ネズミをはりつけにしたらハリネズミって。紋次郎君は凄いセンスとユーモアの持ち主です。あなたはかしこい人なんですね」


「なッ、なに! 俺がかしこい? おお、ネズミ、おまえはそう思うのか?」

「はい、素晴らしいです。そちらの龍神様も凄い力をお持ちのようで、素晴らしいです」


「ほ~う、ネズミの分際でワシの力を見抜くとは、中々見る目があるのう。それで、何の用じゃ? どうしてワシ等のあとをつける?」

「はい、何か楽しそうだったので、つい。・・・お願いです、わたしも連れて行ってください。あの池には、もうわたししか居ません。寂しいんです」


「なんか、可哀想じゃのう。なあ、紋ちゃん。ワシが面倒を見るけぇ、連れて帰ってもええ?」

「う~ん、まあ、俺は構わないぜ。悪いヤツではなさそうだし。ただ、桃代に聞いてみないとな。アイツにダメって言われたら、何処どこか仲間が居る場所に連れて行ってやれよ」


「ありがとう紋次郎君。それに龍神様も。今言われた桃代さんに気に入られるように、わたしは頑張ります」


藪から出て来たのが人ではなく動物だったので安堵した俺は、頭と心のあちらこちらがスカスカだったのだろう。

それとも、【かしこい】とめられて、バカが加速したのだろうか? この時の俺は、桜子に罵られても、何も反論が出来ない程のバカだった。


龍神は姿を消すと、浮かんだままで付いて来る。

更にネズミが小走りで、俺の後ろを付いて来る。


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