第285話 悩み事

俺の親指の犠牲の中で、小さいけれど立派な社が完成した・・・・・・らしい。

完成の瞬間、俺は母屋の中で治療を受けていた。


もちろん、桃代とキーコの説教付きの治療だ。

そんなに怒るなよ、少し腫れて青くなっただけなんだから、この程度の怪我なら過去に何度もしてるから全然問題ないぜ。

治療を受けながら、過去の出来事が頭をよぎり、何時いつものように口からだだ漏れした為に、何時いつも以上に怒られた。


やしろの製作に思ったよりも時間が掛かり、設置の為に森に行くのは、今日は難しい。

ただでさえ薄暗く不気味な森だ、日が暮れると、森の入り口にある石垣に近寄るだけでも、怖ろしい。

もしも、ふざけたヤツが居て、白いシーツを頭からかぶり、森から走って出てきたら、俺は苺より早く寿命が尽きてしまう。


そういう事で、完成したやしろは母屋の中で保管して、明日の朝から森に行こうと思う。


夜になり、居間でくつろぐみんなを尻目に、苺の寿命の事を考えて俺と龍神は、あまり元気が出なかった。

その所為せいで、桃代にグラタンを作るよう、お願いするのも忘れた。


それなのに当の本人は、テレビを見ながらデカい口を広げゲラゲラと笑っている。

コイツ、人の気も知らないで、なんだそれは! 笑いながら俺の肩をパシパシ叩くな! 金づちで叩いた親指がズキズキするだろう。


それでも、俺は苺に対して注意をしない。

今のうちに楽しめるだけ楽しめばいい・・・残りの時間、悔いの残らぬように。


「いいか苺、俺は明日の午前中に出掛け、あの森にやしろの設置をするつもりだ。おまえが付いて来る気があるなら、あの店に連れて行ってやるけど、どうする?」

「えっ、本当ですか? うれしいです、早速連れて行ってくださるのですね。キーコさんも一緒に行きましょう。そして、わたくしに似合いそうな勝負下着を選んでくださいね」


「だそうだ、どうするキーコ、一緒に行くか? 行けば午前中の勉強時間がなくなるぜ」

「大丈夫だよ。勉強は何時いつでも出来るからね。それよりも、あたしが居ないと、紋次郎兄ちゃんが苺さんの下着を選ぶようになるよ」


「あ、そうだな。キーコさん、お願いします一緒に来てください。オイラは設置に忙しいので、苺のことは任せます」

「任せますって、何か納得いかないですが、まあいいです。明日が楽しみになりました、紋次郎さんありがとうございます。キーコさん頼りにしてますよ」


俺は明日の予定を苺に伝えると、寝室に行きやしろの御神体を何にするのか考えることにした。

ちなみに、広い母屋には、まだたくさんの部屋が余っている。

しかし、俺には自分だけの部屋がない。

前の部屋をキーコが引き継いだから・・・それだけではない、空き部屋を自分の部屋にすると、何時いつの間にか桃代の荷物があふれ、俺のスペースが無くなるからだ。


何処どこの部屋に移動をしても、必ず桃代が物をあふれさす。


結局、広い寝室の一角に机を置いて、周りをパーティションで囲み、そこだけが俺の専用スペースとなった。

当主としては情けない空間なのだが、だからと言って不満は無い。

もともと、狭いワンルームマンションで暮らしていたのだから、俺にはこれで充分だった。


常に自分の目の届く所に居る所為せいか、その後は俺の専用スペースに、桃代の荷物があふれる事はなくなった。

さすがは家庭内ストーカー、いろいろやってくれるぜ。


その寝室の隅にある机の前に座り、御神体を何にするのか考える前に、まずはパソコンで調べてみる事にした。

遥か大昔、水龍になり損ねた大蛇だいじゃの怒りを鎮められる物ってなんだ?


いろいろ調べてみたが、そのうちに気が付いた。そんなモノ、ネットで調べても出てくる訳がない。

仮に出て来ても、それはただの空想だ。


だが、当時の生き証人がいる。

龍神が思い出してくれると手っ取り早いのだが、今現在は忘れているようだし、無理に思い出せとは言えない。


少なくとも、みずちに対して友達みたいな事を言っていた。

そいつの、惨殺された遺体から、埋葬までの過程を思い出させるのは、酷だと思うからだ。


まあいい、思い出せとは言わないが、ヤツのことだやしろを設置してると、何かの拍子に思い出すかもしれない。


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