第275話 祟りの正体

龍神の過去の知り合い・・・・そいつが森の祟りと、どういう風に繋がっているか、今のところまだ何も分からない。

しかし、この話を軽視するな、俺の直感がそう告げている。


龍神の話を聞く限りでは、そいつとはしばらく行動を共にして、あちらこちらで悪事を働いていたそうだ。

まぁ、大昔の話なので、悪事については今更なにも言えない。

コイツ自身、もともと邪悪な存在だったのだから・・・。


だが、悪事を働いた所為せいで有名になり、みずちの退治をする為に、あがたもりなる人物がやって来たそうだ。

春先だったその時、まだ大蛇おろちである龍神は、気持ち良く冬眠をしていたそうで、その頃から寝坊助で、運の良いヤツだったみたい。


みずちは、河の分岐点にある淵を棲み処にしていたが、そこへ退治の為に現れたあがたもりに、【淵に浮かべた瓢箪ひょうたんを三つ同時に沈めてみよ】と挑発され、みずちは鹿に化けて沈めようとしたが、同時に沈める事は叶わず、あがたもりに斬り殺された。

しかも、淵の底にある洞穴ほらあなにいた小さなみずちも全て斬り殺され、淵の水はみずちの血により赤く染まったらしい。


何故なぜ? 鹿に化ける?


化けられるんだったら、もっと他のモノに化けろよな!


「なあ龍神、どうしてみずちは鹿に化けたんだ? ビーバーとかラッコに化ければ、瓢箪ひょうたんを沈められたかも知れないのに・・・」

「あのな~紋ちゃん。当時のワシ等が、ビーバーとかラッコを知っとると思うか? 仮に知っとったとしても、ダムを作ったり、石で小突こづいても、瓢箪ひょうたんは沈められんじゃろう」


「そうか、そう言えばそうだな。それで、そのみずちと森の祟りややしろの石垣が、どう繋がるんだ?」

「もう、そがいにかさんとって。本題はこれからじゃけん。ええか、冬眠から覚めたワシはみずちのず~ちゃんを訪ねた。じゃが、ず~ちゃんは・・・」


「ちょ、ちょっと待て龍神。なんだ【ず~ちゃん】って? み~ちゃんでもち~ちゃんでもいいのに、なんでず~ちゃんを選んだ? 動物園みたいな呼び方が気になって、他が頭に入ってこない」

「そげな事を言われても、みずちのヤツが【ず~ちゃんって呼んでくれ】って頼むけぇ、仕方がなかったんじゃ」


「なるほど。さすがに、おまえと気が合うだけあるな。かなり変なヤツだったみたいだな」

「そうじゃな、ワシと気が合うヤツは、みんな変なヤツじゃ。その筆頭が紋次郎、あんたじゃ。いい加減、話の腰を折らんでくれ」


「はい、すみませんでした龍神様。オイラは静かにしてますから、話を続けてください」

「ホンマにもう、紋ちゃんが一番変なヤツじゃ。ほんなら続けるで。目覚めたワシがず~ちゃんが住んどる淵に行くと、みずちは一体もおらなんだ。淵の名前も血洗い池に変わり、血と毒におかされた赤黒い淵は、むしも住めんようになっとった」


「血洗い池? 龍神様、喋ってもいいですか。ダメって言われても喋るけど。いいか龍神、あの森の近くに、その名前の池があるってキーコが言ってたけど、もしかして、そこの事か?」

「そうか、あの淵はまだ残っとるんか。まあ、そうなるよのう。稲作には使えんけど、埋めると祟られそうじゃし、誰も手出しが出来んよな」


「祟られそう? おい龍神、あの森の祟りって、まさかと思うけど、みずちが元凶の祟りではないのか?」

「そうじゃけど・・・えっ、今頃気が付いたん? 紋ちゃんは安定のバカじゃのう。ワシはのう、ず~ちゃんを始め小さいみずちの亡骸を、あの森に埋めさせて、そこにやしろを作り手厚く供養をするように、村人を脅して命令したんじゃ。あの石垣はワシの指示であの形になったんじゃ」


「なるほど、だからあの石垣に見覚えがあったんだな。しかし、おめえもあの森を忘れていたくせに、俺だけバカ扱いするな! じゃあ、社が壊れたから祟りが起きるようになったの? えっ、じゃあ、今回祟りが消えたのはどうして?」

「まあ、おそらく、祟りが起き始めた時期と、社がうなった時期は、重なるじゃろうな。問題は祟りが消えたように感じた事じゃ」


「消えたように? おい龍神、じゃあ、実際のところ祟りは消えてないのか? それはマズいぜ。桃代のヤツ、あそこの仕事を請け負ったみたいだぜ」

「うん、あそこの森は、もう大丈夫じゃ。それよりも、もっとマズい事態になっておる。紋ちゃん、あんたも気付いたじゃろう。みずちに取り憑かれたヤツがおる事に」


「うっ・・・やっぱりか。あれって、そういう事なんだ。行方不明になって以来、少し性格が変わった気がするから、不審に思ってたんだよ。なあ龍神、どうしたらいいと思う? 俺は何をすればいいと思う?」

「ええか、紋ちゃんはバカな事を考えんようにしんさい。苺に取り憑いたみずちの怨念を、自分に移し代えて祓うのは、人間には烏滸おこがましい所業じゃ。取り憑かれた瞬間に、身体が破裂するけぇ、絶対に無理じゃ」


「だけど、俺がなんとかしないと。苺は苦手なヤツだけど、桃代が連れて来たヤツだし、キーコも懐いてる。もしも、苺が居なくなれば、おまえも困るだろう」

「バカたれッ! 身体が破裂するって言うたじゃろうッ! 【俺がなんとかしないと?】その考えが烏滸おこがましいんじゃ。ええか、もしも、あんたに何かあれば、ワシはあまちゃんさんに首を斬られ、頭を落とされる。それを忘れんようにしんさい」


「うっ、そうか、そうだったな、すまん龍神・・・・・だが、そういう事なら、俺に協力するしかないな。何か良い方法を考えろ龍神!」

「げえッ、なかなかこすい手を使う・・・・じゃけどな、無理なモノは無理なんじゃ。紋ちゃん、苺の事は諦めんさい。みずちに身体を乗っ取られ、正気を失う前におくるしかないんじゃ」


「イヤ、俺は絶対に諦めない。おまえが協力しないつもりなら、俺は単独でなんとかする」

「紋次郎・・・千年前と何も変わってない。あんたは本当にバカじゃのう。なんとかしたいけど、ワシらバカ二人が考えても何も良い方法は浮かばんじゃろう」


うっ、いきなり頓挫した。

確かに、同じ思考のバカ二人、名案なんて浮かぶはずがない。

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