第246話 冥福

日も暮れて、まわりは暗くなり遠くは見えなくなるが、室内の明かりのおかげで、庭は明るい。

その庭で、桜子と龍神が代わりばんこに、俺のモノマネをしている。


龍神と交互にモノマネをしている所為せいで、梅さんは諦めた表情をして、桜子に注意が出来ないようだ。

ムカムカするが、楽しんでいる奴らに水を差したくない。


俺は怒りをこらえると、風呂に行く。

かめを掘り返して泥だらけの俺は、早く身体を洗いたかった。

もちろん湯船には浸からずシャワーだけを浴びると、さっさと出るが、脱衣所には、当たり前のように桃代が居た。


「ももよ~ なんのつもりだッ。【他所よその家でみっともない真似をするな】って、注意しただろう」

「だって、わたしが居ると、桜子も龍神様も遠慮をするでしょう。せっかくキーコと百合が楽しんでるのに、邪魔をしたら悪いじゃない」


「百合が楽しんでる? アイツはもう出て来たの?」

「そうみたい、最後は笑いながらおくってあげるつもりなんでしょう。キーコも他の人も、紋ちゃんみたいに死者が喜ぶおくり方をしたいんでしょう」


「そうなの? オイラにそんな意図はまるでないですぜ。まあ、バカな俺の真似をするとは、バカな奴らだな。それで、桃代さんが服を脱いでる件は、それと何の関係があるの?」

「わたしはね、紋ちゃんが疲れてると思って、背中を流してあげようと思っただけだよ。なんでそんなに早く出るの?」


「いいか桃代、俺が速く風呂を出る理由は、おまえの所為せいだ! 自宅以外で一緒に入ろうとするな」

「もうッ、我が儘ね。いいじゃない、ちゃんと椿さんに許可を貰ったんだから」


「いいから、早く服を着ろ。あまり時間を掛けると、変な想像をしたユリと桜子が覗きに来るぜ」


桃代が服を着て大きな胸が見えなくなると、俺はドアノブに手を掛ける。

ドアの向こうではドタバタと足音がする。

やっぱり居やがった。今日は何となく居る気がしたぜ。


脱衣所のドアを開けて見てみると、台所に逃げ込むユリの後ろ姿が見えた。

ついでに、椿さんの後ろ姿も見えた。


ふ~ぅ、どうなってんだ鬼門家おにかどけの連中は? 世話になったから言いたくないが、二度と来るかッ。


俺は自分の荷物を持つと、庭に行き、百合に別れを告げる。

キーコとの別れの時間が来た時に、邪魔をしたくないからだ。


「百合、何も世話になってないけど、世話になったな。おまえも早く生まれ変わってこい。キーコが待ってるからな」

「紋次郎君、もうちょっと、他の言い方は無いの? 確かにわたしは世話になって、世話はしてないけど、少し冷たくない? それと、キーコが待ってるって、紋ちゃんは待っててくれないの?」


「あ~もうッ、面倒なヤツだな。いいから、さっさと成仏しろ。早く生まれ変わらないと、キーコと遊べないだろう。それから一つだけ言っておく。今度生まれる時は、健康な体で生まれてこい。キーコと一緒に遊園地に連れて行ってやる」

「本当ね? 約束だからね紋次郎君。よし! では、そろそろきます。幽霊なのに楽しい気分でけるだなんて、想像してなかったわ。キーコ、あなたに会えて良かった。あなたが笑顔でおくってくれるから、何も悔いが残らない。生まれ変わったその先で、また友達になろうね」


「待ってるから、待ってるからね百合。あたしの友達を待ってるからね」


百合の発する淡い光が、一段と大きく光ると百合は消えた。

消えると同時に、誰も居ない仏間から、おりんが鳴る音が4回聞こえた。


チッ、カラータイマーとか言ってたくせに、点滅をした後で消える設定はどうした!

りんを4回鳴らすと出て来る設定なのに、消えた後で鳴るってどういう事だ!

自分で言った設定を、一つくらいは守れよな。


そんな愚痴を、成仏する奴に投げかけても仕方がない。

ただ、おりんが鳴り終わると同時に百合の明るい声で、【だいすき】小さくそうささやかれた気がする。


俺とキーコは顔を見合わせると、二人とも笑みを浮かべて、百合の冥福と再会を祈る。


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