第245話 座談会

初夏はが沈むのが遅い。

鬼門おにかどの家がある島まで戻って来たが、まだが沈んでない。

漁港に着く前に桃代に起こされると、俺は長椅子に座り直してぼ~っとしていたが、目の前に置かれていたかめがないのに気が付いた。


かめのない理由は簡単だった。

龍神以外はかめを運べないので、漁港での荷卸しは出来ない。

なので、ユリの家の近くにある人の居ない海辺から、龍神がかめだけを運んだそうだ。


このあとも、人目に付かない深夜に、桃香の塚があるもも神社の広場まで、龍神が運ぶ事になってるらしい。


そんな予定を聞かされて、俺は不安でいっぱいだった。

もしも、途中で落としたり、かめを割ったりしたら、えらい事になる。


予定を話してくれた桃代は、俺の表情でそれを察したらしく、対応策も説明してくれた。

さすがは桃代だ、抜け目がない。

俺の隣に座るキーコも安心した顔をしている。今度の件も、最後は桃代が上手うまくまとめて終わりそうだ。

これでまた、俺は桃代に頭が上らない。


漁港に着いて、桃代にそんな説明を受けながら、俺と桃代とキーコの三人は、仲良く横並びで鬼門おにかどの家に向かう。

その後ろでは、船酔いの酷い桜子をユリと苺が介抱しながら三人で歩き、一番後ろをユリの親父の虎吉と椿さんの二人が続く。


鬼門の家に着き庭に入ると、龍神は梅さんにおやつを貰って食べている。

俺の買い置きのおやつだが、このあと大変な龍神の為に何も言わないでおいた。


到着時間を前もって伝えていたおかげで、風呂の用意も済んでいる。

昨日は、海水を流す為にポリタンクの水を浴びただけなので、桃代たち女性陣が先に入るようなので、俺は自分のやるべき事を先にする。


この島に来る事は、余程の事でもない限り、もう無いと思う。

俺は百合の墓を念入りにきれいにした後で、聞いているのか知らないが、結果報告をしてやった。


コイツをおくるのは俺の役目ではない、約三百年の長きにわたり、キーコの心配をしていたのだから、キーコにおくって欲しいはずだ。

そういう意味では、俺は部外者だと思う。


きれいにした墓の前で手を合わせ、口には出さないが無事に終わった事を百合に告げる。

おまえが生まれ変わり、何処どこかで偶然会えたらいいな。

結果報告の後で、最後にその言葉だけは口にした。


百合への報告を済ませ、鬼門おにかどの家に戻る為に、俺は立ち上がり振り向くと、そこには風呂から出たばかりの桃代とキーコが立っていた。


「桃代さん、それからキーコさん、お願いだから黙って後ろに立たないでください。ビックリするだろう」

「そうね、悪かったわね。だけど、紋ちゃんが真剣に拝んでるから、声を掛けられなかったの。悪気は無いのよ、そこは理解してね」


「ごめんね紋次郎兄ちゃん、百合のお墓なんだから、きれいにする手伝いはあたしもしないといけないのに、全部任せちゃって」

「気にするなキーコ。コイツも俺と同じでキーコの味方だ。まして可愛い妹分の友達だからな、優しくするのは当然だ」


「えへへ、モンちゃんが兄ちゃんになってくれて、桃代様が姉さんになってくれて、うれしい・・・・あとは弟と妹だね。紋次郎兄ちゃん、真夜中のプロレスごっこで、早く桃代姉さんのお腹を大きくして」

「・・・ももよ、おまえがキーコに入れ知恵をしたのか? らん知識を教え込んだのか? いいか、間違っても生々しい話を子供にするなッ!」


「あら、今時の女の子は大人が思うより早熟よ。紋ちゃんこそ古い固定観念は更新しなさい」

「いいか、キーコは今時の女の子ではない。現代知識より先に、余計な知識を詰め込むな! 俺があお兵衛べえに呪われるだろう!」


キーコを問い詰めてわかったことは、らん知識を教えたのは桜子だった。

あのヤロウ! 船酔いでふらふらだったくせに、余計な事はきっちりしやがる。


俺は注意をする為に桜子を探すと、冷たいシャワーを浴びて酔いが醒めたのか、何時いつもよりハイテンションで、紋ちゃん座談会をしていた。


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