第216話 停滞

相も変わらず、龍神は物凄いハイパワーで土砂を巻き上げている。

アイツの爪ってこんなに凄いの? 短い手足のくせに。

その爪で、俺の背中のかゆい所をいてくれたの? ちょっと力加減を間違うと、俺の背骨が舞い上がってますぜ。

コイツに背中をいてもらうのは、もうやめよう。


そもそも、どうして水神すいじんが土砂の中に居るの? 水神すいじんってどんな姿で、どんな感じなの? 俺は本当に呼ばれたの? 恨みや呪いの根源について、深く考えてない俺は、わからない事だらけだ。


巻き上がる土砂をけながら、小さな声で桃代に質問をしてみたが、いまそれどころではないみたいだ。


「桃代さん! 見つけたでぇ、大きな岩で塞がっとる。コイツを取り除けば呼吸が楽になるはずじゃ!」

「龍神様も気を付けてください。それを取り除けば、水神すいじんさまが出て来て何が起こるかわかりません」


「ガハハハ、ワシは龍神様じゃあ。この中におる、水神すいじんなんかより格上じゃけぇ、問題ないわい」

「岩が塞ぐ? 中に居る?・・・桃代さん、俺にもわかるように説明してもらえません?」


「あのね紋ちゃん、あそこには井戸があるの。井戸の中には水神すいじんさまが居る。昔から水不足の島の飲み水を支え、感謝され続けた井戸なのに、ライフラインが整い、土砂崩れの後は放置されたまま、寺だから井戸を閉じる為の感謝の祝詞のりともあげてない。井戸が呼吸をする為のふしを抜いた竹筒も刺してない。そんな状態だから水神すいじんさまが怒っているの」

「そうなの? 井戸なんて、むかしは何処どこにでもあったのに、本当に水神様なんて居るの?」


「そうね、そう考えるのが普通だと思う。だけど、龍神様の居る真貝の当主がそれを否定してはいけない。紋ちゃんもこの数年で、それを強く感じたはずだよ」

「まあ、そうだな。真貝の当主になって、桃代を筆頭に奇々怪々な連中と出会えたからな。ちなみに、水神様が怒ってる事にキーコも関係があるの?」


「いいえ、キーコは本来関係ない。だけど、キーコが居なくなった事で、井戸を守る鬼門きもんの仕掛けが機能しなくなり、邪気が集まり始めた。うら鬼門きもんの仕掛けは機能してるから、邪気は逃げられなくて井戸にとどまる。結果、水神様がけがれて、恨みの呪いをばら撒いてるの」

「だから先にうら鬼門きもんの仕掛けを燃やしたの? でも、うら鬼門きもんは邪気を逃がす為の結界ではないの? それと、井戸を放置した寺は何してたの?」


「そうね、うら鬼門きもんは逃がす為よ。だけど、入り口の鬼門きもんが機能して無いから、全方位から邪気が入るでしょう。その結果、停滞しているの。寺に関しては、今そんな事を言っても仕方がないよ。今は水神様を浄化して、怒りをしずめてもらうしかない。この件は後で詳しく話すから、紋ちゃんも協力して」

「わかった。俺は何をしたらいい? それと、事情もわかったから、この手錠を外してくれる」


「・・・・まぁ、いいけど・・・間違っても、井戸の中に飛び込まないでよ。いい、紋ちゃんは龍神様が岩を取り除いたら、バッグの中にある水を、井戸に流し入れればいい。水の中には川砂と、お神酒みきを混ぜてあるから飲まないように。それと、井戸の中を覗かないようにしなさい」


落ちないように井戸を覗くな、俺はそういう意味で桃代が忠告をしてくれた。

そんな勘違いをしていた。


ただ、そんな事には気付かず、手錠を外してもらうと、桃代の重たいバッグを手にして、急いで龍神のそばに行く。

俺が到着する直前に、デカい岩は取り除かれた。


中を覗かぬよう井戸の石垣に隠れ、俺はペットボトルのキャップを外して水を流し込む。

カラになると次のペットボトルから水を流すが、その度黒いもやが立ち上がり、キツい匂いも広がる。


目にみる、腐ったヘドロの匂いに耐えながら、何本も流し続けていると、ついに水神すいじんらしき本体が、井戸の中から姿を現した。


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