第209話 コブラ

桃代が龍神に問いただした内容を聞くのを忘れた俺は、明日の朝、早めに出発する為に、もう休む事にした。

ただ、問題が起きた。何処どこで寝るかが問題になった。


前日に俺と桃代が休んだ客間に、どうして全員分の布団を敷こうとする?

キーコの分はわかるが、ユリと桜子は隣の客間に敷けばいいだろう。

もしくは、ユリの部屋で桜子と休めばいい・・・それなのに、やたらと桃代と一緒にいたがる。


それならば、俺は隣の客間に行き一人で寝ようとする。すると、桃代が付いて来る。当然ユリと桜子も付いて来る。

なんだ、これ?


結局、元の客間に戻り、桃代を真ん中に俺とキーコ、反対側にユリと桜子、五組の布団を並べて休む事になった。

ただ寝るだけなのにメンドクセ~~。


誰かがそばに居て、にぎやかな雰囲気で眠れるのは、三百年ぶりなのだろう、キーコは安心した表情を浮かべて、柔らかい布団に感激しながら、眠りについた。

キーコが眠った事で、ユリと桜子は小さな声で桃代と話をしている。


幼い頃は誰しも経験があると思う。

静かな所より、人の声が聞こえる方が安心して眠れる。

そう思い、俺は話をめたりしない。


だが・・・・やかましい。

小さな声でも、ユリと桜子が矢継ぎ早に桃代に話しかけるので、ひたすらうるさい。

俺は無言の抗議をする為に、キーコの方に身体からだを向けて眠る。


すると、桃代は自分の方を向かせる為に、肩を掴んで引っ張ったり、腕を絡めたり、足を絡めたり、それはもう睡眠妨害を色々してきた。


「いいか桃代、話をするのは勝手だが、俺の安眠の邪魔をするな。それから、今日みたいな寝坊をすると、明日は置いて行くからな」

「だって、背中を向けられると、何か拒否されてるみたいでイヤなの。でも、もうめるね。明日もちゃんと起きます。だからね、そっちの布団に入ってもいい?」


桃代の願いを拒否すれば、耳元でエジプト神話を語り出し、結局俺は眠れない。

どうせ、夜中にもぐり込まれるのだから、拒否しても意味が無い。

俺に選択肢を与えているように見えるが、一方的に桃代のなすがままだった。


無言を肯定と捉えた桃代が、背中に貼り付いてくる。

ユリと桜子の、羨望の愚痴が聞こえ始めるが、今は初夏だ、桃代の抱き枕になるのは結構つらい。


それでも耐えるしかない、隣でキーコが眠るのを許してくれたのだから。


翌日に目を覚ますと、俺の身体からだはキーコの方を向き、顔は桃代の方を向き、酷く寝違えてピキッと首が無意味に痛い。


「桃代さんおはよう。朝ですぜ、起きてくださいな。てか、このコブラツイストを、いい加減に解いて下さいな」

「ふわ~ おはよう・・・あれ? なんで紋ちゃんはわたしに絡み付いてるの?」


「ももよさん、早く技を解かないと、オイラは結婚生活をギブアップしますぜ」

「なによ~ッ、紋ちゃんは、わたしと離別するつもりなの! そんなの絶対許さないからッ!」


「痛いッ! ももよ、力を入れるなッ。この状態でおまえは他に言う事がないのか!」

「だって、紋ちゃんが意地悪を言うから・・・でも、ごめんね、いま外します」


もしかすると、夜中に俺が呼ばれないよう、桃代は技をかけたのかも知れない・・・そんな訳ないよな、コイツは単純に楽しんでいるだけだ。


朝から騒いだ為に、他のみんなは同時に起きた。

キーコは、【何してるの?】っと、首をかしげて、ユリは、【いいなぁ~】っと、うらやみ、桜子は、【出たッ、また真夜中のコブラツイスト】っと、つぶやく。


起きたばかりなのに、俺はボロボロに疲れて、桃代は元気いっぱいだった。


布団をたたむと、俺は脱衣所に行く。

みんなの着替えの邪魔をしたくないからだ。

ついでに、桃代が抱き付いて、技までかけられて汗をかいたので、シャワーを浴びる。


冷たいシャワーを浴びながらホッとしたのも束の間、桃代に乱入された。


「どういうつもり桃代さん? あなたにはキーコの着替えを頼んだでしょう」

「だって、紋ちゃんの所為せいで汗をかいたんだもん。わたしも一緒に浴びてもいい?」


「オイラはもう出ますので、どうぞごゆっくり」

「そうでなくてね、紋ちゃんの寝相が悪くて汗をかいたんだから、紋ちゃんが流してくれないと」


「俺の寝相が悪くて?・・・ももよさん、本気で言ってるのなら、オイラも本気で怒りますよ」

「うっ、怒らないでください。最近コミュニケーションが少なかったから、ちょっと、ぷにゅぷにゅしたかったんです」


「なんだ、そのぷにゅぷにゅって? 訳のわからない擬音で誤魔化すな。ほら、さっさと出るぞ。みんなを待たすと悪いからな」

「ちぇッ、じゃあ、紋ちゃんは先に出て、代わりにキーコを呼んでくれる。キーコも寝汗をかいてたみたいだから、流してあげないと」


俺は着替えが終わると、面倒見の良い桃代に感謝をしながら、すぐにキーコを連れて行く。


でも待てよ、寝ぼけながらコブラツイストをかけるヤツに、ホントに感謝をしてもいいのか?


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