第203話 百合とキーコ

元は大蛇おろちの龍神に、鬼のキーコ、百合の幽霊が現れたところで、誰も驚かないし慌てない。

桜子にいたっては、【あんたと一緒に居ると、こんなのばっかり】そんな愚痴が聞こえるような眼つきで、俺を見ている。


テメエ! 目で会話をしようとするんじゃねぇ! 文句があるんなら声に出せ。

もしも、桃代に気付かれたら、俺もおまえもろくな事にならないのは経験済みだろう、このバカたれがッ。


桜子のムカつく視線を無視すると、俺は百合の幽霊に声を掛けた。


「コイツがいま話した、夜中に俺を呼び出した百合のオバケだ。キーコは憶えているだろう。それで何しに出てきた? 俺はまだ、おりんを鳴らしてないぜ」

「う、だって、紋ちゃんがキーコを連れて来てくれたから、懐かしいのと嬉しいので居ても立っても居られなかったんだよ。そのくらい察してよ」


「あのな~おまえが出てきた時の台詞を思い出せ。前も言ったけど、俺は渡世人とせいにんじゃねぇ。それから話を聞いてたんだろう、キーコの事は俺に任せて、おまえは自分の思いを果たしていいぜ」

「ありがとう紋ちゃん・・・キーコ、ごめんなさい。わたしが早くに死んだ所為せいで、あなたを辛い目に遭わせてしまいました。本当にごめんなさい」


「百合? 本当に本物の百合なの? まさか、百合とまた話が出来るなんて嘘みたい。モンちゃんと一緒に居ると、うれしい事ばかり起こる」

「二人共、三百年ぶりの再会だ、思う存分話をすればいい。百合のカラータイマーが点滅するまで」


「カラータイマー?・・・って、なに? モンちゃん、あたしにわかる言葉を選んで喋ってよ」

「あのなキーコ、それは百合に言え。俺も百合にそう言われただけだからな」


「そうなの百合? あなたは昔っからお調子者なんだから、モンちゃんを揶揄からかったんでしょう?」

「だって、仕方がないでしょう。紋ちゃんって何かイジたくなるんだもん。わたしにらん知識を植え付けた、もう一人のユリの所為せいよ」


「もういいから、キーコと百合は仲良く話をしていろ。ユリ、おまえには後で話がある。じゃあ、ももよさん、明日の予定をたてますか」

「いいわよ、ある程度解決の目処は立った事だし、明日は紋ちゃんと二人っきり、楽しいピクニックね」


「あのですねモモちゃん、楽しんでる場合ではないと思うのですが・・・・あなた、本当のところ、まだお宝を諦めてないでしょう」

「当たり前じゃない。折角の長期休みをこんな何もない離島に来て他に何をするの? ミステリー発掘は済んだ。あとは盗掘をしてミイラを見つければ、OGとして研究会に報告が出来る。そうでしょうユリ」


「そうですね、これでミステリー発掘盗掘ミイラ研究会を卒業できます。大学を卒業してからも、桃代さんは名誉顧問でしたからね」

「いいか桃代もユリも、報告なんて出来ないし、させないぞ。キーコに迷惑が掛かるからな。それに、もしも千両箱を発見したらどうするつもりだ」


「あっ、そうね、キーコを見たくて人が押し寄せたら困るわね。千両箱も土地の所有者と折半・・・・なんかそれも釈然としないわね。下手に文化財の認定をされると、その価値の5~20%の功労金しかもらえない・・・・苦労の割に、見返りが少ないよね」

「だから、盗掘なのではないですか桃代さん。お宝を発見したら闇のオークションにかけましょう」


「おい桜子、桃代とユリを蔵の座敷牢にぶち込んでおけ。キーコの教育に悪過ぎるし、本物の牢屋に入る事になりかけないからな」

「紋次郎君・・・自分の事を棚に上げて、よく桃代姉さんとユリさんを非難できるわね。千両箱の言い出しっぺは紋次郎君でしょう」


「ねぇキーコ、これから本当に紋ちゃんと暮らすつもりなの? もしかすると、あの人はトンデモないうつけ者かも知れないよ」

「大丈夫、心配しないで。モンちゃんは自分に素直なだけ、不器用だけど根はあったかい。百合だって、それに気付いたから姿を現わしたんでしょう」


「まあね、見ず知らずのわたしのお墓にお線香を供えてくれて、雑草まで抜いて綺麗にしてくれた。紋ちゃんがわたしの兄ちゃんだったら、どんなに嬉しかったか」

「何言ってるの、百合のお兄さん、百合が死んでどれだけ悲しんでしたか、そんな事を言うと悪いわよ」


「だって、キーコが閉じ込められたのは、わたしの兄ちゃんも関係してるでしょう? ごめんねキーコ。長い年月を奪ってしまって・・・」

「いいの、百合は悪くない。それに分けて貰ったお饅頭が美味しかったから、それを思い出して空腹も耐えられた。それにね、兄さんと仲良くしてる百合が、羨ましかったの。おかげで、あたしにも仲良くしてくれる兄ちゃんができた。残念な事もあるけど、満足な方が大きいから謝らないで」


「キーコ・・・ありがとう。これで心置きなく成仏が出来る。これからは、いっぱい紋ちゃんに甘えなさい」

「おい百合、まだ成仏するんじゃねぇ。キーコの危険が無くなった訳じゃないし、願いが叶った訳じゃない。終わりを見届けてから成仏しろ」


「それはいいけど・・・・わたしが居ても、もう何も役には立たないよ。そこに居る桃代さんの方が、いろいろわかっているようだから」

「そうじゃねぇ、おまえも満足して成仏をすれば、きっと良い来世を迎えられる。俺が勝手にそう思うからだ」


「・・・良かった、わたしは間違ってなかった。文箱ふばこを紋ちゃんに託した事は間違いではなかった。ありがとう紋次郎君」


約三百年、キーコを心配し続けた百合にも何かしてやりたいが、キーコのよろこぶ顔が一番の供養と思い、俺は百合をこの世に留めた。


これでキーコの母親の遺骨を、絶対に見つけないといけなくなった。


もしかして、俺は自分を追い詰めてないか?

何故なぜなら、桃代と龍神がさめた眼つきで俺を見ているから。


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