第204話 おんぶ

明日の予定もあるので、今日も鬼門おにかどの家に厄介になる事にした。

旅館の方は勿体ないので、ユリの両親と爺婆、あとは梅さんに宿泊してもらい、上げ膳据え膳で楽をしてもらう事になった。


ユリと桃代が勝手に決めたのだが、どうして俺の意見を聞かない?

そんな不満を漏らすと、【だって反対するでしょう。】っと、ユリにあっさりかわされて、俺は何も言えない。


まあいい、キーコと百合が楽しんでいるのだから、解決するまで我慢してやる。

そんな感じで拠点の変更をする為に、俺と桃代は二人で旅館に行き、事情の説明と荷物の移動をすることにした。


鬼門おにかどの人達と梅さんを旅館に送り、荷物を持って移動中、俺は桃代に謝罪した。


「悪いなモモ。相談なしにキーコの事を勝手に決めて、おまえには感謝しかないぜ。この借りは必ず返すから、なんでも言ってくれ」

「まぁ、こうなる気がしたから、それはいいよ。龍神様が居る我が家でしか、キーコは安心して暮らせない。見た目は可愛くても鬼だからね。あと、借りなんて水くさい事を言わないの」


「ありがとなモモちゃん、俺の気持を軽くしてくれて・・・ただね、どうして俺は、おんぶをさせられてるの? 両手に荷物を持たされて、そのうえ背中にまで、重たいだろう」

「なによぅ、わたしだって両手に荷物を持ってるからあいこでしょう。紋ちゃんは、わたしを背負うのがイヤなの?」


「あのなぁ、イヤなんて言ってないだろう。ただ、荷物を持つ桃代ごと、俺はおんぶをしてるわけだ。あいこの意味をよく考えろッ」

「も~う、このくらいの事で怒らないでよ。紋ちゃんだって、わたしのオッパイを堪能できて嬉しいでしょう」


「桃代さん、キーコの前では、そのトンデモ発言は今後控えてくださね。オイラ、また変な誤解をされちゃいますぜ」

「むふっ、それはこれからの紋ちゃん次第。少しでもわたしの事をお座なりにすると、あんな事やこんな事を口にするかも知れないよ」


「もういい、好きにしろ。その代わり、落ちないようにしっかり掴まっていろよ」

「そうそう、そうやって、これからもわたしを大切にしてね。そうすれば、わたしも紋ちゃんを大切にするからね」


そうだった、桃代はこういうヤツだった。

神社の鳥居に、あいあい傘の落書きを平気でする非常識なヤツなんだから、俺が気を付けないといけない。


桃代のデカい乳とその体重に、押し潰されそうになりながら、俺はなんとかかんとかユリの家に辿り着いた。

腰がめちゃめちゃ悲鳴を上げている。


俺は桜子に荷物を手渡すと、やっと重量から解放された。


「わざわざありがとうね紋次郎君。ちなみにバックを開けて、中の下着を見たりしてないよね」

「おい桜子、荷物を持って来てもらって、それは言っていい台詞なのか? また調子に乗ってるようなら、おまえは一人で仏間に寝かせるぜ」


「ヒ~~ッ、すみません、調子に乗ってました。幽霊の出る仏間で寝たくありません。慣れたとはいえ、実はまだ怖いんです」

「おまえは俺と一緒で進歩をしない奴だな。いいか桜子、おまえの荷物は桃代が用意した、俺はただ運んだだけだ。疑うようなら桃代に確認しろ」


「いえ、疑ってません。ただ、紋次郎君と遊びたかったんです。ちゃんと言われた通り、キーコちゃんの面倒も見てました」

「そうか、ありがとうな。何か問題はなかったか?」


「大丈夫じゃない。紋次郎君が出掛けた後はソファに座って、ずっと百合ちゃんと仲良く話をしてたよ」

「そうか・・・って、ちょっと待て。おい百合ッ、なんでまだそこに居る? 一日一回3分間の制限はどうした?」


「うっ、あれはウソです。いたいけな少女の、お茶目だと思ってください。というか、幽霊に制限なんてあるはずないでしょう。紋ちゃんは素直というよりバカの部類だね」

「テメエ! また俺をおちょくりやがって、次に同じような事を言うと、頭の上から塩をかけるからな」


「ごめんね、怒らないでよ。それから、待ってるあいだに桜子さんから聞いたわよ。千年前の紋次郎君の話、わたしなんかより遥かに大変だったみたいね」

「桜子、おまえはまた余計な事を喋りやがって・・・無駄口を叩いてると、桃代に叱られるぜ」


「だって、キーコちゃんが紋次郎君の事を知りたいって言うから・・ごめんなさい。桃香様の事を思い出しちゃった?」

「更に余計な事を・・・まあいい、ウチに来ればわかる事だからな。あのなキーコ、もう一人紹介したい人が居る。今はもう影も形も残ってない、塚しか残ってないけど俺とは縁の深い人だ」


「うん、お願いね。それから桜子さんに聞いた話を、モンちゃんから直接聞きたいの。お願い、最初からもう一度教えてくれない?」

「まあいいけど・・・千年前の出来事は、俺より桃代の方が詳しいから、モモに聞いた方がいいと思うぜ」


「バカねぇ、キーコは紋ちゃんから聞きたいの。記憶に無いところは、わたしが助言してあげるから、紋ちゃんが自分で話しなさい」

「ありがとう桃代様。お願いねモンちゃん」


キーコにお願いをされ、俺は断れる事も叶わず、真貝の家に来た二年前からの出来事を、説明する事になった。


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