第194話 悪魔祓い

誰だ? この子は? なんて考えても仕方ない。

あわい光を発しているが、誰が見ても死装束と思える姿をしているのだから、電子機器ではない。


さてさてどうしよう? 声を掛けるべきなのか? それともこのまま襖を閉じると、何も見なかった事にして、羊と一緒に算数の勉強をするべきなのだろうか?


迷う俺に、電子機器ではない女の子は、どろんとした力のない目をして見詰めてくる。


さてどうしよう? 悲鳴を上げると、みんな出て来てくれるかな? でも、男が悲鳴って・・・ちょっと、カッコ悪いよな。

それに、悲鳴を桜子に聞かれると、座談会のネタを提供する事になる。


悩む俺に、生者とは思えない女の子は、力の無い、音の無いり足で距離を詰めてくる。


どうしよう? 距離が詰り、バカを考える余裕がなくなってきた。

こういう時は、お経を唱えると消えてくれるかな? でも、南無妙法蓮華経なむみょうほうれんげきょうまでしか知らない。


よし。開き直ろう。

初めて幽霊と遭遇した訳でもないし、こんなのは今更だ。

俺が逃げないと感じたのか、あわく光る女の子は足を止め、目に力を宿しハッキリとした口調で語り掛けてきた。


「あなたが、わたしの文箱ふばこに気付いた人なのね。そんなあなたにお願いがあります。どうかホオズキを助けてあげて。あの子はわたしの所為せいで、苦しめられたの」

「おまえは、もしかして百合か? おまえの願いを聞く前に、先に俺の質問に答えろ。桃代はどうした?」


「ももよ? ごめんなさい、誰のことだかわかりません。わたしの呼び掛けに気付いてくれたのはあなただけ。なので、あなたの魂だけをここに呼んだのです」

「魂を呼んだ? ちょっと原理がわかんないけど、俺の身体からだは大丈夫なの?」


「はい、すでに手遅れですので、諦めはすぐにつくと思います。その代わり、わたしの仲間になれますから、ふわふわプカプカできます」

「おまッ、ふざけんなよッ。幽霊になると、キーコを助けられないだろう。それに、桃代が悲しむ・・・? 悲しむのかなぁ、ミイラにされて喜ばれるのかなぁ」


「もちろん冗談です。魂だけを呼ぶ、なんて器用な真似は出来ません。わたしが他者を認識してないので、見えなくなってるだけです」

「本当だな。もしも、ウソをいてたら、坊さんを呼んで強制的に成仏させるぜ」


「ふふ、ウソをいたら成仏させるって、変な人。わたしの文箱ふばこに気付いた理由と、ホオズキがなついた理由がわかりました。あなたの言う通りわたしは百合です。あなたのお名前は?」

「俺か? 俺は紋次郎だ」


「そうですか、あなたが紋次郎さんなんですね。ホオズキがお花を供えてくれた時に、あなたの事を告げられました・・・確か渡世人とせいにんとかなんとか?」

「ヘヘッ、この鉛入りのサイコロで、今晩ひと儲けするぜ。って、違う違う、なんで渡世人とせいにんなんだよッ。俺の苗字は木枯こがらしじゃねぇ!」


「も~~怒んないでよ。だって、わたしに気付いてくれたのは、紋ちゃんだけなんだもん。少しくらいふざけてもいいでしょう」

「なんだ、急に変わりやがって。おまえ、なんかキーコと似てるな。キーコがあんな性格なのは、おまえの影響なんだろう」


「キーコ? キコのことね。そう、もう名前を教えてもらったの。わたしでさえ苗字のホオズキから名前のキコを教えてもらうのに、ひと月も掛かったのに・・・紋ちゃんばっかりズルい」

「だからッ、なんだそれは、面倒くさいヤツだな。いいか百合、おまえとは今日が初対面だ、紋ちゃん言うな」


「え~っ、だって、お墓にお線香を供えてくれたから、初対面の気がしなくて。あの時は本当にうれしくて、取りいてあげようかと思ったんだよ」

「怖い怖い、なんで取りく事を恩着せがましく言うの。ただの迷惑行為ですぜ」


「ほらそれ、幽霊のわたしをちっとも怖がらない。だから、紋ちゃんの身体からだの中で、同居が出来るかと思って」

「おまえ、ホントしばくぞッ! 勝手に同居人になると、割高な家賃を請求するからな」


「なんで? こんなに可愛くて、いたいけな少女が同居してあげるのよ、普通は喜ぶことでしょう」

阿呆あほうッ! 身体からだを乗っ取る悪霊もどきに同居されて、誰が喜ぶかッ。いいか百合、もしも取りいたら、俺は石段の高い所から身投げをするからな」


「うっ、紋ちゃんがカラス神父になろうとしてる。わたしはただの幽霊なんだから、パズズの真似が出来る訳ないのに」

何処どこからその名前が出てきたッ。てか、なんでおまえがその名前を知ってる。現代に毒され過ぎだろ」


「紋ちゃんが悪霊なんて言うから、合わせてあげただけなのに・・・名前はね、この家にわたしと同じ名前の女の人がいるでしょう。その人が、やたらと悪霊とかミイラとか、そういうたぐいの映画っていうモノを見てるから、たまたま覚えただけだよ」

「そうですか、ミイラですか・・・」


どうやら桃代に毒されたユリの影響で、三百年前のいたいけな少女の幽霊が、現代に毒されているようだ。

早く話を進めないと、コイツのらん知識で、地味に俺がダメージを受ける。


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