第193話 夢?現実?

俺と龍神に料理のダメ出しをされたのに、桃代に合格を貰い、ユリはご機嫌だった。

真鯛のさばき方を、ミイラ作りのような描写をしたので、桃代とミイラの話で盛り上がり、酒まで飲み始めるが、死後は我が身なのに、どうしてご機嫌なのか、俺にはわからない。


酒・・・これもイヤなパターンだ。

龍神は酒の匂いがした途端、一目散に逃げ出して、俺は酔った誰かが絡んでくる前にさっさと旅館に戻りたかった。

しかし、桃代を置いては戻れない。

もしも、酔った状態で暗い不慣れな道を歩いている時に、不測の事態が起これば、俺は必ず後悔する。


まあ、その内おひらきになるだろう、それまで我慢するしかない。

酒を飲まない俺は、一人で縁側に座り、キーコのこれからを考える。


そうしようと思っていたのに、なんでだ、かユリの母親と婆さんが付きまとう。


「紋次郎さん、客間にお布団を敷いておきましたから、今夜は泊まってくださいね」

「あ、あのですねユリのお母さん。オイラは宿を取っておりますので、そろそろおいとましようかと思います」


「ダメですよ。ユリのお母さんではなく、椿つばきと名前で呼んでください。それからユリに聞きました。紋次郎さんはヘビが苦手とか、この時間はマムシがでますよ。それでも帰られますか?」


ユリの母親、椿さんの忠告で、俺のコマンドに逃げる選択肢は無くなった。

広間では桃代を筆頭に、ユリの他に親父と爺さんも加わり、宴会が催されている。

ついでに桜子もそこに居る。


手持ち無沙汰の俺は、テーブルの上にノートを広げて、キーコの事を考えようとするが、椿さんと婆さんの視線に集中が出来ない。

ついでに桜子の大きな笑い声で、余計に集中が出来ない。

仕方がないので、先に風呂を頂き、布団の中で考える事にした。


さすがにデカい門構えの家だけあり、無意味に風呂もデカかった。

風呂上がりも、かいがいしく面倒を見てくれるが、いい加減も鬱陶しくなってきた。

そこで梅さんに頼み、椿さんと婆さんにそれとなく忠告してもらい、やっと一人になれた。


客間には布団が二組敷かれている。俺と桃代の為だろう。

梅さんと桜子は別の客間で寝るようだ。


俺は枕元にリュックを置くと、ノートを中に片付けて、布団をかぶって考える。

広間の方では大きな笑い声が、突然消える。

俺が床に就いた事で、静かにしろと、桜子が怒られたからだ。


あちらこちら、キーコと島を歩いた所為せいだろう、俺は割かし早く眠りに落ちた。



早く休んだ所為せいなのか、夜中に寝返りをすると、俺は何故なぜだか目が覚めた。

おかしい、疲れているはずなのに、どうして簡単に目が覚める? 

物音ひとつ聞こえない暗闇の中で、上半身を起こして隣の布団を見ると、桃代がいない。


酔いつぶれて、広間の方で雑魚寝をしている? 桃代に限り、それはあり得ない。

桜子に聞いた限りでは、桃代は他人に対して、隙を見せない人らしい。

例外なのは俺が一緒にいる時と、親しい人とミイラの話をする時だけらしい。


桃代が心配な俺は起き上がると、念の為に宴会をしていた広間を見に行くことにした。

静まり返り、音の無い大きな屋敷では、自分の耳が聞こえなくなった、そんな錯覚におちいりそうになる。


当たり前なのだが、目を瞑り寝ていたおかげで、電子機器のあわく僅かな明りでも夜目よめが利く。

広間に行くと、テーブルの上には宴会の残骸らしきからのグラスや酒瓶、ビールの缶や皿などが散乱している。

手付かずのミイラ焼きは残っているが、誰もそこには残っていなかった。


おかしい、桃代は何処どこに行ったのだろう? この静けさも妙におかしい。

いくらなんでも静か過ぎる。


俺は一旦客間に戻り、隣の客間も見てみるが、布団が二組あるだけで、居るはずの梅さんと桜子の姿もない。

んっ? 桜子はともかく、梅さんまで居ないのはどういう事だ? 


俺は悪いと思いつつ二階に上がり、入る前におざなり程度のノックをすると、ユリの部屋にも入る。

しかし、やはり誰も居ない。ユリのベッドもカラだった。


いよいよおかしな感じだ。

俺は手当たり次第部屋に入ると、桃代をはじめ鬼門家おにかどけの人間も探したが、誰も見あたらない。

二階だけではなく一階もそうだった。

念の為に庭も見てみたが、やはり誰も居ない。


なにコレ? もしかして俺だけ残すと、みんなで時空を超えたのか? 今ごろ墓泥棒をしてるのか? いやいや、いくらなんでもそれはあり得ない。

悩んでいると、別の部屋から明かりが漏れてる事に、俺は気が付いた。


んっ? さっきあの部屋を見た時、明かりはついてなかった・・・んっ? どういう事だ? 誰か居るのか?

俺は嫌な予感を抑えつつ、明かりの漏れる部屋の前に行き、勢いよく襖を開けると、そこは、立派な仏壇のある仏間だった。


う~~失敗した。

あのまま布団に入り、羊を数えていればよかった。


仏壇の前には、額に三角のてんかんを付けて白い着物を着た、小さな女の子が立っていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る