第135話 あと少し

塚の手入れが終ると、昼食を取る事に母屋へ戻る事になった。

俺は道具の積まれたカートを引いて歩いて行くが、桃代と桜子は龍神の背中に乗ると、あっという間に帰って行った。


なんだそれ?


自業自得だが俺は怪我人、少しくらい代わりにカートを引いてくれてもいいのに。

そんな愚痴をこぼしそうになる。


帰り道は、のぼりと違いカートを引くのは苦にならない。

そのうち【バランスよくカートに乗れば楽に帰れるかもしれない】そんなバカな考えが頭によぎり、やってみた。


結果、何時もの間抜けをさらす事になった。

途中までは上手く乗りこなしていたのに、速度が出たところでカーブを曲がり切れずに転倒すると、道具が勢いよく散乱したうえにカートの車軸も壊れた。


散乱した道具を拾い集めて、重たい道具箱と壊れたカートを引きずりながら四苦八苦していたところで、帰りが遅い為に迎えに来てくれた桃代に見つかり、酷く呆れられた。


「ごめん、桃代さんのカートを壊しちゃった」

「ハ~ァ、それはいいけど、山道を歩いてりるだけで、どうしたらこうなるの?  また空中爆発をしたようになってるよ」


「いや、ちょっとね。遊び心というか好奇心というか、そういうモノがもたげたもので・・・ちなみに、空中爆発は一度もしてませんぜ」

「・・・紋ちゃん、お願いだから、わたしの知らないうちに死体にならないでね」


諦めた顔をした桃代が壊れたカートを運んでくれたので、俺は道具だけになり少し楽になった。

母屋に着くと、勢いよく転んだ時にあちらこちらをいて、血が流れている俺を見て、龍神と桜子がまたしてもタメ息をついた。


「また怪我してからに、そうやって紋ちゃんがすぐに怪我をするけぇ、ワシが桃代さんに怒られるんで。もうちょっと気を付けんかいッ」

「も~う、勘弁してよ紋次郎君。わたしがここに来て、血を流しながら帰ってくるのは何回目? もしかして何かに呪われてるの? それとも祟られてるの?」


「ぐッ、おまえ等二人とも覚えてろよ。龍神、おまえには、もうおやつを分けてやらない。桜子、おまえが迷子になっても、俺は知らんぷりしてやるからな」

「はいはい、そんな情けない復讐を宣言しなくていいの。紋ちゃんは、傷の手当てをするから早く中に入りなさい」


桃代に治療を受けているあいだに、桜子は食事の用意をしてくれる。

龍神は台所の窓から顔を覗かせ、桜子と話をしながら出来上がりを待っている。

あんなに怖がっていたくせに【龍神君】って、それに対して【さくらちゃん】って、おまえ等は何時いつの間にそんなに仲良くなったんだ?


ぷぷぷっ、龍神と桜子、禁断の関係。

そんなバカな事を考えていると、桃代に見透かされたようで【つまらない事を考えないの】っと怒られて、怪我した件を説教された。


治療が終わると同時に食事も出来上がり、またしても棒と板でテーブルを作ると、そこに出来上がったモノを並べて外での食事。

龍神に配慮をしての事なのかもしれないが、どうして俺まで付き合わないといけない?

俺はテーブルの上にある龍神の食い物に、デスソースを振りかけてやりたくなった。


腹が膨れて満足した龍神は、鱗をピカピカ光らせて自分の棲み処に戻って行くが、そのうち誰かに見つかる気がする。


龍神が居なくなり、片付けをしている時にスマホが鳴ると分家のざいえんからで【明後日の午後に、分家の人間を集めるので時間を取って欲しい】との事だった。


事の顛末を説明しないといけない。

それは桃代に聞いていた。

ただ、どういう風に、何処どこまで話せばいいのか、いまいち考えがまとまらない。


できれば、桃香の事を話したくない。

俺の前世の話など、信じてもらえるとは思えない。

悩んでいる俺に、桃代が何事かと聞いてきて、顛末の説明をどうするか、どう話せばいいのか相談する事にした。


「そうね~ 桃香様に対する心情的なモノもあるから、今となっては話し辛いわね。中には桃香様を悪く捉える人が居るかもしれない。そうなるとわたし達の気分が悪いからね。ねぇ、桜子の婆様は何か言ってた?」

「どうなんでしょう? ばあちゃんは当時の話をあまりしないですから。ただ、親父は酔っ払いの自業自得だって、仏壇にお酒を供える事はないですね」


「桜子、おまえは婆さんの態度や話を見聞きして、何か感じるものはないのか?」

「うぐっ、紋次郎君って割としつこいね。あんまりねちねちしてると桃代姉さんに嫌われるよ」


「う~ん・・・まぁいいか。分家の連中だって代々にわたり、大蛇おろちと桃香様の恩恵を受けて財産を築いたくせに、不満があるのなら自分の先祖に言うべきだよね」

「問題をややこしくしたのはハブの助だろう。腹立つからアイツに責任を押し付ければいいだろう。どうせ一世代前の分家の代表も、アイツに加担して甘い汁を吸ってたんだから」


「そうね、そういう事にしましょう。実際そうだし。それから当主の交代を話すのは最後にね。そうしないと、紋ちゃんの発言に従わない連中が出るからね」

「なんで? バカな分家とは縁を切っただろ。まだ反旗を翻す奴らが居るのか?」


「まぁ見てなさい。欲に溺れた人間は平気で理不尽な事を言ってくるから。それが、長年続く本家と分家のしがらみよ」


俺には桃代の言う事が、あまりピンとこなかった。

ただ、当日に桃代の意見をたりにするとは、この時の俺は思わなかった。


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