第134話 建築

龍神はおどおどしながら、杭を立てた理由を話し始めた。

俺は、とばっちりが来ないように、おとなしく龍神の話を聞いている。

桃代は眉間にシワを寄せて、静かにしている。

桜子は龍神と桃代に怯えて、おどおどが二乗している。


「じゃから燃え尽きたあと、ここに土をかぶせるけぇ、誰にも踏まれたくないんじゃろうと思おて杭を立てたんよ。紋ちゃんの考える事は、ワシにはよう分かるけぇね。そんで出来れば、こがいな無味乾燥な塚でなく、花の咲くええ感じの塚にしたろう思うたんじゃ」

「おい龍神、俺をバカにしてんのか? アイツはバカだから思考が読める。そう聞こえるぜ」


「なあ紋ちゃん、ワシは間違っとる?」

「いや、間違ってない。実際に俺はバカだし、塚は無味乾燥な感じがする。でも仕方がないだろう暗かったんだから。だから、きれいにしようと思って今日来てみれば、おまえが手を加えてるし、これは何って聞けばふざけた事を言うし」


「そいつはすまなんだ。紋ちゃんに確認するべきじゃったのう。でものう、桃香さんの為に、ワシも何かしたかったんじゃ。ワシが一番あの人に迷惑を掛けたからのう」

「そうだな、おまえが一番迷惑を掛けたよな。おまえが! 前世の俺を喰って、桃香に寂しい思いをさせて、おまえが!」


「うん、まあ、そうなんじゃが・・・紋ちゃん、ワシをいびっておもろいか?」

「まあいい、おまえにも手伝わせてやる。元々神社の再建をするのに、手伝ってもらうつもりでいたからな」


「んっ、ちょっと待って。神社の再建って、紋ちゃんの頭の中ではどうなってるの? まさかと思うけど、山から木をり出して、自分で建てようとしている?」

「そうだけど、何かヘンか? なんでも屋に入る前は、建設会社でバイトをしたことがあるからな」


「マズいですよ桃代姉さん。紋次郎君が突拍子もない事を言い出して、変なヤル気を出してます。絶対にろくでもない事になりますよ」

「そうね、建設会社っていってもツルハシで穴を掘ってただけだし、しかも一週間でクビになったのよ」


「なんでクビになったんですか? 紋次郎君、そこでも死体を掘り起こしたんですか?」

「そうじゃなくてね、紋ちゃんは、そこで不発弾を掘り起こしたのよ。それなのに岩だと思って取り除く為に、周りをツルハシで掘り進めたらしくて、手元が狂ったらドカンだったんだって」


「うわ~っ、ダメじゃないですか。ろくでもない事で済みません。この辺一帯、大きなクレーターになりますよ。まさか、それでわたしを監視につけたんですか?」

「そう、ごめんね。紋ちゃんを一人にしておくと、何をやらかすかわからないから。ねぇ、紋ちゃんが考える再建プランを教えてくれない」


「なんで? 力仕事なんだから、桃代は手伝わなくてもいいぞ」

「いいから、紋ちゃんの考えを理解しておかないと、必要な物を揃えられないでしょう」


俺の考えはこうだった。

真貝の所有する山で杉の木を見つけて、切り倒したあとは龍神にここまで運ばせて、来年までは乾燥させる。

それを建材に加工して、俺と龍神で建てればいい、幼稚で安易な考えだった。


建設プランを聞いていた、桃代と桜子の眉間のシワがどんどん深くなっていき、呆れた顔に変わるとタメ息をつき、桜子がキツい口調でダメ出しを始めた。


「紋次郎君って、もしかして大工さんの事を舐めてる? 神社なんて、そう簡単に建てられる訳ないでしょう」

「ふっ、見てろよ桜子。紋次郎、とっておきの技を見せてやる。おまえも覚えてるはずだ。なんでも屋に居た時に、小さな家の建築依頼が来た事を。俺が一人で立派な家を作り、感謝されただろう」


「小さな家?・・・・・・紋次郎君、もしかして犬小屋の制作依頼の事を言ってる? 出来上がった棺桶みたいな犬小屋を見て、飼い主は家ごと埋葬してあげられるって、喜んでいたけど、犬の方は迷惑そうな顔をして、後ろ足で砂を掛けてたじゃない」

「ちがッ、あれは犬も喜んでかけ回っていただけだ。あの時、おまえは犬を怖がって俺一人に押し付けたのに、文句を言うな」


「あのね~紋ちゃん、神社と犬小屋を一緒にするとバチが当たるわよ。自分の力で建てるのは構わない、わたしがサポートするから。それよりも塚の方を仕上げましょう。何時いつまで経っても進まないから」


桜子が余計な事をバラした所為せいで、俺は龍神にまで疑惑の眼差まなざしを向けられて、いたたまれない。


それでも、桃代のアドバイスで塚のまわりに適度な大きさの石を並べる。

この石で、塚の砂が雨で流れないようになる。拡散しないようになると教えられた。

次に、塚の土を板で叩いて固める。そうすると、風で砂が飛ばないようにと教えられた。


それが終ると、線香を供え桃香の冥福を祈る。

ここまで、ほとんど桃代の主導で進み、神社を建てようとする、俺に対する信頼感は薄らいだ。


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