第95話 双子
桃代の態度がどうも気になる。
よほど嫌っていたのだろう。
少なくともここで一緒に暮らしていた血縁なのに、春之助に対して他人事だ。
どちらかと言うと、自分の母親の蘭子さんも嫌っている節がある。
では、俺の母親の菊江に対しては、どうなのだろう?
「なあ桃代、おまえは蘭子さんと菊江が、二人で当主を務めていたことを知ってたのか?」
「知ってる訳ないでしょう。紋ちゃんが
「まあ、そうだよな、桃代が小学校低学年の頃だからな。でも菊江の事は知ってたんだろう?」
「まぁね、ここに来て、マミーと打ち合わせをしてたから会った事はあるよ。気持ちの悪いくらい、そっくりな顔をしてたわね」
「あの二人って、桃代から見てどんな人なの? 仲が悪かったって聞いたけど、そう辺はどうだったんだ?」
「まあ、マミーに関しては数十分早く生まれただけで、千年も続く厄介事に縛られたくなかったんでしょう。菊江さん自身はよく知らない。とにかく、あの二人のことはあまり話したくない。紋ちゃんも知らなくていい事まで、知ろうとしないの」
なるほど、桃代が隠していることは、この辺りの事情なのだろう。
桃代が話したくない理由は、過去の俺に気を遣っているからだと思う。
「じゃあいい、なあ桃香、春之助が苦肉の策で蘭子さんと菊江を当主にして、なんの問題があったんだ?」
「ごめん、もんちゃん。それをこの場で話すのは少し
なるほど、桃香の方は俺の死を願う当主が居たことを他の人に知られたくない。だから、二人の当主に関しても話したくない、そういう事なんだと思う。
考えろ紋次郎、双子だから公平に当主にした、それで何の問題が起こる?・・・・・
あっ、そうか、そのあとだ! 次の後継者が問題なんだ。
普通に考えれば蘭子さんの
そうすると、分家を巻き込んで争いが起きたり、権利や財産も割れる恐れがある。
欲深い老害当主がそれを阻止する為に、俺の死を願ったと考えれば辻褄が合う。
気持ちはありがたいが、桃代も桃香も俺に対して気を遣い過ぎだ。
龍神の
死を願われたくらい、
変に気を遣われるくらいなら、御神体の桃香の件が解決した
「桃代さん、明日なんだけど、御神体の桃香と会う前に、仏間の遺影を全て廃棄するから、そのつもりでいてくれ」
「急にどうしたの? その件は前に聞いてるから構わないけど、もう話はいいの?」
「んっ、もういい。自分なりに納得できたから。あとは、御神体の桃香と面の桃香を満足させたら俺の役目は終わりだ」
「やめてよ、まるで明日死んじゃうみたいな言い方じゃない。龍神様のこれからを含めて、まだやる事がたくさんあるんだからね」
「わかってるって。俺の当主としての役目が終る、そういう意味だ。この件が片付いたら、桃代が当主に返り咲け。もともと俺は当主の器ではない」
「う~~っ、なんかヤだ。紋ちゃんが、よからぬ事を考えている気がする。ねぇ明日の策は、どういう策を考えてるの?」
「ふふふ、俺の完璧な作戦を聞きたいか桃代? でも聞いたが最後、桜子まで俺に惚れてしまうぜ」
「おっ、自信だね~ ねぇねぇ予行演習を兼ねて、この前みたく実演してくれない」
「イヤ、それは遠慮しとく。俺の
「ふ~ん。ねぇ、紋次郎君。実演はしなくていいけど、その作戦名とかはないの? もしあれば、それだけでも教えてくれない」
「そうだな~特に考えてなかったけど、あえて言うなら【なんとかなる当たって砕けろ作戦】どうだ、俺らしくてカッコいいだろう」
「あ~やっぱり紋次郎君だよね、その作戦名。桃代姉さんと桃香様はどうします? 紋次郎君は明日砕け散るつもりですよ」
「おい桜子、失礼なことを言うな。散るなんて言葉は
「あのね~紋次郎君、当たって砕けたら、あとは散るだけなんだよ。ちょっと考えればわかるでしょう」
「あれ? そうなの? 相手が腰砕けになれば、俺が優位になる作戦なんだけど」
「何か違う。全部違う。説明するのも面倒くさい。桃代姉さん、あとは任せます」
「紋ちゃんは今回の策に、自信があるんでしょう。だったら思い通りやればいいよ。わたしは紋ちゃんの相手を思う気持ちを応援しているからね」
なんだ? 急に桃代が俺に理解を示している・・・気がする。
何かやらかすつもりなのかもしれない?
しかし、御神体の桃香の問題は、俺以外の誰にも解決できない
俺はいろいろ深読みし、桃代の表情を読み取ろうとするが、コイツが何を考えているのかさっぱりわからない。
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