第91話 推測

何やらイヤな予感もするが、龍神を放っておく訳にもいかなので、ヤツの処遇を考える。

邪悪な大蛇おろちから龍神に成り上がり、暴れる事はないとは思うが、ヤツの制御が出来る逆鱗は手元にない。

俺は、力加減の分からない大きな虎にじゃれつかれている。そんな気分になってきた。


龍神が荒ぶる神にならないように祈るしかない、神様に対する、神頼み。


「なあ龍神、ここに居るのはいいけど、いきなり豹変ひょうへんして人を襲ったりするなよ。おまえに二度も喰われるのはイヤだぜ」

「はァ? どうゆう事かいのう? ワシは紋ちゃんを喰うた事はないじゃろう」


「あのな龍神、俺も知らなかったけど、千年前おまえが喰った桃香の思い人・・・・アレな俺の前世みたいだぜ」

「はぁ? まさか? そんな訳ないじゃろう。そもそも前世なんてわかるはずがない。何処どこのインチキ占い師が、そげなアホな事を言うたんな?」


「誰がインチキ占い師だって・・・ポチ」

「誰じゃい、いまポチって言うたんは! ワシは龍神様、一応は神様じゃからのう。その言い方はようないで」


「ポチ、わたしの声を忘れたの? 龍神にったからってうぬぼれてると、またあごを切り落とすわよ?」

「えっ? 誰? 今の声は紋ちゃんや桃代ではないな、そこの桜子とも違うし、ワシのあごを切り落としたんは・・・えっ? 桃香さんがここにおるんか?」


「あなたが黙ってここを抜け出した時、行商人の商品を食い散らかして、わたしがどれだけ謝ってお金を払ったか・・・しかも、商品の鯖にあたって寝込むから、看病までしてあげたのに。それなのに、インチキ占い師ですって!」

「えッ! 紋ちゃんがぶら下げとる面が喋っちょる。えっと、もしかしてあんたは桃香さん?」


「ポチ、やっと気が付いたの。あなた、あの時お腹が痛いって、一晩中泣いてたわよね」

「えっと、桃香さんその話はやめて頂けると・・・いまのワシには神様としての体面メンツがありますので」


「おい龍神、おまえは本当にアニサキスにあたったのか? 桃香に看病までしてもらったのか?」

「うっ! だって、ワシは初めて食うた海の魚がフグで、酷い目に遭ったから、一度旨い海の魚を食うてみたくて・・・でも約束通り人は襲わんかったんで・・・」


阿呆あほうッ、襲わなくても、おまえが突然出て来て商品を食い散らかしたら、その行商人は、死ぬ程怖ろしかったはずだぜ」

「うっ、悪い事をしたのう。ワシも一応は【商品みせてなぁ】言うて、断わったんじゃけど」


「更に阿呆あほうッ、デカいヘビが、そこいらのおばちゃんみたいな言葉で、知らない人に話しかけるなッ」

「うっ、一声ひとこえを掛けるのが礼儀じゃと思うたのに、そがぁに怒らんでもええじゃろう」


「この子ったら、そんな感じで誰にでも一方的にじゃれつくから、わたしはしつけの出来てない犬と同じ扱いで、ポチって呼んでたの」

「バラさんでくれ桃香さん。あれからワシが変わったんは知っとるじゃろう。それより、なんで桃香さんが面に乗り移っとるんね」


「龍神おまえ、無理に話題を変えようとして・・・まあいい、よく聞けポチ!」

「うっ、紋ちゃんにまでポチって言われてしもうた」


俺と桃香は、これまでの経緯いきさつを龍神に説明し、これから起こる御神体との対決に関与しないよう釘を刺した。


「へぇ~~ワシがおらんようになってから、そげな事があったんかい。でも、ええの? ワシが手助けをせんでも?」

「変な気を遣うな、気持ちが悪い。おまえには桃代の件で助けてもらった、それで充分だ。ありがとうな。この先は、俺と桃香の問題だ。それさえ終われば、残りの問題は些細な事だ」


「ねぇ、紋次郎君、残りの問題ってなんなの? まだ他にも問題があるの?」

「桜子、おまえは引き続き傍観者でいろ。その方がおまえに危害が及ばない」


「ねぇもんちゃん、その問題はわたしにも言えない事?」

「ん~んっ、まあいい、必要になれば助けを求める。だからそれまで余計な手出しをするな。今回の件で、俺はいくつか納得してない事がある。もしかすると黒幕がいる。そんな気がする」


「もんちゃんは、何を納得してないの? 御神体のあの子と関係がある事なの?」

「いいかよく聞け。御神体の桃香が神社の中で言っただろう【俺を殺す相談をしていた奴らを始末した】って、奴らは三人居た。仮に御神体の桃香が両手で二人を気枯けがれさせたのなら、そのかんもう一人はどうして逃げなかった?」


「えっ! そこ! 紋次郎君はそこが納得できないの?」

「当たり前だッ、目の前に死の危険があるのに、土下座したまま待つバカがいるかッ。だから最低でももう一人、れの力を持つ奴がいる。俺はそう思っている」


俺がいろいろ考えた推測、なんの根拠も証拠もない。

でも、そう考えないと納得が出来ない。



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