第77話 実演

面の桃香と桜子に注意を与えて静かにさせたあと、実演の為の構想を俺は説明してやる。


まずは【御神体の桃香と遊園地に行き、夕暮れ時に二人っきりで観覧車の中にいる】そんなシチュエーションを想像してもらう。

そして、観覧車が一番高い場所に来たところで、俺は桃香の肩を抱き寄せて、夕日を見ながら話し掛ける。


そういう設定なので、代わりに桃代の肩に手を置いて引き寄せると、実演してみせる。


「ほら桃香、夕日がきれいだろう。よくれた桃みたい」

「えっ? う、うん、まあ、わからなくはないけど、夕日を桃にたとえる人は初めて」


「そうかそうか、桃香にとって、俺は初めての人か?」

「えっ? う、うん、まぁ、桃の方に引っ張られて、意味がおかしな方にズレてるけど」


「だからねモモちゃん、夕日が沈んで暗くなる前に、れた桃が木から落ちる前に、帰ろうか? あの世へ・・・ ・・・ ・・・」

「・・・ ・・・ ・・・ まさか、これで終わりなの? そんな訳ないよね。このあとはどうするの紋ちゃん」


「ぐっ、いいか桃代、これからだ。俺と桃香が夕日を見てると、一番星を見つけて、それが流れ星になる。そして俺はこう言う。流れ星に祈ると願いが叶うと言われている。桃香、おまえも早く生まれ変われるように祈るんだ」

「紋ちゃんさァ、いい加減にしないと、一番星は金星だよ。金星が流れる訳ないでしょう。出てくる方角も違うし。そもそも紋ちゃんが、桃香様の願いを叶えるんでしょう。それなのに星に願ってどうするの?」


「紋次郎君、テレビやスマホで天気予報は見たの? 超大型の台風が接近中で観覧車が動く訳ないでしょう。夕焼け空だってあやしいわよ」

「うっ、もんちゃんは千年前と何も変わってない。わたしに楽観視するなって言いながら、もんちゃんの頭の中はお花畑で、春の蝶々が飛んでるみたい」


「ぐっ、違う! 今のはおまえ達の反応を見ただけ。本当はもっと気の利いた台詞がある。ただ、ちょっと恥ずかしくて言えなかっただけだ」

「じゃあ、最初からそれを言いなさいよ。わたし達は紋ちゃんが恥ずかしくないように、目をつむっててあげるからね」


あれ? どうしよう、ロマンチックな状況で、優しく声を掛ければ、女の子は喜んでくれる。

そう思っていたので、俺は他には何も考えてない。


何も言わない俺に対し、しびれを切らした桜子が、痛い所を突いて来た。


「紋次郎君、もしかしてだけど、今のが全てで、他には何も考えてないんでしょう」

「・・・ ・・・ ・・・」


「そうなのもんちゃん? そんな事ないよね。いくらなんでもアレだけでは、あの子は成仏しないわよ。逆に怒って、もんちゃんをれさせそう」

「・・・ ・・・」


「桜子も桃香様も、紋ちゃんを責めないでください。紋ちゃんには女の人に対する免疫がないんです。いい雰囲気の中で優しく言葉を掛ければ、女の子は喜んでくれる。そう思い込んで、それ以上のスキルを持ってない、ただの正直バカなんです」

「・・・」


優しくかばってくれてるはずの桃代の言葉が、俺には一番堪こたえた。

桃代の言う通り、女の人に対する免疫やスキルを、俺は持ってないのかもしれない。


じゃあ、どうして桃香や桃代は、俺にこだわる?

俺の事は放っておけばいいだろう。

自信をなくして下を向いてる俺に、今度は子供をあやすように桃代はかばい始めた。


「紋ちゃんは今のままでいいのよ。変にかしこくならないでね。バカだけど正直者で、相手を大切に考える。そんな紋ちゃんだからこそ、桃香様は千年も思い続けてくれたのよ」

「う~ん、確かに桃代の言う通りね。もんちゃんはこのままでいなさい。あの子の不満を満足させるのに、聞きたい事があればわたしに聞きなさい」


「う、うん、桃代も桃香もありがとう。自信はないけど、もう一度考え直してみる」

「その方がいいわよ紋次郎君。紋次郎君は恰好をつけない方がいい。素で接した方が上手うまくいくよ」


桃代と桃香、そして桜子、三人ともなぐさめたあとめてくれる。そして力になろうとしてくれる。

しかし、俺は自分が全否定された気分だ。

仕方がないだろう、俺は今まで浮いた話もなければ、デートをした事もないんだから。


取りあえず、いったん策は保留にする。

これ以上は、ここで考えても良い案は浮かばない。

それよりも、散歩をしながら気分転換をすれば、他に良い案が浮かぶかもしれない。


それから、明るいうちにもう一度神社の様子を確認したい。


あとは、御神体の桃香の方も大事だが、面の桃香の方にも何かしてやりたい。



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