第75話 くだり道
桃香は俺の言い分に、あっさりと納得してくれた。
俺を好きにしろ。
その覚悟が、なかなか威力を発揮したのかもしれない。
そして、包帯から
それまで、桃香が
母屋に滞在するよう声を掛けるが【
桃香がいなくなり、俺はいま一人で山頂に立っている。
えっ! この暗い山道を俺は一人で家まで帰るのか? なんて情けない思いが頭をよぎる。
風による木々のざわめきにビクビクしながら、一人で山道をくだる。
いざという時の為に途中で長めの棒を武器として拾うが、
Tシャツと短パンの野郎が、両手両足に包帯を巻いて、体中に絆創膏やガーゼを貼ったまま、暗い山道を杖をついてヨロヨロしながらおりてくる。
もしも、この状態で誰かと遭遇すれば、そいつは俺を見て、なんと思うのだろう?
宇宙人に連れて行かれ、UFOの中で妙な人体実験を受けたあと、山に捨てられたと思うのではないか。
そこで、千年前の
なんて事実を語ると、気の毒な顔をされるか、救急車を呼ばれるだろう。
まあ、実際には、一目散に逃げられるのが一番確率が高いと思う。
暗く、薄気味悪い山道が怖いから、バカな事を考えて気を紛らわす。
どちらにしても、この情けない姿を誰にも見られたくない。
現実逃避の為に、訳のわからない事を考えながら、やっとこさ山道をおりてきた。
この先には、我が家がある。
早く布団の上で横になりたい。
俺は片手に杖を持ったまま、片手で鍵を取り出して玄関を開けようとする。
しかし、鍵穴に鍵を差し込む直前に、手首をぎゅっと掴まれた。
えっ! 突然掴まれた俺の右手、多少の事にも慣れてきた俺の心臓も、この時ばかりは一段と大きく動いた。
誰の手?
まさか! 本当に宇宙人? 俺は今から人体実験をされるのか?
バカな俺は、まだ現実逃避を続けていた。
勇気を出して出処を見ると、その手は玄関前で仁王立ちをしている桃代の手だった。
「桃代、驚かすなよ。ビックリするだろう」
「・・・ ・・・ 紋次郎」
「あの~桃代さん、早く眠りたいので手を離して頂けると、ありがたいのですが」
「・・・紋次郎、
「モモちゃん、ちょっと怖い。オイラ、何もやましい事はしてませんぜ」
「紋次郎、わたしにウソは通用しないよ。正直に言わないと
「
「だって~~ 様子を見ようとお布団にもぐり込んだら、紋ちゃんが居ないんだもん。わたし以外の誰かのところに、
「あのな~
「えへへ、まあ、
「え~っと、眠たいから起きたら話す。桃代も早く寝た方がいいぞ」
「紋ちゃん、御神体の桃香様と会ってたんでしょう。もう、何があったのか起きたらちゃんと話しなさい」
「桃代さん、なんでわかるの? そういえば、
「紋ちゃんの行動は、まるわかりよ。わたしに隠し事は出来ないの」
桃代は全て
しかし、
それよりも、段差に
桃代に支えられて静かに中に入ると、桜子を起こさないように洗面所で手を洗わされる。
俺は小さな声で桃代にお礼を言うと、やっと布団の上で横になれた。
頭の下に両手を置いて、天井を見ながら、桃香を満足させる方法を俺は考える。
しかし、満足させる方法、その策がまだ出来てない。
桃香の言う通り、俺の考えは行き当たりばったりなのかもしれない。
隣を見ると、桃代が静かに寝息を立てている。
なんて寝つきの良いヤツなんだ。
お腹が冷えないように、俺は薄い布団を掛けてやる。
・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・えっ!
桃代のヤツ、ドサクサに紛れて、一緒の布団で寝ていやがる。
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