第66話 焼き芋

俺は荷物をかかえて祭壇のうしろに隠れると、音を立てないようにしている。

身体からだの無い面の桃香が扉をひらくのは無理だ。

しかし、実際に扉のひらく音がする。


当たり前だが、身体からだが無い面の桃香がオッパイを見せるのは無理だ。

そんなふざけた桃香が焦る口調なのだから、かなり危険な状況なんだろう。


扉がひらき終わると、小さな足音が聞こえる。

それと同時に風が吹き込み、い匂いが漂ってくる。

腐乱臭ではないし、ナフタリンの匂いでもない。何処どこかでいだことがあるい匂いだ。


何処どこいだ匂いなのか? 思い出そうとしていると、面の桃香が御神体の桃香に話し掛けた。


「どうしてここに戻って来たの?・・・ ・・・ダークピーチ」


ぐッ! あのヤロウ、俺を笑わそうとしてるのか? いま吹き出しそうになったぜ。


「なんじゃ、その呼び方は? 頭の中がお花畑になったのか?・・・ ・・・ピーチ仮面」


ぐッ! コイツもか、しかもその表現、意味が微妙に合致してるところが腹立つぜ。


「まあよい。このあいだ、そこで紋次郎に会った。われに声を掛けながら走り去った」

「それがどうかしたの? そんなことを言う為に戻って来たの?」


「キサマの悔しがる顔が見たくてな。われはそれ以来、紋次郎に会う為に毎日ここに来ておる。一昨日もここに来たが、紋次郎を殺す相談をしておる者を見つけて、始末をしておいた。われに感謝することじゃ。ピーチ仮面」

「あなたッ、何人殺せば気が済むの? そんな事ばかりしてると、もんちゃんに嫌われるよ」


「知った事か、われが生れたのは勝手な願いばかりする人の所為せい。それはそういう人を始末せよ、天からの命令じゃとわれは思う」

「変な解釈をしないでね、ダークピーチ。約千年、確かに嫌な事ばかりだったけど、わたしの役目は終わった。だから身体からだを返してよ」


「既にこの身体からだわれのモノ、キサマに返すわれはない! 魔外まがいつらなる全ての奴を始末したあと、われは紋次郎とげるつもりじゃ」

「そんな事が許される訳ないでしょう! 第一、もんちゃんは必ずあなたを止めるわよ」


「どうやって? われがその気になれば、紋次郎とて無事では済まん。それでもわれを止められるかな?」

「うぐッ、止められるわよ。そりゃあもう簡単に止めるわよ。もんちゃんはねぇ、あなたをかかえて空を飛び、自爆装置を起動させて空中爆発をしてでも、あなたを止めるわよ」


おいおいおい、どこぞのロボットアニメの最終回か?

俺は空を飛べないし、自爆装置も付いてない。


「ぐッ、まさか! まさかそこまで進化しているとは。紋次郎、やはりわれれた男なだけはある」


おいおいおい、今の話を信じるか?

そもそも、自爆装置が取り付く進化って、どんな進化だよ。


「あ~はっはは~ ダークピーチ敗れたり。そういうことだから、早く身体からだを返しなさい」

「・・・紋次郎。あのものと一緒に死ねるなら、それもまた千年前からの我等われらの願い。そうであろうピーチ仮面」


「あうっ、それは、それはそうだけど・・・でも、殺さないで、もんちゃんは見守るって、決めたじゃない」

「そうであったな、紋次郎の死を願う馬鹿な当主が居たからな・・・だが断る! やっと自由に動けるようになったのだ、われわれの好きにする」


あれ? ダークピーチが妙なことを漏らしたぞ。

俺の死を願った当主って誰なんだ? そうは言っても、候補は二人しか居ないけど。


「ダメだよ、大蛇おろちの監視をする役目も終わって、やっと成仏が出来るんだよ。早く死んで生まれ変わろう」

何故なぜ、生まれ変わる必要がある? 生まれ変わったその先に、紋次郎はおるのか?甘いぞピーチ仮面。われ今生こんじょうげる。その為に、らぬ進言をされぬよう、キサマに別れを言いに来た」


「そう、何を言っても、あなたは変わらないのね。あなた自身、わたしの不満を核に、他人の欲や自分勝手な願いの権化だものね。精々せいぜいもんちゃんに嫌われなさい」

「ちッ、最後まで嫌味な女よな。まあよい、キサマの希望通り死ぬがよい。われを縛り続けたこの神社ごと燃やし尽くしてやるわッ」


あれ? 不穏なことを言いながら、いまダークピーチが出て行ったぞ。

あれ? この状況で嗅ぎたくない、灯油の匂いがしてきたぞ。

あれ? 確かに俺は、ふざけた桃香の面に、焼き芋を焼く燃料にするとおどかした。

まさか? 焼かれる芋は、俺だったのか?


俺はミイラになる運命ではなく、焼き芋になる運命だったのか~~~~ッ。



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