第35話 餌
帰り際、桃代と二人で神社の中を覗くが、やはり御神体はいなかった。
幼い頃の話をしながら母屋に戻り、桃代が電話をするのに居間から出ると、俺のスマホにも着信があった。
スマホの画面には
それに関しては、逆鱗の写真を見せる約束だから問題ない。
奴らの出方を探る、チャンスかもしれない。
俺は二つ返事で了承した。
桃代にも分家が来ることを話して、念の為に軽く打ち合わせをしておいた。
まずは、第一の正念場になるかもしれない。
打ち合わせが終わると、
まあ、確かに【昔のように俺を子分として扱う気は無いんだな?】そうは言ったが、本当に子分扱いするとは、油断のならないヤツ。
次の日の午前中、俺は確かめたい事があるので、桃代を残して、また
あざみ商店の前まで行くと、店先で
あとあと面倒くさい坂道を俺が
俺を見ている
【お
たかが数十円の為に、借りを作りたくない。
もちろん、それ以降ケチな男と決めつけられて、誰も俺を食事に誘わなくなった。
俺は包装紙をゴミ箱代わりの一斗缶に捨てると、
「あ、あの~紋次郎さん・・・」
「あっ、そう、そう、和尚さんが亡くなったんだって、
「へっ、あ、あ、そうですね、参列しましたよ。さすがに寺だけあって滞りなく。ただし最後のお別れの対面は、なかったですが」
「ふ~ん、お別れの対面がないのは、この辺の風習なんですか?」
「いえ、そういう事ではなく、
「ふ~ん、
「うっ、紋次郎さん、その事はご存じなのですか?」
「そりゃあ知ってますよ、だって当主ですから。ただね、俺が当主になる前に御神体は盗まれたみたいじゃないですか。誰ですかね、そんなばち当たりな事をするヤツは? もしかして、山に消えた蘭子さんだったりして」
「そんな訳ないでしょう。紋次郎さん、恐ろしい事を言わないでください。蘭子さんは死んだんですよ。山狩りをして死体で発見されたんですよ」
マズい! 桃代に聞いた事とは違う、想像以上の話が出てきた。俺は驚いてガリガリ君を落としそうになった。
おかしい?
桃代が俺に嘘を教える理由もない。
なんだ? この突然出てきた気持ちの悪い食い違いは?
ただ、ひとつ確かな事もある。
そうでなければ、分家筆頭の
念の為に、事実の確認だけはしようと思う。
「ごめん、ちょっと不謹慎だったよね。お詫びと言ってはなんだけど、これからちょくちょく買いに来るよ」
「いえ、そんな紋次郎さん。でもまあ、お待ちしております。それと、こんな事を言うのは失礼なんですが、分家の連中には気を付けください」
「いいね~
「いえ、紋次郎さんのお役に立てれば幸いです。早く御神体様が見つかるように、私も祈っております」
俺は食べ終わったアイスの棒を、一斗缶に捨てる。
今回はハズレだった。
桃代との約束まで、まだ時間がある。
俺は急いで役場に向かい自販機で缶コーヒーを二本買うと、この前と同じおばちゃんに案内をしてもらい郷土資料館に行く。
中に入ると、古い地方新聞を読み始める。
おそらくこれの事だろう。
おばちゃんに缶コーヒーを差し出すと、俺は仲良く雑談を始める。
おばちゃんのふくよかな胸にある名札を確認すると、分家の人間の名前ではない。
しかし、この狭い田舎だ、どこでどう人間関係が繋がっているのか分からない。
それでも、俺はこの人の笑顔が気に入り自分の素性を告げると、おばちゃんは複雑な表情になりジロジロと俺を見始めた。
ヤバい、失敗した、警戒されてしまった。
そんなふうに考え始めたら、おばちゃんは俺の肩を叩いて懐かしそうに話を始めた。
「いや~あんたが紋次郎ちゃんなんだ。わたしはあんたのお母さん、菊江さんの同級生なんだよ。菊江さんと蘭子さんは残念なことになったけど、あんたと桃代ちゃんがいれば、真貝の家は安泰だね」
「えっと、お、
「紋ちゃんあんた、いま私の名札と、私の
「いえいえ滅相も無い。そんな失礼な事は思ってないです。それに
紋次郎、
この人が
それなのに、おばちゃんったら、俺の言うことを
俺は・・・帰り支度を始めた。
「ちょ、ちょっと待ちなさい。紋ちゃんは何か知りたい事があって、ここに来たんでしょう。私が教えてあげるから何でも聞きなさい。私はあんたの味方だよ」
「味方? どういう意味です
「まあ、私くらい情報通になると、色んな噂を知ってるからね。なにせ役場におると暇な爺さん婆さんが、談話室で
「そうですか。でも、ここで話した内容は、二人だけの秘密にしてくださいね」
「も~う、二人だけの秘密だなんて、なんかドキドキするでしょう。紋ちゃんったら意外と女殺しだね」
俺は
殺人衝動を我慢して、今回聞いた話だが、まだ噂話の
確認しづらい話もある。
俺の母親と桃代の母親は、双子なのに仲が悪かった。
そんな話を、母親の同級生から聞きたくなかった。
これに関しては、あまり積極的に裏付けを取らなくてもいいと思う。
あまちゃんに二つ食べられても、ひとつは死守する為だ。
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